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日本のキリスト教徒 増えぬ理由


 『メイド・イン・ジャパンのキリスト教』(トランスビュー)という本が昨年刊行され、静かに版を重ねている。西洋の宣教活動から独立した日本人独自のキリスト教を分析した論考だが、世界宗教の土着化という問題を通じて「日本」を浮かび上がらせている。著者のマーク・R・マリンズ上智大学教授(51)に聞くとともに、「日本とキリスト教」を考察してきた古屋安雄・聖学院大学教授(79)に、なぜ日本でキリスト教徒が増えないのか、語ってもらった。

(植田滋)

「土着化だけでは不足」マリンズ氏


マーク・R・マリンズ上智大学教授

 アメリカ生まれのマリンズ氏は日本で育ち、1985年から再び日本に住む宗教社会学者。多くのキリスト教研究者と同様、〈なぜ日本でキリスト教は成長しないのか〉について考えてきた。日本のキリスト教徒が人口の1%を超えない理由として、よくキリスト教はバタくさく、土着化されていないからだと説明される。ならば、「日本人による土着運動を調べれば、それが事実かどうか実証できると考えたのです」。

 日本人が独自に展開するキリスト教運動は、内村鑑三の無教会主義を除き、これまでほとんど研究されてこなかった。著書では、松村介石(かいせき)の道会(どうかい)(1907年創設)や川合信水(しんすい)の基督心宗教団(27年同)など、主に6団体を分析している。

 これらの団体は欧米に根拠を持つ教会のような縛りがないだけに、日本人ならではの教義が強調される。そこから浮かんできたのは、「多くの団体が先祖崇拝を課題としていたことです」。


静かに話題を呼ぶ本「メイド・イン・ジャパンのキリスト教」

 例えば、イエス之御霊(みたま)教会(41年同)は、「身代わり洗礼」という儀礼を行う。生者が死者の代わりに洗礼を受けることで、キリスト教と無縁だった先祖も救われると考える。同教会は西洋の教会がほとんど関心を寄せなかった聖書の章句に注目したという。〈死者が決して復活しないのなら、なぜ死者のために洗礼など受けるのですか〉(コリントの信徒への手紙一)

 ほかにも、信者に仏壇に似た家庭祭壇を勧めたり、お盆の時に慰霊祭を行うなど、多くの教団が日本の宗教的慣習に適応しようとしているという。他方で儒学の講義のような無教会主義もあり、「土着化のパターンは多様でした。キリスト教のとらえ方はいろいろで、日本文化がいかに複雑で多様性に富んでいるかが分かりました」と言う。

 しかし、独立系の教団は創始者が亡くなると衰退する傾向が強い。欧米系の教団と比べても、信者は圧倒的に少数のままだ。「このことは、土着化すればキリスト教が広がるとは必ずしもいえないことを示しています。ある時期には土着化であっても、次の時代にはそうでないのです」。キリスト教に限らず、世界宗教が発展するには単に「日本化」するだけでは足りないこと、日本人も時代によって信仰の形態が変わることに目配りする必要があるということだろうか。

「インテリ経由の弱さ」古屋氏


古屋安雄・聖学院大学教授

 神学者の古屋安雄氏は、日本人のキリスト教受容を長年にわたり論じてきた。昨年も『キリスト教と日本人』(教文館)を出版している。

 氏は、日本のクリスチャンが1%を超えない理由をこう話す。「明治以降、旧武士=知識階級がキリスト教と結びついたために、庶民との間にギャップができた。欧米の神学を絶対視し、インテリが『量より質だ』と威張っていたことが、増えなかった一つの理由です」。韓国では今や人口の4分の1、中国も5〜10%がキリスト教徒といわれる。「韓国や中国は、まず庶民から広がっていったために着実に増えている」

 日本ではキリスト教のとらえ方自体にも問題があったという。「クリスチャニティをキリスト・教と訳し、チャーチを・教会と訳したように、キリスト教を教えるべき思想・イデオロギーととらえてしまった。このため教会は牧師中心の学校のようになった。だから信者は学び終わったら“卒業”してしまう」。古屋氏によれば、ある教会の調査では、洗礼を受けてから教会に行かなくなるまでの「平均信仰寿命」は2・8年だったという。

 その上で氏は言う。「福音というのは本来グッド・ニュースを意味します。うれしい知らせだから、お祝いに近い。結婚式に近い。ところが日本の教会の多くは暗く、堅苦しく、まるでお葬式になっている」

 現在、キリスト教は世界的に見ればアジア、アフリカ、ラテンアメリカでの成長が著しく、「信徒の60%がすでに非白人」(マリンズ氏)。「キリスト教=欧米の教え」という認識にある日本の特異性は、今後いっそう鮮明になっていくかもしれない。

2006年01月26日  読売新聞)

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