2008-01-05
「ダメ書評」に対するマンガ編集者の視線
前回のエントリでは「作り手側」と言いつつもかなり作家寄りの視点で意見を書きました。ただ、それでは伝えられなかったことがありますので、今回はマンガ編集者の視点で、トラックバックに答えつつ書評の問題に取り組んでみようと思います。
愛情ゆえの「批判」と、愛情なき「中傷」はイコールでない。モノに対して、望ましい評価は「作り手」が望むことが自然だけど、その望むことだけで世の中渡りきれるわけがあるまいに。それが出来れば、世の中みんなおんなじ価値観の中で生きることになるのだから。一見すると正論のようにみえて、違和感を感じますよ私は。
批判される側の身になって考えていただきたいのですが、愛があろうがなかろうが、一所懸命やったことを批判されてモチベーションが上がる人間はいません。創作はメンタルな作業ですので、落ち込みは絵や執筆速度にはっきりと影響します。そして執筆速度の低下は雑誌連載するマンガにとって死活問題でもあります。
また、読者の総意を代弁した適切な批判ができる人間はそうはいません。沙村広明さんの「おひっこし」に「お前以外の人間は全員お前じゃねえんだよ!」という台詞がありますが、批判と称されるものの大半は批判者個人の嗜好にすぎません。好きな作品に自分好みの展開を望むことは自然ですが、すべてが望み通りいくわけがありません。それをするためには、世の中のすべての人間が同じ価値観の中で生きる必要があります。
以上のことを理解した上でまだ好きな作家に批判をしたいのでしたら、ご自由にどうぞ。ただし、あなたが批判だと思っているそれは、作家にとっては往々にして無責任なヤジのひとつにすぎず、担当する編集者にとっては迷惑以外の何物でもないということは覚えておいてください。
404 Blog Not Found:blog書評のためのクソ本対策
確かに、ダメ書評は関係者にとって心理的ダメージは小さくないと思います。しかしよく考えてみて下さい。「ダメ」だというのもまたアテンションであることを。そしてこれだけ出版物も書評サイトもある現在、このアテンションこそが最も貴重な資源であることを。ダメだと言われるのは、何も言われないよりずっとましなのです。「クソ本」という表現を流行らせた日垣隆は、「三割の読者にダメと言われるのが理想」と言っていますが、「売り手」としてこれは肌で分かります。
私も編集者をやっている手前、そのへんのところは重々承知しております。マンガの世界でも一番売れるのはアンケートで「おもしろい」票がたくさん入る作品。次に売れるのは「つまらない」票がたくさん入る作品です。票が入らない、つまりはアテンションのない作品が一番売れません。
しかし、ダメ書評がアテンションであり、それで売れたとしても大半の作家や編集者は嬉しくないはずです。特にマンガ編集者にとっては、ダメ書評で得られる数字と作家のメンタルを交換するというのは、割に合わないことはなはだしい。ダメ書評の影響で絵が荒れたり、原稿が落ちたりしたら困るのです。
「ダメ」の一言を言うのだって、手間暇がいるのです。本当につまらない、取るに足りぬものであれば何も言う気が起きぬほど。
そこのところを、よろしくお願いします。
自分が携わっている作品に手間と時間を割いてものを言ってくれる人がいるというのは、本当にありがたいことだと私個人としては思っております。ただ、雑誌連載のことを考えるとどうしても手放しで喜ぶわけにはいかないのです。
中でもウチの子たちは問題児が多いので、小飼様におかれましては私の担当作品に興味をお持ちになられることなく、三木一馬担当の「みーくんまーちゃん」シリーズのほうを今後もご愛顧いただければ嬉しいなと思う次第です。
※追記
こちらのかたのエントリも合わせて読んでいただけると嬉しいです。
不倒城:作家心理と、ファンレター。
- 186 http://www.golgo31.net/
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- 10 http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/m_tamasaka/20080104/1199387682
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