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母親、追いつめられた末か 相模原

2008年01月19日

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ブルーシートで覆われた吉本やす子容疑者宅の殺害現場=17日、相模原市上鶴間7丁目で

  相模原市の自宅で、無職吉本やす子容疑者(57)が息子2人を殺害したとされる事件は、精神科への長男(29)の入院、知的障害がある次男(24)への対応、さらに蓄えを取り崩しながら送る生活のなか、吉本容疑者が次第に精神的に追い込まれ、犯行に及んだ可能性があることが、市と相模原南署の調べなどから浮かび上がってきた。

  市保健予防課によると、吉本容疑者は昨年12月13日、保健所の窓口で、「長男が11月30日から、これまで外出せずほとんど口をきかなかったのに、冗舌になった。12月25日に何かを起こすといっている」と相談した。担当者は「入院を含めた受診が必要」と判断し、市内の病院への相談を勧めたという。

  同21日には、自宅近くの東林間交番を訪れ、「長男が引きこもりがちで暴れる。不安だ。どうすればいいですか」などと相談していた。対応した警察官は「暴れた場合は110番通報してください」と伝えたという。

  吉本容疑者は同26日、保健所に紹介された病院で長男の入院の相談をし、同時に自分も受診し、不眠が続くことや不安定な状態になっていることを訴えた。同日、保健所の担当者に長男の入院について、「年末年始に家族と相談したい」などと話していたという。

  しかし、年が明けても保健所に連絡がなく、担当者は1月8日、吉本容疑者に電話をかけると、「入院が必要なのは分かっているが、家族内で十分に相談が出来ていない」と答えたという。

  同署の調べで、その8日後の16日、殺人事件が起きたとみられている。
 現場近くに住む女性は「人付き合いがなかった」、別の女性も「ほとんど会うことがなく、ゆっくり話す暇がなかった」と話しており、吉本容疑者は地域からも孤立していたようだ。

  同署によると、吉本容疑者の夫(58)は数年前に会社を辞め、現在は足が不自由で車いすを利用している。長男は10年ほど前から無職。吉本容疑者も数年前に仕事を辞め、「貯金を取り崩して暮らしていた」などと供述しているという。

  保健所や警察に助けを求めながら、結果として救われなかった吉本容疑者。市保健予防課の江森静子課長は「家族と相談している、とはっきり言われたので、緊急事態とは考えなかった」「1人で抱え込まないよう誠意を持って対応してきたと思う」と言った。同署幹部も「交番の対応は適切だった」と話している。

  自治体に寄せられる精神疾患などの相談件数は多いが、対応する職員の数は十分ではない。

  吉本容疑者が住んでいた相模原市では、初回相談件数が04年度5214件、05年度4318件。この数字には、同一案件の2回目以降の相談は含まれていないため、実際の件数は数倍になる。

  一方、対応する市保健予防課の専門職員数は現在14人。07年の合併後、2人増員されたが、「相談電話が鳴りっぱなしの状態の時もある」というほどの忙しさという。

  同課の江森静子課長は「それぞれのケースについて、スタッフ全員が出来るだけのことをしているつもりだが、限界もある」と明かした。

  横浜市への相談件数は、06年度で計約3万7千件。各区の福祉保健センターの専門職員3〜4人が電話や面接で対応するほか、自宅や警察署など年間計約5千回の現地訪問もしている。

  川崎市の06年度の相談件数は1万5913件。各区にある相談窓口で、3〜6人の専門職員が対応する。担当者は「相談は年々増えているが、5年間、職員の数は変わっていない。06年4月施行の障害者自立支援法の影響で補助金などの申請への対応だけでも手いっぱいだ」と話していた。

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