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【正論】日本国際フォーラム理事長・伊藤憲一 「新・戦争論」に託した思い

2007.12.24 03:17
このニュースのトピックス正論

 ■核がもたらす「不戦時代」の現実味

 ≪消極的平和主義からの脱却≫

 テロ対策特措法に基づき6年近くインド洋においてわが国が実施してきた自衛隊の給油活動は、11月2日、同法の期限切れに伴い撤収が発令された。その再開のための新特措法案については与野党が対立して現在成立の目途が立っていない。国民世論も再開賛成と反対に分裂している。

 ここで、両論の真の争点は何なのかを考えてみたい。それなしに国論の真の統一はあり得ないからである。平和主義について異論はないはずだ。争点は平和主義のあり方であり、それは消極的平和主義と積極的平和主義の相違である。消極的平和主義とは「永久に戦争というものはなくならない」との「戦争」観を前提にして、戦争に巻き込まれないためには、日本は「あれもしない、これもしない」とすべての積極的関与を拒否する考え方である。私は「否定形でしか考えない」平和主義と呼んでいる。

 しかるに、積極的平和主義者は、そこに的を絞った反論と説得をしていない。消極的平和主義者は、戦争に「巻き込まれる」ことを心配しているのに、「それでは日米同盟が持たない」とか、「世界で孤立する」とかと反論しても、議論はすれ違うだけである。

 消極的平和主義者の論理の陥穽(かんせい)は、その前提となる世界認識にある。戦争は「永久になくならない」ものではなく、人類はいまようやく「戦争時代」を卒業して「不戦時代」とも呼ぶべき時代に入りつつあり、そこでは世界各国は「不戦共同体」と呼ばれる国際的協調の輪を広げつつある。「戦争というものは永久になくならない」のではなく、「戦争というものは、もはや起こり得ない」国際政治構造が定着しつつあるのである。

 ≪戦争は「社会現象」である≫

 だからこそ、日本はそのような「不戦共同体」の一員として、「あれもする、これもする」という積極的平和主義へとその「平和主義」のあり方を転換しなければならない時点に来ているのである。積極的平和主義者こそが「不戦時代の到来」を語らねばならない時点が到来している。

 私は最近『新・戦争論−積極的平和主義への提言』という一書を上梓したが、それは「不戦時代の到来」を説く一書であった。少なからぬ友人たちから「伊藤は、リアリストだと思っていたが、理想主義者に転身したのか」とひやかされたが、「不戦時代の到来」を説くことは、リアリズムを放棄することではない。それこそがリアリズムなのである。

 もちろん「戦争」という言葉の厳密な定義が必要であり、その起源、成立、推移についての実証的な検証が求められる。私は、「戦争」を「永久になくならない」生理現象の一種としてではなく、「国際政治システム」のなかで一定の条件下に成立する「社会現象」の一種であり、そこには他のすべての「社会現象」と同様に始まりと終わりがある、と考えている。

 ≪冷戦時代から始まっていた≫

 実は、「不戦時代」への移行は冷戦時代に始まっていたのである。第3次武器革命と呼ばれる核兵器の登場により、冷戦時代は「熱戦」のない時代となった。冷戦時代の「冷戦性」はそのまま「不戦時代」の「不戦性」に通底していたのである。

 これ以上の具体的な説明は、拙著『新・戦争論−積極的平和主義への提言』に譲りたいが、「戦争は永久になくならない」という時代遅れの思い込みを共有することにおいて、日本の現実主義者・保守主義者たちと観念主義者・進歩主義者たちが世界認識を共有するとすれば、それは私から見て「これ以上にない」皮肉である。

 この皮肉な現実、つまり消極的平和主義者たちが「戦争時代」の世界認識を前提にして、「戦争か、平和か」「いつか来た道を繰り返すな」「若者を戦場に送るな」「海外で戦争をする国にはさせません」と絶叫しているとき、「世界はもう第二次世界大戦当時とは違うのですよ」と指摘できる現実主義者・保守主義者が日本にいないとすれば、それは日本にとっての不幸である。

 インド洋においてわが国が実施してきた自衛隊の給油活動は、世界的な「不戦共同体」を構築するための連帯行動の一環であった。今回の日本の撤収行動が、この世界的な連帯行動に水を注す結果となったことは否定しがたい。一日も早い給油活動の再開を望むのみであるが、問題の根には世界をどう見るかという、世界認識の問題がある。

 「戦争時代」が過去の幻影であることを語らずに、消極的平和主義者に積極的平和主義を説得することはできない。(いとう けんいち)

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