11月22日に発売が開始されたAMDのクアッドコアCPU「Phenom」。現時点では、2.3GHz動作の「Phenom 9600」、2.2GHz動作の「Phenom 9500」の2製品が店頭に並んでいるが、2008年以降はより高クロックで動作するモデルが登場する予定だ。その1つが2.6GHz動作の「Phenom 9900」であるが、エンジニアリングサンプル(ES)品を試用する機会を得たので、そのパフォーマンスを紹介したい。 ●一クラス上の製品となるPhenom 9900 今回試用するのは、Phenom 9900相当のES品とASUSTeK製AMD 790 FX搭載マザーボード「M3A32-MVP Deluxe」を組み合わせた評価キットである(写真1)。Phenom 9900のES品には「1.30V」という印刷があり、Phenom 9600/9500などの定格電圧1.1〜1.25Vよりも高い電圧が指定されていることが分かる(写真2)。リビジョンは以前にテストしたPhenom 9600と同じだが(画面1)、クロックが高い分、電圧を上げざるを得ないのだろう。
また、スペック上も違いが大きい。まず、HyperTransport Linkのクロックが1.8GHzから2GHzとなった(画面2、3)。よって、HT Linkの帯域幅は16GB/secへ引き上げられている。これに連動してPhenom内に搭載されたメモリコントローラなどのノースブリッジ機能も2GHz動作となっている。これはパフォーマンスへの好影響が期待できる部分だ。 しかし、良い点ばかりではない。先に電圧が向上している点を紹介したが、本製品のTDPは140Wと、Phenom 9500/9600の95Wから大幅に引き上げられている。中間の製品となるPhenom 9700は125W TDPが予定されており、このPhenom 9900はさらに高いTDPとなってしまっているのだ。 このようにPhenom 9600/9500とPhenom 9900の仕様は違いが大きい。同じデスクトップ向けセグメントに属する製品ではあるが、Phenom 9900は一クラス上の製品として認識すべきといえる。とくに冷却パーツには気を使う必要があるだろう。 ●2.6GHz動作でどこまでパフォーマンスを伸ばすか検証 それではベンチマーク結果をお伝えしていきたい。環境は表に示した通り。Phenom 9600とCore 2 Quad Q6600の結果は、以前の記事から流用している。そのため、Phenom 2製品でマザーボードが異なっているので注意されたい。
【表】テスト環境
またPhenomの上位モデルのテストということで、Core 2 Extreme QX6800の倍率を変更して2.66GHz動作させた環境もテストを追加した。これはCPUのステッピングも同一である、Core 2 Quad Q6700をイメージした環境となる。このテストにはASUSTeKのIntel X38搭載マザーボード「Maximus Formula」を利用している(写真3)。 では、順にテスト結果を見ていきたい。まずはSandra XIIの「Processor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark」(グラフ1)、「.NET Arithmetic/Multi-Media Benchmark」「JAVA Arithmetic/Multi-Media Benchmark」(グラフ2)と、PCMark05のCPU Test(グラフ3、4)である。 2.3GHzのPhenom 9600と2.6GHzのPhenom 9900では、13%ほどクロックが上昇していることになるが、それにおおむね近いスコア向上を見てとることができる。CPUの演算能力はきっちり引き出されており、この分のパフォーマンス向上が得られるということになる。 続いては、Sandra XIIの「Cache & Memory Benchmark」(グラフ5)と、PCMark05の「Memory Latency Test」(グラフ6)である。キャッシュが有効な範囲では、演算性能と同じくクロック比に近いパフォーマンス向上を見せており、これも妥当な結果だ。 少々バラついたのがメモリの性能である。Sandraによるメモリアクセス性能は、Phenom 9900が優れた性能を見せた一方、レイテンシは大きいという結果になっている。両アプリケーションのテスト内容による違いという可能性もあるが、Phenom 9900のメモリコントローラの素行にやや不安も感じられる。 ちなみに、PhenomのB2リビジョンに関しては、TLBにエラッタがあるという情報がある。これを無効化するBIOSもあるが代わりにパフォーマンスは大きく下がる。今回のASUSTeK製マザーにはVersion.0603のBIOSが適用されているが、CPUの演算性能やメモリのキャッシュ性能が、TLBを無効化していないPhenom 9600の結果からクロック比通り伸びていることから、おそらくTLBは有効になったままのBIOSだろう。よって、TLBの件と、このメモリレイテンシ増加は無関係と考えている。
次に実際のアプリケーションの性能である。テストは、「SYSmark 2007 Preview」(グラフ7)、「PCMark Vantage」(グラフ8)、「CineBench R10」(グラフ9)、「動画エンコードテスト」(グラフ10)だ。 全般にPhenom 9900はきっちりパフォーマンスを伸ばしていることが分かる。ただ、今回追加テストした2つの環境で、ともにHDDパフォーマンスが伸び悩む傾向が出てしまった。原因は特定できていないのだが、そのため、SYSmark2007やPCMark Vantageでは、流用した結果よりもやや低いスコアになる傾向が出ている。ただ、Phenom 9900はPhenom 9600を上回る結果も多く、また2.66GHz動作のCore 2 Extreme QX6800に迫る点も多い。 Intel製品との比較を大局的に見るとCore 2 Extreme QX6800@2.66GHz(つまりCore 2 Quad Q6700相当)と同等かやや下、Core 2 Quad Q6600よりは上といったところだろうか。やはり動画エンコードへの強さは目立っており、過去AMD製品が背負っていた動画エンコードでパフォーマンスの伸び悩みを見せる点は、Phenomによって解消されたと考えていいだろう。
続く3Dベンチマークは、「3DMark06」(グラフ11、12)、「3DMark05」(グラフ13)、「Crysis Single Player Demo」(グラフ14)、「Unreal Tournament 3 Demo」(グラフ15)、「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ16)の結果を掲載している。これらの結果もPhenom 9600からのパフォーマンスアップは確実に得られている。 ただ、Core 2両製品との比較では、実際のゲームを利用したテストにおいて若干不利な面が見られる。Core 2 Quad Q6600に劣るシーンも多く、ゲームユースにおいてはCore 2 Quadシリーズに有利な傾向となっている。 最後に消費電力のテストである(グラフ17)。まず、お断りであるが、今回のテスト環境は、すべてマザーボードが違うという少々特殊な状況である。また、Core 2 Quad Q6700をイメージした環境としてCore 2 Extreme QX6800の倍率を変えて動作させてもいるので、消費電力の比較は参考程度に捉えていただきたい。 それにしてもアイドル時の消費電力が異常に高い。これはクロックゲーティングが正しく動作していないと思われる。ES品であるためだろう。製品版では、もう少し低い数値になると想像している。 アプリケーション使用時の消費電力は、Phenom 9600と比較しても大幅に増してしまっていることが分かる。マザーボードが異なる環境とはいえ、40Wという数値はあまりに大きい。TDPの差が45Wであることからも、かなりの消費電力差を覚悟したほうが良さそうである。
●パフォーマンスを伸ばす来年以降のPhenomに期待 今回テストしたPhenom 9900は、以前にテストしたPhenom 9600から電力や発熱以外の面ではスペック的に劣る部分はなく、基本的には安定したパフォーマンス向上が得られる印象だ。 Phenomシリーズは、年内はPhenom 9600 Black Editionが登場する程度で、クロックの向上はオーバークロック動作にゆだねられることになる。正式にパフォーマンスが向上していくのは2008年以降ということだ。 Phenom 9600では、似た価格帯にあるCore 2 Quad Q6600よりも若干劣るパフォーマンスであることは否めないが、Phenom 9900になるとCore 2 Quad Q6700にアプリケーションによっては迫るパフォーマンスを持っている。価格付けによっては、Phenomシリーズの価格性能比をアピールするチャンスも生まれてくるだろう。 ただ、冷却に関する注意は付きまとう。Phenom 9700(2.4GHz動作)が125W、今回テストしたPhenom 9900は140Wに達してしまっている。メインストリーム向け製品は95Wに留めることに成功しているIntelに比べて、使い勝手の悪さは感じてしまう。 また、Intelは来年以降、45nmプロセスの製品をメインストリームへも展開してくる。Phenomにとって厳しい状況が続くのは事実だが、着実にパフォーマンスアップを図っていく2008年以降に期待したい。 □関連記事 (2007年12月15日) [Text by 多和田新也]
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