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イラク 憲法 IPS
イラク・ニネベ県での投票不正の実態が明らかに
2005/11/28

【ワシントンIPS=ガレス・ポーター、11月4日】

 イラクの米軍が集めた情報、および非政府組織がイラクの独立筋から集めた情報によって、10月15日に行なわれたイラク新憲法国民投票の鍵を握るニネベ県において、クルド人支配の当局が組織的に不正投票を行なった実態が初めて明らかになった。

 これらの情報によると、クルド民主党(KDP)がニネベ県の住民でないクルド人をバスに乗せ、県内の非クルド人地域の投票所を回って投票を行なわせた。また、恐怖と脅しの雰囲気を作り出すことによって、ニネベ平原における新憲法反対票を減らそうとした。さらに、情報を信じる限り、投票総数が水増しされたというスンニ派の指摘も正しかったということになる。

 憲法案は、イラク独立選挙管理委員会(IECI)がニネベ県の投票結果を確認したのち、10月25日に正式承認の運びとなった。ニネベ県においては、スンニ派が55%の憲法案反対票を集めた。新憲法案否決のためには、18県中3県以上で3分の2以上の反対票を集める必要があったが、ニネベ県の結果はこの反対票3分の2に達することがなかった。

 米軍が10月15日から19日までの間に集めた情報は、直接の引用をしない、情報を提供した米軍の部隊名を明かさない、との条件付でIPSに対して提供された。

 ニネベでNGOが集めた現地情報は、ワシントンの「イラク・持続可能な民主主義プロジェクト」のマイケル・ユーアッシュ代表が入手し翻訳したものである。報復の恐れがあることから、IPSに提供された文書の中には、そのNGOの名前は書かれていなかった。

 米軍が集めた情報には、スンニ派からのものはない。報告で引用されている情報源は、地域開発に関する米軍のアドバイザーであり、基本的に新憲法賛成派のクルド人かあるいはアッシリア人キリスト教徒である。したがって、新憲法国民投票はイカサマだと主張する政治的動機に最も欠ける人々の見方をこの情報源は反映していることになる。

 米軍の収集した報告のひとつは、アッシリア人キリスト教徒の情報源による、モスルでの投票の模様である。これによれば、クルド人は新憲法案に賛成票を投じたが、そもそもクルド人は、推定170万人の人口(ニネベ県全体のほぼ3分の2)を擁するモスルのほんのわずかな部分を構成するに過ぎない。しかしこの説明は、スンニ派がニネベ県において3分の2の反対票を集めることに失敗した理由の一般的な説明とは矛盾している。すなわち、モスルのスンニ派が憲法をめぐって割れていること、クルド人はモスルの人口のかなりの部分を占めていること、というのがこれまでの理由説明であった。

 最終公式発表によれば、ニネベ県における憲法反対票は39万5,000票、賛成票は32万3,000票であった。しかし、ニネベ県の独立選挙管理委員会は、10月16日に一度、そして翌日にもう一度、300の投票所のうち未開票のものがわずか25ヶ所という段階で、32万7,000人が賛成票を投じ、反対はわずか9万人だとメディアに対して発表していたのである。

 したがって、この中間発表と最終発表までの間に、5,000の賛成票が明らかになくなり、残りたった25の投票所から29万5,000票もの反対票がなぜか集まったということになる。この矛盾した結果についての公式な説明はいまだにない。米軍の集めた情報によれば、モスルのクルド人およびスンニ派の投票総数が相当程度改ざんされたことが明らかになっている。

 同じく米軍の情報では、クルド寄りの当局による「移動投票者」、および投票者への脅しが、モスルの北部・東部の町で投票を改ざんする主要な方法として用いられていることがわかった。

 米軍に対する2人のイラク人アドバイザー(そのうち1人は、地元の政治家であり、米国による占領の支持者)の証言では、クルド民主党(KDP)が、ニネベ県住民でない500名のクルド人をバスの隊列に乗せて引き連れ、モスル市の東にあるバーティラという町で投票させたという。また、別の説明によれば、この人々を連れていた大人数のクルド人民兵が投票所の監視員を脅し、外部の人間に投票させるよう強要したという。

 米軍に対する2人目の証言者によれば、KDP幹部でもあり、ニネベ県の副知事でもあるカスロ・ゴラン氏が、500名のクルド人に投票を許すよう個人的な命令を出したという。KDPは、この500名をニネベの他の町に連れて行く予定だったといわれている。上記の情報筋は、地元首長がこの計画に反対したと証言しているが、非クルド人の市長たちは、[この計画に反対するための]自前の軍事力を持っていなかった。

 バーティラの事例は、ニネベにおける「移動投票者」の唯一の報告された事例ではない。ニネベのNGOを通じて証言したある地元住民によれば、多数のクルド人が、10月14日の晩と15日の朝に、20台以上のバスに乗って、モスルの北にあるアルコッシュという非クルド地域の町に連れ込まれたという。

 モスルの北部と東部の町で投票に関する情報を得たある米軍アドバイザーによれば、アルコッシュの投票は、賛成950、反対100であった。したがって、明らかに、連れ込まれたクルド人の票がこの町の票の大部分を占めるということになる。これらの情報を総合すると、ほとんどの住民が、恐怖感のためか、あるいはクルド人による投票不正への抗議のためにか、実際に投票には行かなかったことがわかる。

 同じ米軍情報筋によれば、テラスコフという町では1,220票が投じられたが(そのうち90%が賛成票)、その町の住民の大多数が憲法反対派だったという。ほとんどの有権者が、投票をボイコットした。

 さらにこの情報提供者によれば、70%が賛成票を投じたテルカイフという町では、ある地元住民が、投票所の監視員は完全にKDPに握られているとNGOに語ったという。しかも、監視員の1人は、KDPの秘密警察官であった。

 他にもニネベ県のいたるところで、KDPが自らの存在を投票所であからさまに誇示していた。NGOの集めた情報では、シェイカンという町で、KDPが「シェイカン地区安全委員会」というバッジをつけた職員を投票所に配置していたという。

 米軍情報筋によれば、クルド人が人口のわずか1%のみを占める、圧倒的なアッシリア人キリスト教徒の町であるカラコッシュでは、わずか6票から1票差で賛成派が反対派を上回った。この情報提供者は、クルド人民兵への恐れがこの結果を導いた主要因であると見ている。

 クルド人指導者たちは、カラコッシュやその近隣地域を、クルド人人口が少ないにもかかわらず、クルド人に帰属させるとの意図を明確にしている。『ワシントン・ポスト』紙が8月に報じたように、地元のKDPリーダーは、カラコッシュが「正常化された」あと、同地域をクルド人に引き渡すことを望むと語っている。また、同じ記事によれば、クルド人民兵が彼らの計画に同調しない者たちを拷問にかけ、「インターネット上で反クルド的言説を流す」等の罪により人々を逮捕し、クルディスタン地域の刑務所に送っているという。

 上記の米軍情報筋・NGO情報筋のいずれも、クルド人が、賛成票を投じなかった者は食糧配給券を失うことになるとのうわさをニネベ県で流している、と証言している。多くの農民や家族が、配給券を確保する目的で賛成票を投じたという。

 米軍やNGOの集めた非スンニ派からの情報によって描かれた、こうした不公正投票や恐怖の実態を見れば、不正投票に対するスンニ派指導層の異議申し立てには根拠があるように思われる。またこうした実態は、この国民投票は政治的正統化と民主主義の発展に向けての一歩だという公式の説明とも矛盾しているようである。

(※著者ガレス・ポーターは、在野の歴史家であり、外交政策の専門家である。『中東政策』誌の秋号に、論文「イラクにおける第三の選択:責任ある出口戦略」が掲載されている。)<原文へ>

関連記事:鍵を握るニネベ県の投票数は計算が合わない

翻訳=山口響/IPS Japan浅霧勝浩

(IPSJapan)

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今回は先月15日に行われたイラク新憲法国民投票を巡る組織的な不正行為に関して報道したIPS記事を紹介します。(IPS Japan浅霧勝浩)
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