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暖かな破局:第1部・温暖化の政治経済学/3 日本の「場当たり的」環境外交

 ◇かすむ「美しい星」

 来年7月の北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)。最大のテーマは地球温暖化問題だ。ホスト国日本は主導権を握れるのか。

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 「よく頑張ってくれたね」。今年6月、独ハイリゲンダムのバルト海を一望するイタリア料理店。サミットを終えた安倍晋三氏(53)は、終始上機嫌で事務官ら約20人をねぎらった。

 会議では温室効果ガスの厳しい排出削減義務を求める欧州勢と、消極的な米国が対立した。安倍氏は折衷案として「世界全体で50年に排出半減」を目指す「美しい星50」構想を提案。ブッシュ米大統領は「国内理解が進んでいない」と難色を示したが、「努力目標という認識には立つのですね」と押し切り、「半減を検討する」との合意にこぎつけた。

 「私の提案がなかったら決裂していた」。洞爺湖サミットで議長を務める心積もりの安倍氏は冗舌だった。

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 97年に日本で採択された京都議定書。政府は温室効果ガスを90年比6%減とする目標を受け入れた。まとまらないとホスト国のメンツが立たない。橋本龍太郎首相(当時)が最終決断した。数値は欧州連合や米より緩いが、省エネの進んだ日本には不利といわれた。05年度の日本の排出量は90年度比7・8%増。順調に減らす英独などと対照的で、政財界に「議定書は失敗だった」との声が渦巻く。

 内藤正久・日本エネルギー経済研究所理事長は「英国は交渉中の数字をオックスフォード大に送り、妥当性を検討していた。国益と科学的根拠に基づく交渉が必要だ」と言う。

 安倍氏が温暖化問題に力を入れたのは、対策に熱心な欧州歴訪後の今年初めからだった。前年末の閣僚辞任などで支持率は低下、側近は「温暖化問題で欧米を仲介すれば得点が稼げる」と助言した。

 官房長官ら4閣僚が「50年までに半減」との構想を練った。サミット直前の5月末、安倍氏は自ら名付けた「美しい星」を公表する。「米大統領の一般教書演説のようだ」。官邸は自賛の声に包まれた。

 そして、独ハイリゲンダム。半年足らずでまとめた付け焼き刃の「美しい星」構想が、最後にかげった。メルケル独首相が各国首脳を出し抜き単独会見、合意を自らの手柄にしてしまったのだ。議定書交渉にも加わった手だれの環境政治家で、キャリアの違いは明白だった。「やられちゃった」。安倍氏は漏らした。

 その後も安倍氏は、洞爺湖サミットのプレスセンターの完全リサイクル化などを目指したが、環境は参院選の争点となりきらず、自民党は惨敗。安倍氏は結局、政権を投げ出した。

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 福田康夫首相(71)は「美しい星」を踏襲する。10月の参院予算委員会では、排出総量の国内目標を定める意向を示すなど、その実現に意欲を見せる。だが、官邸からは「国会対応で手いっぱい」との声も漏れ、シナリオ作りは進まない。

 バリ会議で環境NGOは4日、日本を「温暖化対策に最も消極的な国」に選んだ。「洞爺湖で日本は恥をかく」。外務省幹部は危惧(きぐ)する。【温暖化問題取材班】=つづく

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 ご意見・情報をお寄せください。kankyo@mbx.mainichi.co.jp▽ファクス03・3215・3123▽〒100-8051 毎日新聞科学環境部「温暖化問題取材班」

毎日新聞 2007年12月13日 東京朝刊

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