◇元国連公使、サデグ・ハラジ氏(44)
--ハタミ前大統領(97~05年)時代、対米関係修復の機運が高まりました。
◆当時のハタミ大統領は米CNNとの会見で、米国民や米文明を「偉大な」と形容するなど、米国に前向きなメッセージを送り続けた。だが、双方にさまざまな壁があった。
--和解の好機として00年9月のハタミ大統領の国連演説が引き合いに出されます。
◆当時のクリントン米大統領はハタミ演説を最後まで聞いた。米大統領としては異例で、両者が握手するのではとの期待がささやかれた。実際クリントン氏は演説後に通路でハタミ氏を待ち構え、握手するつもりだったが、ハタミ氏が避けた。
--なぜ?
◆その半年前、オルブライト米国務長官(当時)がイランに公式対話を呼び掛けながら、最高指導者ハメネイ師を念頭に「選挙で直接選ばれていない」と批判したからだ。イラン側に(握手の)準備ができていなかった。
--それでもイランは、米同時多発テロ(01年)後のアフガニスタンで、水面下で米国に協力したと指摘されています。
◆イランの協力がなければ(イスラム原理主義の)タリバン政権は今も続いていた。それだけの支援をしたが、(02年1月に)ブッシュ米大統領がイランを「悪の枢軸」の一角に位置づけ、和解への努力は水泡に帰した。
--米国側の何が問題ですか。
◆米国人は世界を自らの政治的イデオロギーで見ている。グローバル化を米国化と勘違いしている。米国の外交システムにも問題がある。米外交はロビー活動で動くからだ。ユダヤ人やイスラエルのロビーの影響力が強すぎ、米国は中東で大きな誤りを犯している。【テヘラン春日孝之】=つづく
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◇関係正常化恐れるアラブ
「イランの前向きなシグナルに、米国からは空っぽのスプーンが返ってきただけだった」。ハラジ氏は両国関係改善の好機喪失をそう表現したが、実際は「期待した割には」というのが実情だ。
当時、イランでは改革派のハタミ大統領に対し、保守派が巻き返しを強めていた。米国からの「見返り」が大きいほど、改革派は「譲歩を引き出した」と主張でき、政治的に優位に立てる。国内での政権基盤の強化なしに、米国との関係構築は望めなかったからだ。
だが期待の割に米側の反応は鈍く改革派は次第に窮地に陥った。
結局、和解プロセスに痛打を浴びせたのは、「悪の枢軸」発言だった。イラク(サダム・フセイン大統領)、北朝鮮(金正日(キムジョンイル)総書記)という独裁国家と、一定の民主主義が機能するイランを同列視した。複数の米ジャーナリストは米政府筋の情報を基に「『枢軸』形成には3カ国が必要。スピーチライターが数合わせでイランを入れた」と書いている。
これに関して、ハラジ氏は「アラブ諸国などが提供した情報が発言の下支えになった」と証言する。ブッシュ発言の直前、イランからパレスチナ向けの船舶がイスラエルに拿捕(だほ)され、パレスチナへの武器支援が明らかになった事件のことだ。
ハラジ氏は「イランと米国の関係正常化を最も恐れているのは親米アラブ諸国だ」と強調する。米国の対イラン経済制裁で恩恵に浴しているアラブ諸国は、その利益を失う。米国の「イラン封じ込め」という中東安全保障政策でも「用済み」となるからだ。
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■人物略歴
ラフサンジャニ、ハタミ両大統領時代に国連公使や副外相、駐仏大使を歴任。対米関係修復に向けた水面下での外交活動の一翼を担う。ハタミ政権時のカマル・ハラジ外相はおじ。現在、ハタミ氏の顧問を務める。
毎日新聞 2008年1月5日 東京朝刊