【回顧２００７】美術 六本木、新たな発信地に
2007年12月25日（火）03:14
東京・六本木の国立新美術館オープン（１月）で明けた２００７年。収蔵品を持たない初の国立ミュージアムには、なお賛否両論がある。広い展示空間を生かした企画展は見ごたえがあるし、数多くの美術団体に発表の場を提供する社会的意義は大きい。ただし価値ある作品を公的に保護し後世に伝えていく視点には乏しい。
とはいえ、都心の新スポットとあって大盛況。展覧会入場者はのべ３００万人を突破した。六本木には既に森美術館があり、３月にはサントリー美術館も移転開館。東京・上野に次ぐアート発信地として名乗りを上げた。
日展、二科展など主な公募・団体展が、上野の東京都美術館から六本木へ大移動、１００万人を動員した。その影響で、東京都美術館の公募展入場者は１１月末までで約１３０万人、前年同期比７割強にとどまっている。
≪名画の威力≫
企画展の客足に関しては、やはり「名作強し」といわざるを得ない。イタリアから「受胎告知」がやってきた東京国立博物館「レオナルド・ダ・ヴィンチ」展は８０万人。フェルメール「牛乳を注ぐ女」を前面に出した国立新美術館「オランダ風俗画展」は４９万人。ともに名画１点の威力を見せつけた。
また、７０万人が入った「大回顧展モネ」（国立新美術館）、４８万人を動員した「オルセー美術館展」（東京都美術館）からは、根強い印象派人気がうかがえる。
≪境界なき表現≫
従来の「美術」の枠を超え、ボーダーレスな表現を扱う企画展が目立った。
東京都現代美術館で開催中の「ＳＰＡＣＥ ＦＯＲ ＹＯＵＲ ＦＵＴＵＲＥ」では、建築やデザイン、ファッションなど分野の違うクリエーターが集結。“遺伝子組み換え”による多様な表現が見どころになっている。それを可能にしているのが、テクノロジーの発達や圧倒的な情報化社会だという。
国立新美術館のこけら落とし展「２０世紀美術探検」は、「物質文明の世紀」をテーマに、絵画や彫刻だけでなく、工業製品や家具なども美術の文脈で並べた。同館ではさらに、ファッションと建築の相似性に着目した「スキン＋ボーンズ」展を開催。建築、ファッションが独創性を追求すればするほど、互いに交差していくのが興味深かった。
今や「美術」という言葉は、表現の実態に追いついていないのかもしれない。
≪環境という視点≫
地球温暖化や自然環境の悪化に本気で立ち向かうべき今、「美術に何ができるか」を模索する動きも出始めている。
例えば今年は、「水」をテーマにした展覧会が多かった。横浜美術館「水の情景−モネ、大観から現代まで」、サントリー美術館「水と生きる」、茨城県近代美術館「水のかたち」はいずれも、水にまつわる美術品を通して豊かな文化を再発見する試み。また、六本木に完成した「２１２１デザインサイト」で開かれた「ｗａｔｅｒ」展は、より環境寄りの視点で水の大切さを訴えた。
美術家で環境計画家の磯辺行久による「ＳＵＭＭＥＲ ＨＡＰＰＥＮＩＮＧ」展（東京都現代美術館）は、アートと環境の融合について考える好例となった。芸術家が世界の現実と関わっている限り、環境という視点も無視できないものになるだろう。（黒沢綾子）
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