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社説ウオッチング:韓国大統領選 北朝鮮は現実直視を

 ◇北朝鮮は現実直視を--毎日

 ◇支援見直せ--読売

 ◇日韓改善を--朝日・産経

 いつの世も「経済」と「暮らし」は、選挙民の心を吸い寄せるマジックワードである。

 いい例が92年の米大統領選だ。時のブッシュ大統領(現大統領の父親)は前年の湾岸戦争でクウェートを解放し、ソ連崩壊によって東西冷戦でも凱歌(がいか)を上げた。だが、大いに国威を発揚したはずのブッシュ氏は、「大事なのは経済なんだ。ばかだな」をスローガンとするクリントン候補(前大統領)に敗れ、再選を果たせなかった。

 7月の参院選も「暮らし」がものを言った。教育基本法を改正し、憲法改正に向けて国民投票法も成立させた安倍晋三首相(当時)は、「戦後レジームからの脱却」へ順風満帆とも見えた。しかし、参院選では年金問題をはじめとする逆風に見舞われ、「生活が第一」を訴える民主党の前に大敗した。

 ◇理念より「暮らし」

 そして、お隣の韓国。19日の大統領選で、経済と生活の立て直しを訴える李明博(イミョンバク)氏が48%強の得票率で圧勝した。10年ぶりの保守政権である。半数近い大学生が正規に就職できず、貧富の差も広がる韓国。理念やイデオロギーより「暮らし」の重みが増した。北朝鮮問題は目立った争点にはならなかったが、ミサイルを発射しようが核実験をしようが融和ありき。そんな寛大な思想(包容=太陽=政策)が敗れたように見える。

 「韓国の国民は、南北統一の理念を重視する政権より、現実主義的な対北政策を掲げた政権を選んだ。北朝鮮の金正日(キムジョンイル)政権はこの事実をしっかりと受け止めるべきである」と毎日の社説(20日)は主張した。

 包容政策は金大中(キムデジュン)前大統領のノーベル平和賞受賞に道を開き、盧武鉉(ノムヒョン)政権に受け継がれた。二つの政権は、日米との関係がぎくしゃくしても、さして関心を払わず、これが韓国経済のマイナス要因にもなった。李氏は当選後、「過去の政権は北朝鮮に対する批判を避けていた」と述べ、潮流の変化がはっきりした。

 20日の他紙を見てみよう。

 朝日は「私たちが最も期待するのは、日本との関係の改善だ」として「韓国の政権交代を機に、日韓の連携回復に弾みをつけてもらいたい」と要望する。北朝鮮への対応では、李氏がまだ明確な外交路線を語っていないとして「現実的な政策なら歓迎したい」とクールな態度だ。

 産経も日韓関係の改善に重点を置き、そのための努力を李氏に要望したが、「日本人は李明博氏のような『仕事師』が大好きである」という結びの言葉は、いささか主観的に過ぎるのではないか。

 日経は「韓国で初の経済界出身の大統領はまず、経済再生に全力を挙げるべきだ」と隣国の奮起を促す一方、過去10年の太陽政策で「核問題に大きな進展はなかった」と総括した。

 東京は「北朝鮮に核放棄を促し、少しでも北の人々の人権が改善され、実利が得られる政策を打ち出してほしい」と要望した。読売はもう少し踏み込んで「10月の南北首脳会談で盧武鉉政権が北朝鮮と合意した大規模支援の見直しも含め、対『北』支援のあり方の再検討が必要ではないか」と指摘した。

 対北政策、日韓関係、経済再建の三つが主な論点だが、毎日と読売は李氏の株価操作疑惑に言及し、捜査の行方に注目した。韓国紙のうち朝鮮日報、東亜日報、中央日報は、おおむね李氏に好意的な社説を掲げた。盧政権に近いハンギョレ新聞は、圧勝した李氏の慢心を戒める内容になっている。

 ◇MD、多様な議論を

 ところで、大統領選前日の18日(日本時間)にも、北朝鮮がらみの出来事があった。海上自衛隊のイージス艦が、ミサイル防衛(MD)システムを構成するSM3の発射実験をハワイ沖で行い、標的の迎撃に成功したのである。

 産経は「日米の同盟関係の重要性を再確認する契機」(19日)と述べ、21日には読売も「日米連携」の重要性を指摘した。読売は「MDの費用対効果を慎重に検討し、バランスの取れた防衛装備体系を作る必要がある」と抑制的なトーンも打ち出している。

 毎日は19日、MDを「夢のシステム」とする向きをけん制し、巨額の費用、日本以外の地域に向かいそうなミサイルへの対処、東アジアの「新たな軍事技術の開発競争」などの問題点を指摘した。

 MDは多様な視点で論じるべきだ。米国では90年代から、MDの技術的可能性や敵の対抗措置をめぐる論議が盛んだ。自然科学系のノーベル賞学者50人が大統領や連邦議会に書簡を送り、MDの開発・配備への懸念を表明したこともある。日本でも科学者が積極的に論議に参加すべきである。

 今年6月、久間章生防衛相(当時)は沖縄県での講演で、今のMDシステムで99%はミサイルを排除できるとの認識を示した。この楽観はどこから来るのだろう。飛来するミサイルが1~2基ならともかく、10基でもすべて迎撃できるのか。1基が複数の弾頭をばらまく多弾頭型ならどうか。国民の安全を真剣に考えれば、軽々しい発言はできない。

 民主党のクリントン前大統領は、MDの配備によって世界は危険になりかねないと判断した。共和党のブッシュ政権はMD開発にまい進し、今や国家的ビジネスの様相だ。MDに関係する国々の中で、日本ほど巨額の費用を負担する国はあるまい。日米の連携は大事だが、装備の性能と費用を厳密に検証すべきだ。言われるがままのドンブリ勘定では国民の暮らしに響く。【論説委員・布施広】

毎日新聞 2007年12月23日 東京朝刊

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