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無年金の不安を抱えて

ある日の年配者と若者の会話

亀井 貴也(2007-12-23 14:30)
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   記録的に雪が少ないといわれるこの冬は、家を取り囲む雪がない分、寒さが身に染みた。

 ようやく積もった雪を掻いて、歩く道をつける作業をしていると、春先に降るような湿った重い雪に温暖化を感じてしまう。

 やがて10年になる父の死は、年末も押し迫った12月だった。

 父は、兵隊を志願し、敗戦を迎えた。炭鉱暮らしの若い頃は、胸を患い、長く生きられないといわれた人だが、札幌に出て来て、生活を変えたのが幸いしたのか、ガリガリにやせた身体が太り始め、逆に糖尿を患う事となった。

 急に降った雪を掻きに外へ出ての、心臓発作による急死だった。

 命日に、近くの郊外型銭湯に行った。露天風呂で、亡くなった父の歳くらいだろうか、年配の方に、昔話を熱心に聴く若者の姿があり、どんな経緯で話をするようになったのか気にもなり、聞き耳を立ててみた。

 年配の方は、若い頃の仕事の待遇の話をされていた。十数年しか経っていない、バブル時期に、社会保険なんて当てにせず、老後の事など考えずに、言われるままに仕事をこなし、出来高を貰う生活だったと語り、「景気がよかったからなんとかなったんだろう」と振り返っている。

 「『出逢いは別れ』という言葉を知ってるかい? 出逢えば別れが必ず来る。多くを望まないでその時を楽しむって事さ」

 若者は、その年配者の話に「そうなんだ」と相槌をうち、話が終わると「ありがとうございます」と礼を言い、露天風呂から上がっていった。

 僕も年配の方から、昔話を聴かされる方だから、話の内容はよく理解できた。

 叔母は、結婚で退職の時に、年金の積立金を一時払いで全部貰ったお陰で、今、70歳を過ぎて、無年金で暮らす。年金なんか信用しない人だ。

 社会保障制度がどんなものなのか、理解していない多くの年配者たちと、今の格差社会でワーキング・プアを強いられる若者たち。

 その狭間の、社会保障制度が安定した時代に生まれた特定の世代もまた、多くのボーナスを貰うだけで、老後、無年金になるのだろうか?

 コロンビアの作家、ガルシア=マルケスの作品を映画化した『大佐に手紙は来ない』のように、功労報われないまま、恩給の知らせを待つ日々もある。

 湿った雪がその重みで家を押し潰さないように、近所の年配者は雪を掻く。
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