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2007年12月26日

ETAの活動が活発化−仏、スペイン共同捜査チーム

フランスでスペイン人の警官2人殺害される

 フランスとスペインをまたぐバスク地方の独立を目指す過激派組織、「バスク祖国と自由」(ETA)が、活動を活発化させている。フランスでは捜査中のスペイン人警察官が殺害されるなどの事件も起きており、フランス、スペイン両国は共同の捜査チームをつくり、ETAの活動の封じ込めに躍起になっている。
(パリ・安倍雅信)

組織解体へ取り締まり強化

 スペインとの国境に近い仏南西部で今月一日、スペイン人警官二人が銃殺される事件が発生した。フランス警察当局は五日、ETAのメンバーとみられる容疑者二人を逮捕した。同事件は、ETAに対するフランス・スペイン両警察の共同捜査活動を行っていた際に起き、スペイン治安警備隊の警官がETA活動家三人組に銃撃された。

 銃撃を受けた警官一人は頭を撃たれ即死、重傷の同僚警察官も搬送先の病院で死亡が確認された。フランスの捜査当局は、仏南部の街ロデスで容疑者二人を発見し、約百キロ離れたマンドまで尾行、同地のホテルで一泊した二人は、翌五日に再びタクシーで三十キロ先のシャトーヌフ・ド・ランドン村に移動したところをバス停で逮捕された。

 当局によれば、逮捕当時、二人は多額の現金と銃を所持していたという。逮捕されたのはドアルメティア容疑者とイツレジ容疑者の男女二人で、イツレジ容疑者はETAの重要メンバーとして指名手配されていた。捜査当局は、二人が爆弾テロを計画し、準備中だったとみて尋問を進めている。

 スペイン警察官二人に発砲した容疑者二人が乗っていた車からは、三百グラムの塩素酸塩が発見され、爆発物への転用が目的だったとみられている。スペイン側では事件翌日には、ETAのメンバーと目される四十一人の身柄を拘束し、その中にはバスへの放火を計画していた者もいたとされている。

 警察官を撃った犯人は、女性の運転する車を乗っ取り、女性を人質にとって逃走していた。今月三日、ボルドー近くで、人質になっていた女性が警察署に逃げ込み、捜査当局は女性の証言から、犯人を割り出し、犯人の居場所を突き止め、逮捕に至った。

 フランスおよびスペイン政府は、警察官が殺害されたこと自体を「非常に深刻な状況」と受け止め、捜査に全力を挙げていた。一方、ETAは同事件で「スペイン警官を処刑した」との犯行声明を出し、今後もスペイン政府や治安機関と敵対していくことを強調した。

 ETAはこれまで一般市民を含む八百人以上を殺害しているが、フランス国内でETAの捜査中に警察官が殺害されたのは今回が初めてだった。スペインでの取り締まりが厳しくなる中、ここ数年、ETAメンバーは、フランスに拠点を移し、潜伏している。

 今年七月には、スペインとの国境付近で、百六十五キロの爆発物を輸送中の三人のETAメンバーが逮捕された。また、八月には、スペイン北部ビスカヤ県ドゥランゴの治安警備隊本部前で車が爆発し、隊員二人が負傷、警備隊車両十二台が破壊され、周辺の建物にも甚大な被害をもたらした。爆発規模は、今年最大規模となった。

 九月には、仏南西部カオールで、ETAのメンバー四人が逮捕され、その一人が、爆弾製造のエキスパートで最高責任者だったことが判明した。四人が逮捕されたカオールの建物内からは、三百五十キロ以上の爆弾、武器、多数の偽造文書などが押収された。

 捜査当局によると、ETAが政府の脅迫のために新型爆弾の製造過程を公開したビデオも、同建物内で撮影されたものだったことが判明したとしている。そのため、同建物がETAの爆弾製造の主力製造工場だった可能性が高いとみている。このほか、フランスの数カ所でETAの隠れ家とみられる建物から、武器弾薬、偽造文書などが押収されている。

 スペイン政府も「ETAが大規模なテロ計画を持っていたのは明白だ」(ルバルカバ内相)との認識を示している。ETAは昨年三月二十二日に、恒久停戦につながる無期停戦宣言を行ったが、昨年十二月に、マドリード・バラハス空港で自動車爆弾テロがあり、二人が死亡、今年六月に恒久停戦は破棄された。

 スペインでは今月十九日、ETA同様、バスク地方の独立を目指す過激派組織、KAS−EKINの活動家五十二人の裁判が行われ、四十七人に対して、ETAと密接に関係し、テロに深く関与したとして、合わせて五百年以上の禁固刑が言い渡された。同裁判を通して、バスク独立を目指す武装過激派組織の根強い活動が印象付けられた。

 スペインでは、ETAの政治部門だったバタスナ党が非合法化された後にも、政治への影響力行使が繰り返し試みられている。バスク国民党(PNV)の新指導者、イニゴ・ウルクジュ氏は最近、バタスナ党の後身の一つ、バスク愛国左翼連合との対話も排除しないとの考えを表明し、最大野党国民党(PP)にも参加を呼び掛け、波紋を呼んでいる。

 最高裁判所は今年五月、バスク民族主義行動党(ANV)が同月の地方選挙に候補者を送り込んだことに対して、候補者リストを無効とする決定を下した。同裁判所は、同党はバタスナ党の延長との認識を示した。

 ANVは、今月起きたスペイン警察官二人の殺害事件でも、事件の糾弾を拒否し、政府は、ANVの政治活動を禁じる方向で動いている。来年三月にはスペインでは総選挙が行われる予定で、ANVはじめ、バスクの過激派政治組織からの立候補擁立阻止を目指している。また検察もANVの内部捜査を行う準備を進めている。

 バスク地方の独立を目指す活動家は、次々に世代が代わり、二十代の若い活動家が精力的に動いているとみられている。フランス、スペイン両国の捜査当局は、大規模な爆弾テロや暗殺事件を阻止し、組織を解体させるために取り締まりを強化している。

(本紙掲載:12月25日)

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