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記者の視点
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患者の暴力・暴言への対応
必要な医療提供側の組織的対応
2008.1.23
月に1度、近所の診療所を受診する。かかりつけ医だと思っているし、相手方の医師にもその認識はあると思っている。数年前のことだが、3カ月続けて投薬を間違われた。
3カ月目は、前2カ月のことがあったので、窓口で処方薬を確認したところ、やはり間違っていた。怒りがこみ上げ、窓口で思わず大きな声を出してしまった。以来、窓口の女性事務員は私に対応するときにはカウンターからこころもち距離を置くようになった。
間違いはあまり年齢の違わない同姓同名の患者がいるために起こっていたことを後で知ったが、それきり「クレーマー患者」として遇されている印象が拭(ぬぐ)えない。
患者の医療者への暴力や暴言が問題になっている。大阪府が昨年11月末に開いた2007年度医療相談等連絡協議会では、この問題が取り上げられ、2000年以降、医療従事者からの相談件数も増加傾向にあること、医療提供側はもっと自らの側からの情報発信をしていくべきだとの意見も出された。
◎ 相談件数は氷山の一角
特定非営利活動法人(NPO法人)ささえあい医療人権センターCOML(大阪市)は、こうした医療者側の相談を06年から受けている。
「医療者のホンネと悩みホットライン」で、06年には10月に3日間25時間を充て、集中的に相談を受けた。昨年も10月に土曜日、日曜日の2日間実施し、18時間を充てた。COMLは、一昨年の実施の際には相当数の相談があることを予想、弁護士を含む5人の態勢で対応準備を進めたが、相談総件数は26件にとどまり、昨年は日程を縮めたこともあって、相談件数は16件でしかなかった。
相談件数の少なさが、患者対応で医療者が悩んでいる実相を映すものでないことは自明である。
◎ 患者の怒りの多様性に目を
COMLは通常、患者や家族などの電話相談を受けているが、その通常相談日にも、医療者からの相談が入ることがある。その件数は以前は月1件程度だったが、ここ数年は5〜6件となっている。相談を受けるCOMLの山口育子さんは、ホットライン相談では「ほとんどの問題がかなり深刻化している。切羽詰まって相談してきたケースが多く、転職を前提に訴える人も多い」との印象を示す。また、どうして相談する気持ちになったかを聞くと、「相当に逡巡(しゅんじゅん)した。何度か相談するのをためらった」と多くの人が漏らす。まさに相談しているケースは氷山の一角でしかない。
さらに実際の電話相談の内容をみると、患者の暴力・暴言そのものにも一定の嫌悪感や不安感が示されているものの、実は悩みの中心はそれに対応するべき医療機関の組織対応の脆弱(ぜいじゃく)さに対する絶望感が大きいことがわかる。
相談内容をみると、「職場環境や上司・部下について」が6件、「患者・家族」3件、「医療制度や体制の問題」3件、「内部告発」2件などとなっており、相談者は看護職9人、医師3人、医療事務3人で、看護職が多い。相談事例では待遇面の不満なども交じり、本質的には組織対応の問題に集約されるケースが多いとの印象を持つ。事例には「振り向きざまに殴られたが、病院には反省文を求められた」と、いきなり殴られた理由すらわからないのに、「患者さま」中心の不条理な対応への怒りも交ざっていた。
患者の暴力・暴言についてはメディアの関心も高い。患者行動を再現ドラマ化するような番組もあるが、相談者の悩みの軸はそうした刹那(せつな)的な情報発信で軽減が期待できるようなものではない。治療や看護への過剰な期待、医療の不確実性に対する認識の薄さなど、患者側にも多くの問題があるが、医療提供側の対応標準化作業の遅れや、責任の所在の不明確さなどが現場でのトラブルを増幅している。特に、対応を探る際には、「患者の多様性」の前提を置くことが必要であるように感じる。
かかりつけ医の診療所で「怖い患者さま」のイメージを植え付けてしまった私も、大きな声を出したことは反省しつつも、「本来なら最初の投薬ミス時点で、再発回避策を取るべきだろう」という疑問が消えない。「怒る患者」にも多様性がある。振り向きざまに殴る患者もいれば、投薬ミスが改善されないことにいら立つ患者もいるのである。(大西 一幸)
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