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放送直前、株を購入 特ダネを悪用 NHK記者不正

2008年01月18日03時00分

 報道の第一線に携わる記者らが、個人の利益のために放送前の情報を悪用していた――。職員3人がインサイダー取引の疑いで証券取引等監視委員会の調査を受けたNHKに17日、衝撃が広がった。「報道倫理にかかわる重大な問題。慚愧(ざんき)に堪えない」。相次ぐ不祥事を受け信頼回復を掲げて就任した橋本元一会長。任期を1週間残すだけとなったこの時期に再び不祥事に見舞われた。

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会見の冒頭、謝罪するNHKの橋本元一会長(中央)ら幹部=17日午後3時、東京都渋谷区のNHKで

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NHK職員による株のインサイダー取引疑惑について、会見に臨む橋本元一会長=17日午後3時4分、東京都渋谷区のNHKで

 「高い倫理観が求められる報道に携わる者が、報道目的のための情報を自己の利益のために悪用したことは許されない」。会見の冒頭、橋本会長はコメントを読み上げ、深々と頭を下げた。

 証取委の調査が入ったのは16日。ただちに局内に設置した畠山博治理事を委員長とする調査委員会に対して、3人のうち2人はインサイダー取引を認め、「ばかなことをした」と話したという。

 今回の「特ダネ」記事は、放送22分前の午後2時38分以降、報道用端末にアクセス権限のある職員約5千人が見ることが可能だった。インサイダー取引を認めた2人は、局内の端末や自分のパソコンでこの記事を見た後、午後3時に東京証券取引所の取引が終了するまでの間に株を購入。急いで自宅に戻り、パソコンで取引した職員もいたという。

 ただ、3人のうちだれが不正取引を認めているのかや詳細な手口については、再三の報道陣の質問にかかわらず、会長らは「それは控えたい」「調査中」を繰り返した。

 再発防止策について問われた石村英二郎理事は「記事を放送5分前まで見られないようにすることはできる」としながら、やり場のない怒りを報道陣に向けるかのように「システム上の問題以上に、倫理観がなかったのが最大の原因」「これではまじめにやっている職員の士気が下がる」と愚痴めいた説明も。

 株を購入した3人は、お互いが連絡を取り合っていたわけではなかったという。「ほかにインサイダー取引をした疑いのある職員はいないのか」。報道陣の関心はこの点に集中したが、全職員に対する調査の実施について、橋本会長は「われわれは証券取引のデータも持っていないし、物理的な確証がないものは難しい。今後考えたい」と述べるにとどまった。

 同会長は24日に任期を終える。進退について問われると、「これはこれでしっかりやらないといけないと思う」とだけ語った。

■報道各社は内規で制限

 証券取引の規制強化の流れや社員の株取引事件などを受け、報道機関は法令順守の社内規定を設けている。企業情報がいち早く集まり、そうした情報に身近に触れられる報道関係者には高い倫理が求められるためだ。

 朝日新聞は06年の証券取引法改正や日本経済新聞社員のインサイダー取引事件を契機に、以前からあった株取引に関する規定を、業界でも厳しいレベルに強化。半年以内の短期売買の自粛を全従業員に求めている。

 さらに、部局ごとに扱う情報や勤務実態に応じて内規を定めており、編集局の場合は短期売買の自粛期間を「1年以内」とした。日常的に取材対象とする企業、業界、地域など担当分野に関連する株取引も自粛すると定めている。

 広告局員が逮捕された日経新聞も、再発防止のため厳しい規制を設けた。アルバイトや子会社への出向者を含む全従業員を対象に、取得後1年または半年以内の株式売却を禁止。また、編集局、論説委員、広告局、販売局には社長名で株式売買の全面停止を要請。広告局員には「在職中は株式の売買にかかわらない」との誓約書の提出を求めている。

 ただ、株取引全般の制限については、商取引の自由を侵しかねないこともあり、各社手探りの状態だ。

 毎日新聞は「職務上知り得た上場企業の株を売買し不当な利益を得てはならない」などと定めた規定を06年10月に設けたが、株取引についての内規は特にないという。日本テレビやフジテレビは、自社株の売買に事前の届け出を求めている。

 インサイダー取引を禁止する規定は、各社が設けている。記者行動規範や各局ごとのガイドラインで注意点を具体的に示している読売新聞は、違反すれば懲戒処分を科すと就業規則で定める。共同通信や民放キー局も、行動憲章や行動基準で同様の規定を設けている。

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