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社説:C型肝炎救済 薬害発生の検証が欠かせない

 自民、公明両党は薬害C型肝炎訴訟で、被害者を全員一律救済する議員立法の骨子をまとめた。

 焦点の責任と謝罪は前文に盛り込まれた。「政府は、感染被害者の方々に甚大な被害が生じ、その被害の拡大を防止し得なかったことについての責任を認め、心からおわびすべきである」との表現だ。立法府が行政府に対して「おわび」を勧告する体裁をとっている。これを受け福田康夫首相は政府声明で謝罪することになるが、釈然としないものも残る。

 単に謝罪や補償で終わらせるだけでは得るものは少ない。薬害を繰り返さないためこれを機会に、関係機関が再発防止に何ができるかを考え、具体策を実行に移さなければ意味がない。そのためには、まず原因の究明が必要だ。

 全員一律救済の法案が政府提案とならなかったのは、政府が抵抗したからである。論拠とされているのが、被害者が大幅に増えかねないこと。厚生労働省は注射の回し打ちでウイルス感染したB型肝炎まで拡大すると収拾がつかなくなることを心配する。

 もう一つは、薬事行政にかかわることだ。薬には必ず副作用がある。副作用で被害が出るたびに責任を取らされていたら国の薬事行政が成り立たない、という論理立てで切り返す。

 しかし、この言い分にはすり替えがある。血液製剤による感染は副作用によるものではなく、もともとウイルスに汚染されたものを投与されたのだ。全然次元が違う話を同じ土俵で論じるのはおかしい。

 国が責任を明確に認め、謝罪するのは当然だ。ただ、口先だけで謝罪しても将来の薬害を防ぐことにつながらない。どこで過ちが起きたのか。国は第三者委員会で調べることにしているが、法律上の責任論とは別に、徹底した検証作業は薬害根絶に欠かせない。

 骨子では、投与の認定は裁判所が行い、被害者は定められた期限内に血液製剤の投与を受けた証拠となる資料を提出しなければならない。カルテがあるなら問題ないが、廃棄された場合はどうなるのか。病院に残された看護日記など関係書類も認める方針というものの、心もとない。

 立証を被害者まかせにするのではなく、行政も製薬会社も積極的に調査に協力すべきだ。年金騒動で国民に不評を買った「あなたまかせ」にあぐらをかくようなことが、薬害肝炎にもあってはならない。また救済の認定は条件を緩やかにして、投与の期間も幅広くすることにもっとこだわってもいいのではないか。

 どんな治療で、何が投薬されたか、患者自身がカルテを管理・閲覧できる仕組みの構築もいずれは避けて通れない課題だ。記録管理が一切医療機関まかせでは、薬害が発生すると被害者は途方にくれてしまう。

毎日新聞 2007年12月30日 東京朝刊

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