2008年01月01日 更新

【K−1】真剣勝負は気持ちいい!桜庭が“本物”船木に圧勝

Uの遺伝子対決。桜庭(上)が長期ブランクから再起した船木を、容赦なく攻め立てた=撮影・森本幸一

Uの遺伝子対決。桜庭(上)が長期ブランクから再起した船木を、容赦なく攻め立てた=撮影・森本幸一

濃密な時間をマットで過ごした桜庭(右)が、船木に握手を求めた=撮影・安部光翁

濃密な時間をマットで過ごした桜庭(右)が、船木に握手を求めた=撮影・安部光翁

 K−1 PREMIUM 2007 Dynamite!!(12月31日、京セラドーム大阪、観衆=4万7918=超満員)Uの遺伝子は、オレが継ぐ−。かつて本格ファイトを追求した「UWF」の血を引く、“最後の大物対決”は桜庭和志(38)が1R6分25秒、7年7カ月ぶりに現役復帰した元パンクラス無差別級王者・船木誠勝(38)に羽根折り式腕固めで一本勝ちした。今春に計画される“400戦無敗男”ヒクソン・グレイシー(48)=ブラジル=とのレジェンド対決へ。最後のハードルを乗り越えた。

 勝負勘、先を読む動き…。桜庭が冷静に相手の長期ブランクを突いた。

 試合開始序盤、船木のパンチ、キックが思った以上に速いことを見切った。相手の左ミドルキックにタックルを合わせ、寝技へ。ここからは桜庭の独壇場。左まぶたから鮮血を滴らせながらも、船木を容赦なく殴りつけ、右腕を固めてねじり上げた。

 「お互い年ですが、もう少し頑張りましょう」

 1R決着だったが、濃密な時間を駆け抜けた桜庭が船木に握手を求め、笑顔を浮かべた。「想像以上にパンチもキックもタイミングがよくて、船木さんは強かった。寝技で殴ろうと思ってもガードがかたかった。リングに上がって『あっ本物だ』と思った」。船木が引退し、復活するまでの2775日。体をボロボロに痛めながら、闘い続けた桜庭が継続の力をみせつけた。

 大会直前の公開練習では、漫画「巨人の星」でおなじみの大リーグ養成ギプスをまねた筋肉増強器具「ダイナマイト“ハイブリッド”養成ギプス」も披露。前日計量のときにも装着し、笑いを誘った。これも関心を集め、格闘技人気復興のため。ファンを思う桜庭のサービス精神は健在だった。

 ともにプロレス出身。中学を卒業後、15歳で新日本プロレスに入門した船木はその後、UWF、藤原組を経て、パンクラスを創設。桜庭は中大4年で中退し、UWFの後継団体Uインターに入門した。プロレスのストーリー路線を敬遠し、本格路線を求めた2人の理念は同じだった。

 運命のいたずらで、これまで対戦する機会はなかった。桜庭は00年5月、ホイス・グレイシー(ブラジル)との90分間の激闘に勝利、脚光を浴びた。その25日後の5月26日、船木はホイスの兄であの“400戦無敗男”ヒクソンに敗れて引退に追い込まれ、総合格闘技のエースは交代した。

 1年前、06年大みそかの秋山成勲戦。違反のクリームを全身に塗布した秋山に殴打され、桜庭は病院へ直行した。のちに無効試合となり、秋山は無期限出場停止に追い込まれた。格闘技界の存続を揺るがす不祥事を払拭するためにも、尊敬する船木との対決を待ち望んでいた。「きょうは気持ちいい闘いができた」。

 次戦では高田延彦、船木を蹴散らしたヒクソンとの対戦が浮上する。船木を破った桜庭に、その無念も託される。さらに、HERO'Sライトヘビー級王座獲りへも意欲を燃やす。残り少ない現役生活。大勝負の年がやってきた。

(川田尚市)

★船木が完敗に涙「金縛りにあったみたいだった」

 右耳に血をにじませた船木誠勝は「練習の時の動きが出せなかった。新しい技も試したかったが、金縛りにあったみたいだった」と目を潤ませた。入場時はみちのくプロレスのレスラーに借りた、故郷のねぶた祭りをイメージしたマスクを着用。会場を沸かせたが、「次は何も考えず、思い切り突進していく試合がしたい。きょうは左ジャブとひざ十字固めしか出せなかった」と歯ぎしり。それでも、「きょう、生まれ変わる切符をもらった。(格闘家の)仲間に入れた気分」と08年の逆襲を誓った。

★ウルトラマン2人登場!桜庭セコンドに下柳

 桜庭のセコンドには親交のある阪神からFA宣言している下柳がついた。入場の際、シルバーのウルトラマンのマスクをかぶり、ゴールドの桜庭と並んで花道を歩くパフォーマンスを披露。覆面を取ると、4万7000超のファンがどよめいた。メジャー移籍もにおわせる左腕は、去就が未定のまま越年。盟友の勝利に何を思ったのか。ベテランの結論が待たれる。

■Uの遺伝子

 船木、桜庭は69年生まれの同い年。くしくも「UWF」の血をひく。同団体は84年、プロレスと一線を画す格闘技路線を提唱して新日本プロレスに所属していた前田明(現・日明)らによって立ち上げられ、前田の師匠格である藤原喜明が高田延彦らを引き連れ参加。一時は新日本と業務提携したが、再び前田、高田らが第二次UWFをスタート。その後、リングス、UWFインターナショナル、藤原組の3団体に分裂した。船木は新日本から第二次UWFに移籍。後年パンクラスを設立した。桜庭は高田が旗揚げしたUWFインターに入り、高田道場に移籍した。

■ヒクソン・グレイシー

 1959年11月21日、ブラジル・リオデジャネイロ生まれ、48歳。「400戦無敗」といわれる伝説の男。グレイシー柔術の創始者エリオ・グレイシーの三男で、「グレイシー柔術最強の男」。90年代初めに米UFCで活躍していた実弟ホイス・グレイシーに「兄のヒクソンは私の10倍強い」と言わしめた。98年10月と00年5月に来日し、総合格闘技戦で高田延彦、船木誠勝をそれぞれ破り、実力をみせつけた。スタイルはブラジリアン柔術。1メートル78、84キロ。

★谷川FEG社長が格闘技大連立を宣言「新たな一歩を」

 「Dynamite」と「やれんのか!」を主催した谷川貞治FEG社長は、08年の格闘技大連立を改めて宣言した。旧PRIDEの選手、スタッフらと年明け早々から話し合いに入る予定で、「早ければ3月から新たなスタートを切りたい。総合格闘技の新たな一歩を踏み出したい」と言い切った。