もっと知りたい

もっと知りたい
メニューに戻る
ミサイル防衛


 弾道ミサイルをミサイル防衛(MD)システムで迎撃する際の手続きを定めた改正自衛隊法が先の通常国会で成立した。北朝鮮が日本海へ向け弾道ミサイルの発射実験を行うなど、近年、日本でも弾道ミサイルの脅威は高まっているが、そもそもMDとはどのようなものか、その仕組みや課題をまとめた。


どんな仕組み 海上、地上から迎撃

 日本が導入しようとしているのは、飛来する弾道ミサイルを二種類の迎撃ミサイルで撃ち落とすシステムだ。

 地上レーダーや衛星が弾道ミサイル発射を探知すると、海上に配備されたスタンダード・ミサイル(SM3)が大気圏外で迎撃、撃ち漏らした場合は地上配備のパトリオット・ミサイル(PAC3)が着弾直前に迎え撃つという二段構えだ。

 政府は二○○三年末に導入を決定、○六年度末からの配備を計画している。費用は約一兆円。

 従来の法律では、安全保障会議や閣議を経て、首相の「防衛出動」発令がなければ、迎撃ミサイルは発射できず、約十分で飛来する北朝鮮の弾道ミサイルを迎え撃つことは事実上不可能だった。

 そこで、政府は国会で自衛隊法を改正し、手続きを簡略化。《1》燃料注入など弾道ミサイル発射の具体的な兆候がある場合は、首相の事前承認を得て迎撃《2》大規模な軍事演習など、明確ではないが何らかの兆候がある場合は「緊急対処要領」に基づき、防衛庁長官が現場指揮官に迎撃を事前に命じておける−とした。

ミサイル防衛をめぐる主な出来事
1972年 米国とソ連が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約に調印
83年 レーガン政権が戦略防衛構想(SDI)発表
93年 クリントン政権が弾道ミサイル防衛(BMD)推進を表明
北朝鮮が日本海に向けノドン発射
98年 北朝鮮が三陸沖にテポドン発射
99年 次世代型MDに関する日米共同技術研究スタート
2001年 ブッシュ政権がミサイル防衛(MD)推進を表明
02年 米国がABM条約から脱退
03年 日本がMDシステム導入を閣議決定
05年 大野長官が次世代型MDに関する日米共同開発への移行を表明
06年 航空自衛隊入間基地(埼玉県)など全国3カ所の高射部隊にPAC3配備開始予定
次世代型MDに関する日米共同開発開始予定
07年 SM3搭載のためイージス艦4隻の改修開始予定
11年 MD本格運用予定

費用対効果は 1兆円かけても全国カバー無理

 かつてない大掛かりなシステムだが、費用対効果の面で疑問の声も少なくない。SM3は海上自衛隊のイージス艦四隻に搭載される予定だが、うち二隻は訓練や定期点検のため常時使用できず、残り二隻だけでは「日本全土を二十四時間、三百六十五日カバーすることは無理」(防衛庁幹部)。常に迎撃可能な態勢を取るには最低でもイージス艦十六隻が必要だが、財政難の中で実現性は乏しい。

 一方、地上配備のPAC3は航空自衛隊入間基地(埼玉県)、同岐阜基地(岐阜県)、同春日基地(福岡県)の高射部隊に配備される方向。これらは「政治、経済の中枢」(大野功統防衛庁長官)の首都圏などを守るためのもので、北海道など地方は対象外。つまり一兆円もかけながら全国を常時カバーできないシステムなのだ。

 迎撃ミサイルの信頼性にも疑問が残る。政府はSM3は七回中六回、PAC3は十二回中十回成功したという米国の実験結果を公表したが、これらは「おとり弾」を使わないなど実戦に即した実験ではない。タイプは別だが、米国では地上配備型ミサイルの実験失敗が相次ぎ、関連予算が削られたりもしている。

問題は 集団的自衛権 行使の恐れも

 憲法が禁じる集団的自衛権行使につながる恐れもある。改正自衛隊法は迎撃対象を「現に日本に飛来する弾道ミサイル等」に限定しているが、地点が予測できない場合は「迎撃せざるを得ない」(防衛庁幹部)ため、結果的に米国のグアムなどに向かう弾道ミサイルを撃ち落としてしまう可能性も否定できない。

 迎撃手続きを簡略化した結果、シビリアンコントロール(文民統制)が形骸(けいがい)化する危険性もはらむ。

 弾道ミサイル発射に関する明確な兆候がない場合、高射部隊などの展開や弾道ミサイルの探知、迎撃など一連の行動に首相は一切かかわらず、迎撃するか否かの判断は事実上、現場指揮官の判断に委ねられる。

 大野長官は国会答弁で日米共同技術研究が行われている次世代型MDに関して「米国から要請があれば第三国への供与はあり得る」と明言、将来的に日本が開発、生産した関連部品が米国経由で他国に輸出される可能性を認めた。これは平和国家・日本が国是としてきた武器輸出三原則を骨抜きにしかねない発言だ。

メ モ

 MDは米国が冷戦下の1960年代に旧ソ連の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を迎撃するシステムを検討したのが始まり。83年にはレーガン政権が「スターウォーズ計画」の名で知られる戦略防衛構想(SDI)を発表、クリントン、ブッシュ両政権のMD構想に引き継がれた。

 日本では、北朝鮮が日本上空を飛び越える長距離弾道ミサイル「テポドン」の発射実験を行ったのを契機に、北朝鮮脅威論が高まり、政府は99年、次世代MDの日米共同技術研究に踏み切った。日本以外では英国やドイツ、イタリアなどが米国との共同開発を進めている。一方、カナダは今年2月にMD計画不参加を表明した。