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お産は市民7万円・市民以外22万円 自治体「脱公平」

2008年01月13日

 各地の自治体病院で、妊婦の居住地によって出産費用に格段の差をつけたり、お産を断ったりする動きが出始めた。産科医不足に自治体の財政難が重なり、直接の納税者以外に同等の医療サービスを提供するのが難しくなってきたためだ。「差別化」の結果、締め出された自治体との間であつれきが生じるケースもある。公立病院が掲げてきた「公平な医療」の理念が揺らいでいる。

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 大阪府泉佐野市議会は昨年12月、市立病院でお産をする市外の妊婦の分娩(ぶんべん)料について、今年4月から13万円増の22万円にすることを盛り込んだ条例改正案を可決した。

 従来、市内の妊婦(7万円)とは2万円の差があったが、市民は据え置かれたため、差額は15万円に広がる。個室代などを含めた総経費は47万円程度になり、周辺の私立病院と同水準という。

 背景には医師不足がある。同病院と隣の貝塚市の市立病院に産科医を派遣する大阪大医学部が昨年、「労働環境が厳し過ぎる。このままでは医師を派遣できない」と通告。「共倒れ」を恐れた両市は今春、産婦人科を統合し、府最南部で唯一、お産を扱う公立施設として再出発することを決めたが、施設の改修費や人件費など年約1億円の運営経費について近隣自治体に分担を求めた。新田谷(にったや)修司・泉佐野市長は「財政危機の中、『ただ乗り』は理解が得られない」と強調する。

 協議の末、泉南市など1市2町は負担に同意し、この地域の妊婦は「市内」扱いとなったが、一部は分担に強く反発。岸和田市の出口修司副市長は「公立病院の経費は設置者の自治体がまかなうのが筋ではないか。岸和田市内の広域小児救急施設でも、地域外の患者に格差はつけていないのに」。阪南市の担当幹部も「分担額の根拠がはっきりせず、同意しづらかった」と振り返る。

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 青森県八戸市も昨年7月から、これまで同額だった市外と市内の妊婦の分娩料に1万5千〜2万円の差をつけた。市立市民病院の不良債務は06年度、約15億円に膨らみ、市の一般会計からの繰入金も20億円に及ぶ。同病院の鈴木秀世管理課長は「市税も投入しており、市外の妊婦に応分の負担をお願いするしかない」。

 奈良県大和高田市は06年6月から、同市と周辺3市1町以外の妊婦のお産を断っている。「里帰り出産」も、妊婦の両親のどちらかが市内在住でなければ受け付けない。

 市立病院の内海敏行事務局長は「安全な医療態勢を維持するため」と説明する。年600件程度の分娩を想定した施設だが、県内で産科休診が相次いだ05年から妊婦が殺到。06年は1千件を超えた。3人の医師が3日に1回宿直し、1日に7、8件の分娩を扱う異常な状態に陥ったという。

 長野県飯田市も市立病院の産科医が1人減る今年4月から、同市と周辺14町村以外の妊婦の出産は受け付けない方針だ。

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 専門家の意見は分かれる。地域医療に詳しい伊関友伸(いせき・ともとし)・城西大准教授(行政学)は「周辺市町村や妊婦自身に負担を求める動きは今後も増える」とみる。出産直前まで検診を受けていない妊婦が費用の安い自治体病院に飛び込む例も多く、こうした「ハイリスク分娩」に対応するための人件費や設備費もかさむ。「出産の場を守るため、自治体同士が分担し合うのが望ましいが、協議がまとまらなければ、妊婦に負担を求める方策もやむを得ない」

 一方、塩谷泰一(しおたに・たいいち)・徳島県病院事業管理者は「経営難だからといって患者負担に格差を設けるのは論外。『胸を張れる赤字』かをまず検証しないといけない」と指摘。「広域の医療が良くなるよう考えるのが自治体病院の存在意義の一つ。関係者はしっかり意識すべきだ」と主張する。

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