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愛知 環境 防災・復興
やめよう設楽ダム!裁判&署名活動同行記
2007/12/28
39名が出席した原告団会議・弁護士会館地下1階会議室にて (写真はすべて、26日に筆者撮影)

 12月26日に、「やめよう設楽ダム!」裁判の傍聴と街頭署名活動に同行した。高速道路が事故で渋滞し、閉廷直後到着した豊橋方面の16人が間に合っていたら座れなかったほどの傍聴人が詰めかけていて、設楽ダム公金差止裁判への関心の高さを窺わせた。

 設楽ダムとは愛知県奥三河、一級河川・豊川の源流の1つ、かつてはアユ釣りで全国に知られ、バブル期にも河川事業で破壊されず豊かな自然が無傷で残った寒狭川に、容量9,800万㎥の巨大ダムを作ろうという計画だ。貯水容量のうち6,000万㎥を下流の宇連(うずれ)川や豊川へ、取水などで減った流水量を増やすために使うという。垂れ流すだけの水のためにダムを造るというムダの極地、時代錯誤もはなはだしい巨大自然破壊事業だ。
 
 設楽ダムの建設中止を求める会(市野和夫・代表)がダム建設への公金の支出差し止めを求める裁判の原告を募り、応じた168人が愛知県知事ほか1名を訴えた裁判で、今回が4回目の口頭弁論だった。しかしマイクロバスで来名の市野代表始め、意見陳述人の2人とも開廷5分前に到着せず、先着の原告らと「携帯禁止で連絡がつかなくなる」法廷に入廷した。

 午前11時30分。名古屋地方裁判所第2号合議法廷、民事第9部。松並重雄裁判長を先頭に陪席裁判官2人が定時に入廷した。原告、被告双方の代理人らがとりあえずというなりで立ち上がり、つられて傍聴席の人たちもバラバラ立ちあがるが、お辞儀をしかけたときには、裁判官たちはもう席についていた。浮かした腰のまま、それぞれ礼をしたり、しなかったり、なんだか間の抜けた感じのまま、ぞろぞろばたばた、てんでに席に着いている。

 その瞬間、書記官が「平成19年(行ウ)第32号 設楽ダム公金支出差止等請求事件」と事件名を告げ裁判が始まった。裁判長が既に提出済の第2、第3準備書面について言及したあと、被告からの準備書面に対し反論を述べた、今日提出した第4準備書面の確認がされた。

 その後、次回日程を3者で調整し、3月27日(木)午前11時30分からと決定。予定の意見陳述人が到着しないことから、裁判長が「意見陳述書はもう受け取っているのでこれで閉廷します」……え〜と声にならない声があちこちから。10分足らずで閉廷した。

原告団会議で、幻となった意見陳述をする伊藤政志さん

 閉廷後、隣接する弁護士会館で原告団会議が開かれ、在間弁護団長の公判解説に次いで、幻の意見陳述人となった原告2人から、それぞれ意見陳述が行われた。その要点を以下に記す。

加藤正敏さん
 豊川河口の漁村に生まれ高卒後、家業の海苔養殖と農業を兼業していました。三河港の埋め立て計画で5年ほどで転業しました。豊川や矢作川が注ぎ込む三河湾は浅い内湾で、豊富に水揚げされる魚貝類に依存する生活が古くから営まれてきました。海苔養殖も日本3大漁場と言われ、特に大量発生するアサリの稚貝は、県内はもとより県外へも出荷され、アサリ養殖業に大きな貢献をしてきました。

 ところが、昭和40年代に漁民の反対運動を押し切り、三河湾の埋め立てが進み工場・企業が誘致され、整備された港は車の輸出入共に日本一となりました。しかし三河湾の汚れはひどくなり、ハマグリは絶滅しアサリも絶滅を心配されるほどで、魚も種類、数共に激減しています。三河湾の汚濁は干潟の埋め立てや各種廃水、豊川用水による取水なども影響しているものと思われます。

 三河湾国定公園の名に恥じないきれいな三河湾に戻すため、これ以上の埋め立ては止めるべきで、三河湾の環境を悪化させる設楽ダムは造るべきではありません。緑のダムとなる山の保全こそがこれからの進む方向だと思います。

伊藤政志さん
 私は豊橋市東南地域で28年以上、野菜畑3.5ha、水田60aを耕作し、地域で中の上程度の専業農家です。豊川用水の使用ピークは8月下旬から9月中下旬ごろですが雨水の利用や保水性の高い土地のため、用水の利用は最小限になっています。豊川総合用水事業が完成した2002年以降は渇水時でも各農家は一度に大量の水を使う多孔ホース使用を制限する程度で、断水や時間制限などなく、灌水作業に苦慮しなくなりました。

 豊川用水の年間供給量は約2.7億㎥で、農業用水は年間約1.9億㎥と大きな割合を占めています。豊橋市の経営耕地面積は、1980年・7,510haが、2005年・5,830haと、約22%減り、耕作放棄地は、1980年142haから2005年・584haと4倍に増加しています。また、通年でかんがい用水が必要なハウスやガラス温室の面積は同期間に262hahaから456haと170%増加していますが、1995年の512haをピークに減少傾向にあります。

 次に、総農家戸数は1980年8,302戸に対し、2005年・4,313戸で約48%減少、農業就業人口では1980年・17,792人に対し、2005年・10,565人で約41%減少。そして農業生産額は、1980年617億円に対し、2004年514億円で約17%減少。豊橋市の隣り、合併で農業生産額日本一となった田原市も豊橋市と同様、減少傾向にあります。

 以上のことから、今後農業用水の需要は減ることはあっても、伸びる要因はほとんどない状況です。結論として、設楽ダム計画で農業用水・約800万㎥が掲げられていますが、これは必要ありません。必要のないダムの建設は税金の無駄遣いであります。

歳末・名古屋都心の繁華街で署名活動をする原告らの皆さん

 集会後、会議室で昼食を済ませた原告らは、午後1時30分、マイクロバスで中区・栄へ移動開始。名古屋一の繁華街のど真ん中、三越ライオン像前で10数名が署名を呼びかけた。歳末で賑わう街頭での呼びかけに、今風の若者から中年男女、熟年の方たちまで、幅広い層の方々が次々に署名に応じていた。

 「次は1月6日に豊川駅前でがんばりましょう」「もっともっと集めて県議会に提出しましょう」、「なにがなんでも設楽ダムの建設はやめさせましょう」など、口ぐちに明るい声で決意を述べて、午後3時過ぎ、原告団一行は豊橋方面へ帰っていった。

 これまで、ずいぶんいろいろな署名活動を見てきたが、こんなに反応がよく、積極的に向こうから近付いてくる人たちが多い署名は珍しい。おそらく毎日のように報道される地球温暖化を始めとする環境問題のニュースなどで市民の意識も高まり、積極的にかかわろうとする人たちが増えてきたのだろう。今後も引き続き設楽ダム関連の動向を注視したい。



(以下の写真は、クリックすると大きくなります)
 名古屋地裁・高裁合同庁舎
 名古屋地裁・高裁合同庁舎正面
 横断幕を掲げ、マイクで呼びかける「設楽ダムの建設中止を求める会」の皆さん。
(上野数馬)
◇ ◇ ◇
おもな関連サイト:設楽ダムの建設中止を求める会

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