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2008年01月03日(木曜日)付

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技術の底力で変身しよう―脱温暖化の決意

 地球の発熱を食い止める。その一歩を踏み出す年が幕を開けた。

 二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出削減を先進国に義務づける京都議定書の元年である。日本はこれからの5年間、排出量を1990年より6%減らさなければならない。

 石油などの化石燃料に頼る社会からどう脱するか。その試みは京都の足もとでも始まっている。

■エネルギーの地産地消

 森の中に高さ20メートルほどのタンクが二つ並ぶ。食材のくずなどを発酵させるタンクと、できたガスをためるタンクだ。メタンガスで動かすエンジンなどで電気をつくる。バイオガス発電所である。

 原料は食品工場などから運ばれる。残りかすは乾燥後、農家の肥料にする。まさに資源循環型の発電といえる。

 ここは京都府京丹後市にある京都エコエネルギー研究センターだ。新エネルギー・産業技術総合開発機構が5年前から進める実証研究の舞台となっている。

 ねらいは、地域発の電力を電力会社の送電網と共存させることだ。ここの発電はバイオガスに太陽光や風力も組み合わせているが、地域の需要をとても賄えず、電力会社の送電も受ける。「地域発」は、つくりすぎたりすると、送電網に悪影響が出ることがある。共存には需給のバランスが求められるのだ。

 使うだけを発電する技術がほしい。そこで、市内の電力消費の一部を通信回線で刻々追跡して、それに合うように発電量を調節する実験をしている。

 「農業地帯の特徴を生かした自然エネルギーの地産地消の道が開けそうだ」と市の環境担当者は期待する。

 地球の温暖化は今、核兵器と同じように人類の脅威となっている。地球全体の温室効果ガスの排出を今世紀半ばまでに少なくとも半分にしよう、ということで世界はまとまりつつある。京都議定書の約束期間後の13年以降も、さらに大幅な排出減が必要なことは間違いない。

■分散型の街をつくる

 政府は議定書の目標を達成するため、国民運動を呼びかけ、不足分は海外から排出枠を買うつもりだ。長い目で見れば、原子力発電をふやし、火力発電によるCO2排出を抑えようとしている。

 だが、国民一人ひとりの心がけだけでは間に合うまい。

 原発への頼りすぎも避けたい。大事故があれば取り返しがつかない、という危うさがつきまとう。そこまでの事故でなくても原発が止まってしまうのは、去年東京電力柏崎刈羽原発を襲った新潟県中越沖地震で改めて思い知らされた。

 今こそ、日本社会の土台となるエネルギーの枠組みを変えるときだ。大発電所だけを頼みの綱とする集中型のエネルギー供給を、少しずつでも分散型に切りかえていかなければならない。

 屋根の太陽光発電は、文字通りの分散型だ。バイオガスや風力も、この仲間に入る。水素と酸素で発電する燃料電池は、発電で出る熱を給湯に使えるから、分散して置いてこそ威力を発揮する。

 分散型を広めるのに、京丹後の知恵は役に立つだろう。

 研究機関が集まる茨城県つくば市では、分散型の技術で街をまるごとつくり変えようという挑戦が始まった。

 去年暮れ、大学や研究所、自治体の連携体が「市内のCO2排出を30年に半減」との目標を発表したのである。

 先行するのは、燃料電池をどう使いこなすかという研究だ。すでに筑波大や産業技術総合研究所、物質・材料研究機構の研究者らが会合を重ねている。

 この科学都市の強みは、街の設計が得意な建築や土木の専門家もいることだ。新技術にふさわしい街をつくれる。

 分散型は、電力網が未発達の途上国では開発と脱温暖化の一石二鳥になる。

 「未来型の都市システムを、つくばから世界に発信したい」。この連携体のまとめ役である井上勲筑波大学教授は言う。日本の変身は、国際社会への貢献にもなるのである。

■企業の競争を促そう

 産業界も変身すべきときだ。

 脱温暖化が国際社会の目標となったいま、CO2排出を減らせば得をする、という流れがいっそう強まるだろう。

 求められているのは、これに応える技術の開発競争をどう加速させるかだ。

 大工場などの排出を減らすには排出量取引という制度がある。排出を目標以下に抑えれば、その分を枠として売れる。

 暮らしの中に省エネルギー商品を広めるには、トップランナー制度がある。

 この制度では、政府がメーカーに対して製品ごとに省エネの基準を期限を区切って課し、最も優れていた製品の性能を、次の期限には全メーカーに義務づける。達成できないとペナルティーもある。基準を大きく上回れば税金を減らしてもらえる品目もある。

 日本の自動車業界は、ガソリン乗用車の燃費を10年間で2割以上改善した。このこともあり、国内のCO2排出量で運輸部門はこの10年間、ほぼ横ばいだ。

 この制度は、エアコンや冷蔵庫にも適用され、効果を上げている。

 ノーベル平和賞を受けたアル・ゴア前米副大統領は映画「不都合な真実」で、日本の自動車メーカーを指して「世界で成功しているのは低燃費車をつくっている会社だ」と強調した。

 企業の背中を押す仕組みをうまく組み合わせて、CO2排出の少ない工場や製品をふやしていきたい。

 地域と産業を脱温暖化型に衣替えする。そのことに、日本が備えている「技術の底力」をふり向ける年である。

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