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暖かな破局:第1部・温暖化の政治経済学/1(その1) 銃取るしかなかった

玉ねぎの苗を植えるハジバハラムさん(中央)。山につもる雪も少ない。「干ばつで大勢が村を離れた。水こそが平和をもたらす」と語った=アフガニスタン・ナンガルハル州で6日、阿部周一撮影
玉ねぎの苗を植えるハジバハラムさん(中央)。山につもる雪も少ない。「干ばつで大勢が村を離れた。水こそが平和をもたらす」と語った=アフガニスタン・ナンガルハル州で6日、阿部周一撮影

 暖かな破局。いま地球上に起きつつある現象を、私たちはこう呼ぼうと思う。世界中でハリケーンや干ばつによる被害が拡大し、氷河の後退も進む。地球温暖化がその主因であり、戦争にすらつながりかねない。手をこまねいていると、さらに地球の状況は悪化すると、世界の科学者が警告を発している。連載第1部は、アフガニスタンから始めたい。

 ◇万年雪消え乾く耕地

 「畑から一滴の水もなくなった。食えないから武器を取るしかなかったんだ」

 アフガニスタン東部のナンガルハル州。標高600メートルの小さな集落で、農業を営むマフマユーソフさん(30)は口を開いた。

 10年ほど前、激しい干ばつに襲われ、家族5人が飢餓に直面。食いぶちを求めて武装組織に加わった。カラシニコフ銃を肩に道行く車を止め、金品を奪った。「米兵を狙ったことは?」と問うと、同郷の通訳がさえぎる。「その質問はだめだ」

 03年、日本のNGO「ペシャワール会」(事務局・福岡市)が農地かんがい事業を始めたと聞き、組織を離れた。今月3日、復活した畑に、約10年ぶりに小麦をまいた。

 「この水は命だ。みなが平和に暮らせる」

 イスラム原理主義の旧支配勢力、タリバン政権崩壊から6年。アフガニスタンは今、タリバン復活が顕著だ。国土の約3分の1を実効支配するとも言われている。長引く干ばつによる食糧危機が、現政権や国際社会への反発に転化し、反政府運動を後押しする。その干ばつには、地球温暖化が影響している。

  ×   ×

 「見ろ、山に雪がない。雨も降らない。この20年で最悪だ」。同州の地主、ハジバハラムさん(63)も水不足を嘆く。川の水位が低下、長年使ってきた取水堰(ぜき)では水を取り込めなくなった。ペシャワール会の用水路がなければ畑は全滅だった。

 村はかつて、7000メートル級の高峰が連なるヒンズークシ山脈から流れ出るクナール川で潤されていた。だが、春先から夏にかけて川がはんらん、その後は一転して水位が急減するようになった。

 上空を飛行する米軍ヘリを見ながら言う。

 「日本のNGOには感謝している。日本も軍を出す? 勘弁してくれ。ここはもう兵隊でいっぱいだ」

 アフガニスタンが深刻な水不足に襲われるようになったのは、90年代後半からだ。世界保健機関は00年、「500万人が飢え、100万人が餓死線上にある」と警告した。

 国連環境計画によると、20世紀中にアフガニスタンの平均気温は2度程度上昇した。

 「温暖化で雪の代わりに雨が降り、山の雪解けも早まって、山から川へ一気に水が流れ出る。貯水効果を持つ万年雪が消え、乾期となる夏場には川が枯れてしまう」と、岩田修二・立教大教授(自然地理学)は説明する。

 旧ソ連のアフガン侵攻と内戦、そして01年以後の対テロ戦争。戦乱による国土の疲弊に地球温暖化が追い打ちをかける。アフガニスタン東部には今年、難民約25万人が帰還したが、食料も雇用も不十分なままだ。

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 ■ことば

 ◇アフガニスタンを巡る紛争

 東西の交易の要路にあるアフガニスタンを舞台にした紛争は多い。旧ソ連は79年、軍事侵攻を開始。ゲリラ組織の抵抗で89年に完全撤退したが、旧ゲリラ各派が内戦に突入する。混乱の中でイスラム原理主義を掲げるタリバンが勢力を伸ばし、96年には首都カブールを制圧。だが、01年9月の米同時多発テロ後、米軍などの報復攻撃でタリバン政権は崩壊。04年にカルザイ大統領が正式就任したが、現在も混乱は続く。

毎日新聞 2007年12月11日 東京朝刊

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