MacWorld Expoの開催を翌週に控えた1月8日、Appleは同社のワークステーション製品であるMacProと、1UサーバーのXServeのモデルチェンジを発表した。この発表を受けて国内でも製品説明会が開催されたので、プレスリリースだけでは分からない情報も含めて、ここで紹介したいと思う。 ●45nmプロセスのXeon 5400を搭載
今回のモデルチェンジは、昨年(2007年)11月にIntelが発表した45nmプロセスで製造されるクアッドコアXeonプロセッサ5400番台(開発コード名Harpertown)に対応したもの。特に大手PCベンダーでは初の採用となるFSB 1,600MHzのタイプを採用している。サポートするコアクロックはMacProが2.8GHz、3.0GHz、3.2GHzの3種、XServeが2.8GHzと3.0GHzの2種で、いずれも標準構成では2.8GHzだが、MacProはDP構成(デュアルプロセッサ)、XServeではUP構成(シングルプロセッサ)が、それぞれ標準となる。
2.8GHzのHarpertownプロセッサはTDP 80WのXeon E5462、3.2GHzのHarpertownプロセッサはTDP 150WのXeon X5482だが、3.0GHzについてはTDP 120WのXeon X5472と、TDP 80WのE5472の2種類がある。XServeについては3.2GHzのサポートがないこと、1Uサイズと薄型であることからE5472ではないかと考えられるが、3.2GHz(TDP 150W)に対応可能なMacProの筐体であればX5472とE5472の両方が考えられる。どちらを採用しているのか質問してみたが、詳細については公開していない、という回答だった。 また、今回XServeではシングルプロセッサ構成が標準となり、MacProもBTOでシングルプロセッサ構成が選択可能だが、追加のプロセッサをAppleが提供することはない(セカンドプロセッサの販売は行わない)。DP構成を利用するユーザーは、この構成でオーダーする必要がある点に注意が必要だ。プロセッサ自体は市販品を購入することも可能だろうが、筐体の熱設計に合致した専用のヒートシンクを入手することは難しいと考えられる。 【表】新旧MacProの比較
●メモリは800MHz対応FB-DIMMが必要
この新しいプロセッサに合わせ、プラットフォームもFSB 1,600MHzに対応したIntel 5400チップセット(開発コード名Seaburg)ベースのものに変更された。5400チップセットは、2本の独立したFSBを持つDP構成に対応したチップセット。グラフィックス向けに16レーンのPCI Express 2.0を2本をサポートするほか、16MBから24MBへ増量されたスヌープフィルタを内蔵する。 スヌープフィルタは、DP構成において他のプロセッサが更新したキャッシュラインをチップセット側で保持することにより、プロセッサ間のスヌープを抑制するもの。これによりFSBの帯域がスヌープで浪費されることを防ぐ。また仮想環境においてDMAを用いたI/Oデバイスの高速化を支援するVT-dもサポートしている(現時点で、対応したソフトウェアがあるのかは不明)。 Intel 5400チップセットがサポートするメモリは、5000Xと同様にDDR2メモリを用いたFB-DIMM。計8本のメモリスロットを持ち、最大で32GBのメモリを搭載することができる。標準構成では1GBのFB-DIMMが2本搭載されて出荷される。 5400チップセットのメモリコントローラは、2本で1組となるFB-DIMMチャネルを2組(計4チャンネル)持つが、2本のペアの帯域がFSBとマッチしなければならないというルールがある。したがって、FSB 1,333MHzのプロセッサであれば667MHzのFB-DIMMを、FSB 1,600MHzのプロセッサであれば800MHzのFB-DIMMを用いなければならない。 冒頭でも述べたように、MacProはFSB 1,600MHzのHarpertownを用いているため、対応するメモリは800MHzのFB-DIMMということになる。が、大手PCベンダーとしては初の採用であるため、現時点で800MHzのFB-DIMMはほとんど市販されていない。Appleから購入する以外に、バッファローらが対応メモリの販売を告知しているが、今のところ入手性が限られることに注意が必要だ。 ●PCI Express 2.0などの最新技術をサポート
拡張スロットは、MacProが4本のPCI Expressスロット、XServeが2本のPCI Expressスロットをそれぞれ備える。MacProのPCI Expressスロットはすべて物理形状は16レーン(x16)対応で、Appleが提供するグラフィックスカードを最大4枚インストールすることができる。ただし帯域的にはx16は2本のみ(いずれもPCI Express 2.0)で、残る2本はx4(PCI Express 1.0)となる。 XServeの拡張スロットはPCI Express 2.0 x16とPCI Express 1.0 x8(ハーフレングス)それぞれ1本ずつ。ただしx8スロットはライザーカードの交換によりPCI-Xスロットとすることもできる。XServeは標準構成としてオンボードにグラフィックスチップ(Radeon X1300)を搭載しており、ディスプレイを接続する必要がある場合も、PCI Expressスロットを利用する必要はない。AppleはPCI ExpressカードとしてハードウェアRAIDカード、4Gbps Fibre Channelアダプタ、デュアルポートのGbEカード等を提供する。
MacProで標準搭載のグラフィックスカードとして採用されたのは、256MBのグラフィックスメモリを搭載したATI Radeon HD 2600 XT。30型ディスプレイに対応したデュアルリンクDVI出力を2ポート備える。ほかにNVIDIAのGeForce 8800 GT(512MB)、NVIDIA Quadro FX 5600(1.5GB)がオプションとして選択可能だ。これらのグラフィックスカードは、マルチディスプレイサポートの意味もあり単体で購入可能だが、基本的に新しいMacPro専用のオプションであり、現時点では対応のデバイスドライバはシステム(MacPro)添付のみとなる。旧型のMacProユーザーがアップグレードに用いることができない点に注意が必要だ。 MacPro、XServeともに標準でオプティカルドライブとして2層DVDメディアの記録に対応したスーパードライブを内蔵するほか、MacProは2台目のスーパードライブを内蔵することもできる。MacProは320GB〜1TBのSATA HDDを4基のドライブベイに搭載可能で、オプションのMacPro RAIDカードを用いることでSASドライブの利用も可能だ(SATAとSASの混在不可)。XServeのドライブベイは3基だが、ホットスワップに対応したほか、SATAとSASの混在にも対応する。
MacProでは、標準構成にキーボードとマウスが含まれるが、今回から添付のキーボードがiMacで採用された薄型のものに変更となったが、これは賛否両論あるかもしれない。なお、新しいMacProは標準でBluetoothを内蔵しており、オンラインショップであれば3,800円の差額でワイヤレスキーボードに変更することが可能だ。 ●中身はフルモデルチェンジ
新しいMacPro、XServeとも、筐体は従来の製品と同一だが、チップセットが変わるなど内部はフルモデルチェンジといって良い。他社に先駆けてFSB 1,600MHzのプロセッサと、現時点で唯一FSB 1,600MHzをサポートした5400チップセットを採用したことで、性能面でのアドバンテージもあるハズだ。Appleでは2.66GHzのデュアルコアプロセッサ2基を搭載した旧MacProに対し、2.8GHzのクアッドコアプロセッサ2基を搭載した新MacProは、整数演算で約1.9倍、浮動小数点演算で1.7倍の性能になったとしている。ワークステーションアプリケーションの性能向上も、おおむね2倍になったというのがAppleの説明だ。
一方で、Intelの製品ポジショニングとして5400チップセットはワークステーションおよびHPC向けとなっており、数量の出るボリュームサーバー向けではない。したがって、他社がどれくらい追随するのか不明で、FSB 1,600MHz動作に不可欠な800MHzのFB-DIMMメモリがどれだけ普及するかという点に若干の不安を覚える。 価格的には、最小構成で比較した場合、日本HPやデルの製品に及ばない。が、CPUやメモリ等のスペックをMacProやXServeに合わせると、価格は逆転しMacProやXServeの方が安価になる。こうした点と性能面での優位性がMacPro/XServeの魅力ということになるだろう。さらにMacProは、OSとしてWindowsのサポートも可能(BootCamp)であることが、注目されそうだ。 □アップルのホームページ (2008年1月11日) [Reported by 元麻布春男]
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