委員会決定

●FNS27時間テレビ「ハッピー筋斗雲」に関する意見


<放送倫理検証委員会>

  委 員 長 川端 和治
  委員長代行 村木 良彦
  委員長代行 小町谷育子
  委   員 石井 彦壽
  委   員 市川 森一
  委   員 上滝 徹也
  委   員 里中満智子
  委   員 立花  隆
  委   員 服部 孝章
  委   員 吉岡  忍

目  次
T はじめに
   
U 「ハッピー筋斗雲」の放送内容
   
V 「ハッピー筋斗雲」の問題点
   

W 問題点についてのフジテレビの回答

   
X 問題点についての委員会の判断
   
Y 結 論
   
T はじめに

 「ドッキリカメラ」は、テレビ放送が始まった頃の視聴者参加バラエティーから生まれた企画で、1970年代に入って番組として独立し人気を得た。出演者を予想もしない状況に追い込んで、そのあわてふためく姿を楽しませようとするものである。状況は出演者に内緒で設定され、隠しカメラがその一部始終を写し出す。人気番組となってからは、出演者は、テレビでの露出を一番に考え、そういった設定を納得できる芸能タレントを主としていた。しかし近年、ドッキリカメラはサプライズ企画等々と称してその出演者を一般視聴者にまで広げている。
 今回、FNS27時間テレビ「ハッピー筋斗雲」(フジテレビ 2007年7月28日放送)が放送倫理上の問題を指摘されるに至ったのは、この一般視聴者にドッキリカメラを仕掛けるに当たっての倫理に欠けるところがあったためである。また、こうした倫理の欠如は単に当該企画に止まらず、現在の視聴者参加バラエティー一般にも言えることなので、ここに問題点を明らかにすることとした。
 放送倫理検証委員会は、このサプライズ企画の対象となった人から放送倫理に関わる指摘を受け、2007年9月14日、FNS27時間テレビ「ハッピー筋斗雲」の放送内容、関係資料の検討を開始した。その結果、番組の企画・制作の在り方に放送倫理上の疑義があると判断し、番組出演者及び関係者へのヒアリングを実施して、フジテレビにも説明と資料の提出を求めた。そして、4回(10月12日、11月9日、12月14日、1月11日)にわたる審議を重ね、本意見を取りまとめた。

 

U 「ハッピー筋斗雲」の放送内容

  [企画意図と番組概要]

 「ハッピー筋斗雲」は、2007年7月28日に放送されたFNS27時間テレビ(フジテレビ系列)のコーナー企画である。フジテレビの説明によれば、“『日本全国、みんななまか(仲間)だ!』のコンセプトの下、今日本の中で悩んでいる人や困っている人、また、人知れず素晴らしい活動を行っている人などを紹介、香取慎吾と、趣旨に賛同した有名人たちが、その人たちに内緒で行動して、その人たちを元気づけ、喜ばせる”ことを目的としたサプライズ企画であるという。
 ここで、“悩んでいる人・困っている人・素晴らしい活動を行っている人”で、“元気づけ、喜ばせる”対象の1人として選ばれたのが、東北地方で美容院を経営するAさんである。彼女は、中越地震被災者やいじめ問題などで苦しんでいる学校関係者に、手紙とともに、無償で亡き父の名を冠した“十郎りんご”を送って励ましている。(なお「ハッピー筋斗雲」では他に3人の人を取り上げている)
  番組は、そのAさんを東京に呼んで元気づけるために、Aさんの美容院の従業員に依頼して「Aさんが亡き父から受け継いだりんご園のりんごを無償で送るので、美容院経営が困難になっている。亡き父がいれば何と言ってくれるのかと悩んでいる」との手紙を出してもらう。そしてそれを受けた形で、Aさんに東京での架空の講演会を依頼する。同時に、趣旨に賛同してAさんを元気づけ喜ばせる有名人として江原啓之氏をキャスティング。スピリチュアルカウンセリングを依頼して、亡き父の言葉を聞かせようとする。
 「ハッピー筋斗雲」は以上のような意図と設定の下、サブタイトルに“悟空&江原啓之スピリチュアルサプライズ!”を冠して、その番組を構成する。ちなみに、メインキャラクター・孫悟空(香取慎吾)の設定は、同局の連続ドラマ「西遊記」のヒットに因んだもので、「みんななまか(仲間)だ!」もその中の決めゼリフである。

  [番組構成の概要]

 「ハッピー筋斗雲」(全編約17分)の構成は、前段と後段の二つに大別される。前段は東北地方在住の美容院経営者・Aさんの活動と悩みの紹介で、後段は江原啓之氏のスピリチュアルカウンセリングとなっている。それぞれの構成・演出の概要は以下の通りである。

前段:
    (1)サブタイトルに“悟空&江原啓之スピリチュアルサプライズ!”を冠して、企画VTRがスタート。「番組宛にある手紙が送られてきた」のナレーションを受けて、悟空(香取)が相談者(美容院の従業員二人)に会う。そして、父の残したりんご園のりんごを無償で送り続けるAさんの活動が、スチールとナレーションで紹介される。

    (2)従業員の相談を受ける形で、「リンゴをタダで送るため、美容院の経営が苦しくなってしまった!!」ことが、客のいない美容院風景を伴って、ナレーションと文字テロップで強調される。さらに、「亡き父がいれば、何て言ってくれるだろうか?とAさんは悩んでいるという」のナレーションを入れて、「届け!天国のお父さんからのメッセージ!!」が文字テロップで打ち込まれる。

    (3)「悟空はあの“なまか”のもとへ」の文字テロップ導入から、悟空(香取)が江原啓之氏を訪ね、Aさんにお父さんの声を聞かせてやって欲しい旨を依頼する。ここで、江原氏がスピリチュアルカウンセラーとして紹介され、「守護霊や亡くなった人の魂と交信し、その声を伝えることができるという」と説明される。

    (4)続いて、Aさんに内緒の作戦、1.講演会の名目でAさんを東京へ連れてくる、2.ウソの講演会をセッティング、3.何も知らないAさんに、悟空、江原氏が亡きお父さんのメッセージを届ける、が明かされる。その間に、Aさん、悟空、江原氏、歓迎幕をつくる生徒たちの姿が、スチールや映像で挿入される。

後段:
    (1)控え室で、悟空(香取)がAさんを迎えびっくりさせる。そして講演会場に誘う間、りんご山やりんご箱、Aさんの活動の紹介記事などを紹介。再び、ナレーションと文字テロップで「無償でリンゴを・・・しかし、その経費のため、自分の美容院が経営難に・・・」を強調する。

    (2)続いて、ナレーションと文字テロップによる「果たして、亡き父からのメッセージとは?」「いよいよ、スピリチュアルサプライズが始まる!」があって、Aさんが講演会場に登場する。ここで、悟空(香取)が講演会の嘘をばらす。会場には、参加を呼びかけられた被災地の人や学校の生徒たち(ただし、その多くは番組が用意したエキストラである)。

    (3)文字テロップによるAさんの悩み「活動を続けたいが、その経費で美容院が経営難に」が紹介され、悟空(香取)のインタビューによって、話が“亡き父からのメッセージ”へと導かれる。

    (4)江原啓之氏が登場。開口一番、「Aさんが悪い」と言い切る。同時に、4回目の「美容院が経営難に」が、客のいない美容院風景を伴って強調される。そして、悟空(香取)の「お父さんのメッセージを伝えて頂きたい」を受けて、スピリチュアルカウンセラーと称する江原氏の指南が約10分にわたって続く。

[江原氏登場部分の概要]

  • 江原氏:「お父さん、いらっしゃってるの。後ろにいるのね」と言ってから、りんごを送ることで人の心が信じられるようになったのでは、といったことを亡き父の言葉として。

  • これを受けて、文字テロップが、Aさんが3年前に騙されそうになったことを伝える。

  • Aさん、困惑の表情。

  • 江原氏:「Aさんが悪い!自分自身の生活を度外視してはだめ!」を亡き父の言葉として。

  • ナレーションと文字テロップで、リンゴを送る喜びに浸り店の経営を忘れていることを強調。

  • 江原氏:「天職」と「適職」のバランスが大切!を亡き父の言葉として。

  • Aさん、不審の表情。

  • 江原氏:心のご飯と食べ物のご飯の両方がないと、と説く。

  • 悟空(香取)、江原氏、Aさん、握手:「亡き父からのメッセージによって、Aさんにいつもの笑顔が戻った」の文字テロップとナレーションで終る。

27時間テレビのスタジオに戻って、悟空(香取)が“心のご飯”を繰り返す。

 

V 「ハッピー筋斗雲」の問題点

 27時間テレビの「ハッピー筋斗雲」は、「日本全国みんななまか(仲間)だ!」の統一コンセプトに従って、困っている人や悩んでいる人、素晴らしい活動をしている人を、その人たちに内緒で取り上げ、元気づけ喜ばせようという企画である。ここでは、東北地方で美容院を経営しながら、中越地震被災者やいじめで悩んでいる学校へ、無償でりんごを送っているAさんが取り上げられた。
 この種のドッキリカメラ的なサプライズ企画で、まず留意されなければならないのは、それが芸能タレントではなく一般の人を対象としていることである。本人が望んで出演するわけではないのだから、その心情や生活には細心の注意が払われなければならない。ここでいえば、企画・制作の根幹に番組の趣旨が謳う「素晴らしい活動をしている人」への真の敬意があったかどうか、放送内容が、同じく番組の趣旨が謳う「(本人を)元気づけ喜ばせる」ものであったかどうかが、まず問われる。
 「ハッピー筋斗雲」の企画・制作過程と放送内容は、この根幹の倫理において疑義を抱かせるところが見られる。具体的にいえば、Aさんの活動を称え元気づけることより、江原啓之氏の霊視なるものを見せることに主眼が置かれている。つまり、Aさんがその目的のために利用されたという結果を残している。今回、「ハッピー筋斗雲」の企画・制作に強く自省を求める事由の第一はここにある。
  第二は、ここで行われたスピリチュアルカウンセリングなるものの問題である。言うまでもなく、「カウンセリング」は、受ける本人の同意とカウンセリング内容の守秘(非公開)が原則である。「ハッピー筋斗雲」はバラエティーを口実に、あるいはスピリチュアルを口実に、この原則を無視している。そして、Aさんの心情・生活に関わる悩みを強引に設定し、一方的にその生き方への指示をあたえている。

  1.スピリチュアルカウンセラー(霊能師タレント)ありきの企画・構成

 「ハッピー筋斗雲」のAさんのコーナーは、“悟空&江原啓之 スピリチュアルサプライズ!”のサブタイトルで始まるように、江原氏の霊視に主眼を置いた構成になっている。「美容院経営者・Aさんの無償でりんごを送る活動の紹介、美容院従業員の相談事(手紙)とされる経営難の設定、Aさんを東京に呼ぶ嘘の講演会の説明」のあと、江原氏は約10分間(コーナー全編約17分)にわたり、一方的にAさんの亡き父の言葉なるものを伝え生き方の指示をする。そこには、無償でりんごを送ることへの賛辞は薄く、美容院の経営難を前提とする一方的な生き方の指示だけが繰り広げられる。
 このAさんが江原氏の話を聞くだけの構成を見る限り、これがAさんを元気づけ喜ばせる企画であったとは言い難い。つまり、「ハッピー筋斗雲」は初めから、スピリチュアルカウンセラー・江原啓之ありきの企画と受け取らざるを得ない。先に、一般の人にドッキリカメラ的なサプライズ企画を仕掛けるに当たっての倫理、出演者の心情や生活への配慮について触れたが、ここにはその倫理への意識が見受けられない。それは以下のような取材・構成・演出を見れば明らかである。

(1)スピリチュアルを前提とするAさんの生活状況「経営難」の断定

 出演者としてAさんを選んだ理由は、@“素晴らしい活動をしている人”、A“元気づけ喜ばせる必要のある人”の条件に合致していたからである。しかしAの条件「経営難」は、スピリチュアルカウンセラーありきの企画によって、必要以上に誇張され断定されている。放送上の表現に即していえば、美容院の経営難がナレーションと文字テロップで4回にわたって強調され、うち2回は客のいない美容院風景が挿入されている。また、「経営難」の断定の前には、必ずその理由「無償でリンゴを送り続け・・・その経費のため・・・」をつけ、“素晴らしい活動”と“元気づける理由”との因果関係をつくっている。
 そして、これらの状況設定が江原氏の伝える“亡き父の言葉”なるもののデータとなっている。しかしAさんによれば、りんごを送ったのは中越地震被災者といじめで悩む学校への2回であり、経営難もAさん自身が否定するところである。

(2)「経営難」を断定するに至る手続きの瑕疵

 フジテレビの説明によれば、番組に届いた美容院従業員の相談の手紙は、番組側で作成し従業員に投函してもらったとのことである。その文面の後段にはすでに、「無償でりんごを送っているため、美容院のお金をたくさん使ってしまい、経営が苦しくなっています」の記述がされている。しかし、これはAさん関係者との交渉過程で出た言葉から番組側が構成上都合のよい方向に推測したもので、客観的な裏づけを取ったものではない。
 つまり、「初めに霊能師タレントありき」の企画は、このように初めからAさんへの配慮を欠く無理な状況設定を招くのである。また、それは“美容院従業員への番組側が作成した手紙の投函依頼”、“ウソの講演会の設定”等々にも、出演者への気遣いや心配りの欠如といった形で表れている。このAさんの心情・生活を傷つけかねない「経営難」の状況設定と番組構成・制作の在り方は、番組づくりの根幹の倫理に反するものとして問題が提起されて然るべきである。

  2.放送の公共性とスピリチュアルカウンセラーのショーアップ

 サブタイトルに“スピリチュアルサプライズ!”を打ち、江原啓之氏をスピリチュアルカウンセラーと紹介し、「守護霊や亡くなった人の魂と交信し、その声を伝えることができるという」と説明を加える。また、VTR構成の節目節目で、「お父さんの声」、「亡き父のメッセージ」をナレーション・文字テロップでたたみかける。そして、江原氏は終始「お父さんはこう言っている」と言いながら話を進める。
 「ハッピー筋斗雲」の構成・演出はこのように、スピリチュアルカウンセラーのPRの趣で飾られている。しかも、それはカウンセリングを受ける本人の同意を得ないまま行われ、その悩みの誇張・強調までしている。ここに至ると、初めの企画の趣旨「素晴らしい活動をしている人を・・・元気づけ喜ばせる」はもうあってないようなものとなる。現に、だからこそAさんは、「善意の形をとりながら、結果的に傷つけられた」と、BRC(放送と人権等権利に関する委員会)に相談を寄せた。
 民放連の放送基準は、占いや運勢判断、霊視など、科学的根拠に乏しい題材の取り扱いには、慎重な対応を求めている。今回のように、本人が進んでそれを望んでいないケースでは、なおさら霊視などの題材を番組に取り入れることには慎重であるべきである。まして、“おもしろさ”を求めて、スピリチュアルカウンセリングを喧伝するかのような構成・演出は避けられて然るべきである。

 

W 問題点についてのフジテレビの回答

 当委員会は、今回の「ハッピー筋斗雲」問題の審議を進める過程で、問題点に関わる事項について、Aさん及び関係者へのヒアリング、フジテレビへの質問・問い合わせを数回にわたって行った。ここでは、問題点についてのフジテレビの回答を提示しておきたい。

  [スピリチュアルカウンセラーありきの企画・構成について]

回答:
    ○ 5月中旬、「FNS27時間テレビ」の今年のテーマが「日本全国、みんななまかだ!」に決定し、そのコンセプトの下、「日本で、悩んでいる人や困っている人・・略・・」という企画が持ち上がりました。その際、演出要素として、「サプライズ」要素も加え、「幸せのどっきり」=「ハッピーサプライズ」企画ということで決定しました。
    5月下旬から、・・略・・知られざる逸話を日本全国にリサーチをかけたところ、6月に入って、その候補の一人として、Aさんが行っている「十郎りんご」の活動の話があがってきました。
    ・・・略・・・
    同じく、5月下旬ごろ、・・略・・所謂「見てみたい!」と思わせる有名人候補を数名想定した中に、江原啓之氏もいました。
    「ハッピー筋斗雲」の企画段階で、江原氏には、一度声をかけさせていただきましたが、・・略・・あくまでも「具体的な企画内容やスケジュール次第」とのお返事でした。
    企画候補とキャスト候補が挙がる中、どの組み合わせが番組の目指す企画意図を具現化できるかを検討した際、「Aさんは、亡くなったお父様の遺志を引き継いで、りんご園を続けている」旨の情報が入ったため、江原氏の出演に適した企画になるかもしれないという発想の下、リサーチと併行し、6月上旬、江原氏に対して正式な出演依頼とともにご提案に伺いました。(2007年11月26日付)

    ○ 江原啓之氏にAさんの事や、Aさんの活動に関しての情報を最初にお伝えしたのは6月上旬。江原氏の事務所に赴き、フジテレビ編成部のスタッフが直接ご本人にお伝えし、その場にはディレクターが同席しておりました。
    その際の具体的な情報としましては、Aさんの「十郎りんご」ホームページの資料をお持ちし、「このりんご園は亡きお父様から引き継いだもの」である旨をお伝えし、「素晴らしい活動をされていますが、この活動をお父様がどう思われているのか、また、Aさんに対してメッセージがあったら教えて欲しい」旨、依頼しました。(2007年11月26日付)

  [スピリチュアルを前提としたAさんの生活状況「経営難」の断定]

回答:
    ○ 企画を進める中で、従業員のBさん、Cさんからは、「美容院のお金をりんごに費やしてしまっていて、このままだとお店が続けられないかもしれない」「長いつきあいだから良くわかる。Aさんもわかっている。気丈にふるまっているつもりだが、元気がなく悩んでいる」旨の発言を聞き取っていました。
    また、念のため、Aさんご本人から情報の確認をするべく、Cさんから『自分のいとこのフリーライター』と架空の肩書きで紹介していただいた番組ディレクターが、Aさんご本人に事前取材をしました。その際、Aさんご本人からも「りんごを続けるのに、正直お金がなく苦しい。・・略・・今後も続けられるか不安に思って悩んでいる」旨のお話があり、「いつも一人で悩んでいる。お父さんの十三回忌だし、りんご園をつぶすことになったら父はどう思うか心配」といったお話もありました。
    (・・以上のような会話・・)等を総合し、番組構成上、Aさんの状況を視聴者に簡潔に判り易くお伝えするにあたり、「りんごを無償で送ることで、美容院の経営が困難に」というスーパー&ナレーションでまとめる判断をした次第です。
    バラエティー番組として、ご本人の気持ちのあり様を表現していくことを意図して制作した企画の為、美容院の経営状態を客観的なデータで裏づけるまでの調査はしておりませんでした。(2007年11月26日付)

    ○ しかしながら、番組側が取材に基づいて「経営困難」と言う表現を用いたものの、その経営状態、経済状態に関して共通の認識をご本人と構築するべきでした。本来、Aさんの活動を日本全国に紹介し、Aさんを元気づける事を目的にした企画でありましたので、番組が「経営困難」と表現することでご本人が不快に思われた状況については本意ではありません。深くお詫び申し上げます。(2007年11月26日付)

註:
    従業員はこの点について、りんごにお金を使っていることはそうだと思うが、だからと言って美容院は“経営難”ではない。私たちはもらうべき給料はきっちりもらっている、と反論している。(2007年11月2日付)

  [放送の公共性とスピリチュアルカウンセラーのショーアップ]

    回答
    ○ 「スピリチュアル・カウンセラー」は、江原啓之氏が、肩書きとして名乗っているものであり、江原啓之氏がメディアに登場する際に必ず使用する呼称ですので、今回も使用させていただきました。霊的、精神的な視点からカウンセリングを行うカウンセラーであると認識しております。
    「スピリチュアル・サプライズ」というのは、スピリチュアルカウンセラーである江原啓之氏が出演して行われるサプライズ企画である事をわかり易く簡潔に視聴者にお伝えするために、使用しました(2007年11月26日付)

    ○ カウンセリングは、江原氏が感じ取った、精神的な感覚や考えから発せられるアドバイスだと認識しており、信憑性に関しては、カウンセリングを受けた当事者個人の問題と考え、カウンセリング後に当事者からクレームや問題提起を受けた場合は放送をとりやめる方針をとりました。しかしながら一切のクレームや注文をいただかなかった為、放送に至りました。
    江原氏の、所謂「霊視」と言われるものを基にしたコメント部分に関しては、目に見えるものではなく、当事者しか認識し得ない部分ですので、番組としては放送基準を尊重し、断定及び肯定を避けるべく、「〜見つめていたという」「〜救ってくれるという」等、ナレーションを伝聞調にしたり、スーパーテロップの最後に「?」を入れるなど、適宜配慮いたしました。(2007年11月26日付)

    註:
    Aさんは、江原氏のアドバイスに対して、「ご飯は食べられればそれで良いし、そんな贅沢は要りません」「私がお金持ちになったら、人の心を打つような手紙は書けません」等々と反論したというが、その部分はカットされている。(2007年11月2日付)

    ○ 最終的にはご本人も、「江原さんが心配してくれたように、絶対にまたりんごを作るためにお店をつぶさないで、これを教訓に真剣に頑張ります」とおっしゃっていた為、事実と違う為の反論という認識は全くもちませんでした。・・ 略・・ その為、番組としましては、あくまでもカウンセリングの過程で交わされた自然な会話のやりとりと認識し、限られた放送時間の関係上、それを割愛させていただきましたが、Aさんの反論を番組側が恣意的に封殺するため割愛したことは一切ありません。(2007年11月26日付)

     

X 問題点についての委員会の判断

1.問題提起とフォローVTRの放送

 FNS27時間テレビ「ハッピー筋斗雲」(2007年7月28日放送)のAさんのコーナーの案件は、Aさん自身が「善意の形をとりながら、結果的に傷つけられた」と、BRC(放送と人権等権利に関する委員会)に相談を寄せたことから始まった。BRC事務局は、これを受けてフジテレビに善処を求めたところ、局側が直ちにAさんを訪れ謝罪し、Aさんとの話し合いの結果、10月8日にAさんの活動に焦点を当てたフォローVTRが、「FNS27時間テレビ 全国のなまかにありがとう!スペシャル」の中で放送された。
 ただし、これは訂正やお詫びのクレジットを冠してのものではない。Aさんの活動をあらためて紹介するに止まるものであり、Aさんとフジテレビの間では放送の趣旨が了解されていても、一般の視聴者には何のために放送されたものなのかがよくわからない。「ハッピー筋斗雲」のAさんのコーナーに欠けるところがあったのかなかったのか。その点についての説明をして放送するのが、少なくとも放送の良心というものではないだろうか。

   2.委員会の判断とその根拠

 この企画の取材・構成・演出は次の点において倫理上の疑義がある。(1)スピリチュアルカウンセラー(霊能師)ありきの企画・構成並びにショーアップ、(2)客観的な裏づけに欠ける出演者の「経営難」の断定と強調である。「ハッピー筋斗雲」は少なくともこの2点において、ドッキリカメラ的な方法で出演をさせられた一般の人への配慮を著しく欠いている。

    (1)のスピリチュアルカウンセラー(霊能師)ありきの企画・構成は、すでにAさんの生活状況“経営難”や心情“亡き父の声が聞きたい”の設定において明らかである。また、初めに“おもしろさ”ありき、“有名人(スピリチュアルカウンセラー)”ありきが強く働いていることは、フジテレビの回答にもよく表れている。実際、スピリチュアルカウンセリングなるものが始まってからは、カウンセラーが“亡き父の声”と称して生き方の指示を一方的にするだけに終始する。相談者に仕立てた人の話を聞こうという姿勢はどこにも見られない。しかも、それは悟空のパフォ−マンスによる進行で娯楽にされている。この「おもしろさ」「わかりやすさ」を拠り所とする企画・構成・演出は、そこに出演者の心情への配慮を決定的に欠いている。

    (2)の「経営難」の断定は、「スピリチュアルカウンセリング」なるものを成立させるためのものであり、美容院従業員の言葉の端を都合よく誇張したものである。そしてその強調は、出演者に仕立てられた人の悩みに説得力をもたせようとした設定と言える。「おもしろさ」「わかりやすさ」のために、「経営難」を強調することが出演者の生活にどれほどの影響を及ぼすか。ここには、そういった出演者の生活への想像力がほとんど働いていない。
     「おもしろさ」「わかりやすさ」を唯一のチェック基準とすることによる倫理の逸脱については、「発掘!あるある大事典」の調査委員会が厳しく指摘したところである。今回の「ハッピー筋斗雲」のAさんのコーナーにはその教訓が生かされず、依然として「おもしろさ」を第一とする取材・構成・演出を繰り返し、その結果、人間の尊厳を傷つけかねない番組を放送している。具体的に指摘すれば、放送基準が慎重な扱いを求める「スピリチュアルカウンセリング」なるものを、「おもしろく」見せるために、一方的に出演させた人の生活状況を十分な裏づけも取らずに貶めている。
     当委員会は以上の事由により、「ハッピー筋斗雲」・Aさんコーナーの取材・構成・演出は、制作上の倫理に反するものと判断する。

     

Y 結論

 「放送倫理検証委員会」運営規則第4条は、「委員会は、放送倫理を高め、放送番組の質を向上させるため、放送番組の取材・制作のあり方や番組内容などに関する問題について審議する」こと、及び「審議に基づき、意見を公表することができる」ことを定めている。そこで今回は、当委員会の判断結果を、フジテレビに強く自省を促す「意見」として公表することとした。
  バラエティー番組であろうとなかろうと、テレビ番組には企画・制作に関わる倫理の遵守が等しく求められる。にもかかわらず、近年のバラエティー番組は、バラエティーであることを理由にそれを軽く見ているところが見受けられる。
  バラエティー番組だからといって、今回のように出演者の生活に関わるマイナス情報を十分な裏づけも取らずに強調し、その生活に影響を及ぼすような内容の放送をしていいのか。また、出演者の心情に気を配った手続きも取らず出演させ、一方的に「スピリチュアル」といった非科学的なカウンセリングを押しつけていいものか。さらに、このような企画発想や取材・構成・演出で、番組と出演者との信頼関係は築かれるものかどうか。
  フジテレビには、この「裏づけに欠ける情報の作為」「スピリチュアルカウンセリングの押しつけ」「出演者及び取材対象者との信頼関係の不在」についての自省を促し、今後の番組活動の資とすることを求めたい。