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【土・日曜日に書く】ワシントン支局長・山本秀也 覚悟問われる日本の捕鯨

2008.1.20 02:52
このニュースのトピックス慰安婦問題

 ≪盟友たちの反発≫

 年々薄くなっているという南極あたりの氷は、実のところ、逆に厚さを増している−。

 南極海での日本の調査捕鯨を取り巻く国際環境の厳しさを考えると、こんなふうに、進行する地球温暖化の現実とは正反対の光景さえ思い浮かべてしまう。

 日本の調査捕鯨船団が、昨年11月18日に下関港を離れた。だが、予定海域に到達する前に、今年から予定していたザトウクジラの捕獲を断念することになった。

 厚い氷に阻まれ、捕鯨船団が立ち往生したわけではない。日本政府による「1、2年の見合わせ」の決定のためだが、背後には米国、オーストラリアの強い反発がある。米国務省のマコーマック報道官は、船団出港の翌日、「日本が今年の捕鯨を自粛するよう呼びかけたい。とりわけ、ナガスクジラとザトウクジラには配慮を求める」と、米政府の具体的な要請を表明していた。

 この後、11月24日投開票の総選挙で政権交代があったオーストラリアでは、かつて日本の調査捕鯨阻止に「軍艦の派遣も辞さない」と息巻いたラッド労働党党首が新首相に就いた。さすがに海軍艦艇への出動命令は控えたが、豪税関の監視船が日本船団の追跡に乗り出した。

 年が明けて今月15日、豪連邦裁判所は、調査海域が豪州独自に設定した「クジラ保護海域」にあたるとの理由で、日本の捕鯨差し止めを命じたのである。

 ≪凍結された法的権利≫

 差し止めを求めたのは、野生動物保護を叫ぶオーストラリアの環境保護団体だ。日本側は「公海上での活動」として判決を拒む構えだが、司法の衣を着た政治的な圧力は、活動家による海上抗議などより、ある意味では対応が難しい。司法までもが「捕鯨反対」を支持したことで、今後の影響はオーストラリア国内にとどまらない懸念がある。

 日本にとって悩ましいのは、米国、オーストラリアといった安全保障分野での重要な同盟国が、またも日本を標的に「捕鯨反対」を声高に叫びだした点である。

 豪連邦裁の判断はいうまでもなく、IWC(国際捕鯨委員会)で認められた調査捕鯨の法的権利が、このところ事実上凍結されているようにすら思える。マコーマック報道官も調査捕鯨に関して「日本の法的権利は認めるにせよ」と前置きしつつ、「クジラの生息数に関するほとんどすべてのデータ収集は、非致死性調査が技術的に可能だと指摘しておく」と踏み込んでいた。

 この主張をかみくだけば、「調査の権利は認めるが、クジラを殺すな」ということだろう。言葉にこそしないが、「副産物」の鯨肉が調査後に日本の水産市場に流通する現状を想定すればこそ、「非致死性」というくだりに力も入る。日本がよって立つ科学的反証は一顧だにされない。ニューヨーク・タイムズ紙の社説(昨年4月1日)は、クジラの解体、販売をともなう捕鯨に「調査」の名を冠することを「世界中の生物学者が恥ずべきこととしている」と切り捨てたことがあった。

 米議会関係者によると、かつて民主党の大統領候補にもなったケリー上院議員ら米与野党議員は、マコーマック談話に続いて加藤良三駐米大使に書簡(11月29日付)を送り、「差し迫った約1000頭もの捕鯨を見合わせよ」と迫っている。

 ≪慰安婦問題との類似性≫

 捕鯨問題への賛否議論を見渡すと、慰安婦問題に関する米下院の対日非難決議といった歴史責任の議論にも似た構図がみえてくる。論争のキーワードを「史実」(慰安婦の実態)から(調査捕鯨の)「科学的根拠」に置き換えると、浮かび上がるのはかみ合わない議論と不信に満ちた感情論だ。

 まして対日非難の出所は、近隣の中韓ではなく、米豪や英国などだ。高飛車に来られると、日本人の体内時計は昭和20年に針が戻り、敗戦の古傷が痛む。日米豪の3首脳が、シドニーでの会談(昨年9月8日)で、アジア・太平洋地域での安保協力を誓ってわずか4カ月でこの捕鯨問題騒動である。ああ、寒い光景だ。

 鯨料理も食文化の一つととらえる日本に対し、米豪の捕鯨反対論の根底には、クジラという高等動物を食べること自体が野蛮だという思いがある。

 南極海を航行中だった日本の調査捕鯨船には先日、反捕鯨派の米環境保護団体のメンバー2人が侵入し、激しい妨害行為を行い、波紋を広げた。

 たかが、クジラ。されど、クジラ。日本が「国家の意思」として捕鯨を維持する覚悟なら、「科学」と「法理」を武器に、対日包囲網の中でも堂々と主張し続けるしかあるまい。(やまもと ひでや)

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