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2007年12月13日(木曜日)付

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年金記録―どうする、舛添さん

 年金の記録があるのに持ち主が分からない。いわゆる「宙に浮いた年金記録」約5千万件のなかで、コンピューターで名寄せしても解明できない記録が約4割にあたる1975万件もある――。

 年金加入者や受給者に、過去の保険料納付記録を通知する「ねんきん特別便」の発送が始まるのを前に、舛添厚生労働相はこんな数字を公表した。

 社会保険庁の手で約2割は名寄せができた。1割は氏名がのっていないために確認中だ。死亡が判明したり脱退手当金をもらったりして受給に結びつかない記録も約3割あった。

 しかし、残りの4割は結婚などで氏名が変わったり、過去の記録を間違って入力したりしたため、名寄せできない。本人の申し出や原簿の台帳との突き合わせが必要となる。時間がかかるし、最終的に本人に結びつかない恐れも強い。

 気の遠くなるような数字である。ずさんな仕事ぶりに改めて怒りがこみ上げる。社保庁の総力をあげて解明にあたるべきだろう。

 それにつけても釈然としないのは安倍前首相や舛添氏のこれまでの言動だ。

 「最後の一人、最後の一円まで確実に給付につなげる」。安倍氏は参院選挙でこう訴えた。舛添氏も大臣就任にあたり同様の約束をした。その際に強調されたのが3月末までに、と言う照合の期限だ。3月末までに「宙に浮いた年金記録」の問題が解消される。そう思った人は少なくない。

 ところが舛添氏は「あれは選挙のスローガン。意気込みを示したまで」と修正した。今になって作業は「エンドレス」といわれても誰も納得しないだろう。安倍氏の釈明も聞いてみたい。

 舛添氏は派手なパフォーマンスで国民受けを狙う劇場型政治が目立つ。が、そんな手法ではかえって不信を招くことになりかねない。やはり、ここはもっと率直に説明し、国民の協力を求めることが必要なのではないか。

 年金では、ほかに保険料を納めたのに記録がない「消えた年金記録」の問題もある。こちらは総務省に作られた第三者委員会で処理しているが、申し立てがあった2万7000件のうち、記録が回復したのはまだ数%にすぎない。

 年金の制度をめぐっては、保険料を固定し年金水準を削減するいまの制度を維持するのか。それとも、基礎的な部分は最低保障年金として税で賄うのか。与野党の考えは食い違ったままだ。

 おまけに、すでに法律に定められた基礎年金への国庫負担の3分の1から2分の1への引き上げも、いまだに財源のめどが立っていない。

 老後の支えとして「安心できる年金」は欠かせない。年金への信頼を取り戻す第一歩として、年金記録の回復は避けて通れない道だ。政府がどこまで「宙に浮いた年金記録」を減らすのか、それをエンドレスで見届けたい。

ビラ配り有罪―常識を欠いた逆転判決

 40戸からなるマンションがある。玄関にオートロックは付いていないが、管理組合は部外者が廊下などの共用部分に立ち入ることを禁じ、その旨の張り紙をしていた。

 ここに無断で入り、最上階の7階から順番に各戸のドアポストに共産党のビラを入れていった男性の住職がいた。

 東京高裁は「住居侵入罪に当たる」と判断し、一審の無罪判決を破棄して罰金5万円を言い渡した。

 住職の行為は、刑罰を科すほどの犯罪なのか。罰することでビラを配る人の表現の自由を侵害することにならないか。裁判ではこうした点が争われた。

 東京高裁の理屈はこうだ。憲法は表現の自由を無制限に保障しておらず、公共の福祉のために制限することがある。たとえ、思想を発表するための手段であっても、他人の財産権を不当に侵害することは許されない。住民に無断で入ってビラを配ることは、罰するに値する。

 一方、無罪とした東京地裁はどう考えたか。マンションに入ったのはせいぜい7〜8分間。40年以上政治ビラを配っている住職はそれまで立ち入りをとがめられたことがなかった。ピザのチラシなども投げ込まれていたが、業者が逮捕されたという報道はない。ビラ配りに住居侵入罪を適用することは、まだ社会的な合意になっていない。

 市民の常識からすると、一審判決の方がうなずけるのではないか。住職の行動が刑罰を科さなければならないほど悪質なものとはとても思えないからだ。

 もちろん、住民の不安は軽視できない。マンションの廊下に不審者が入り込んで犯罪に及ぶこともある。ビラを配る側は、腕章を着けて身分を明らかにしたり、場合によっては1階の集合ポストに入れたりすることを考えるべきだ。

 しかし、そうした配り方の問題と、逮捕、起訴して刑罰を科すかどうかというのはまったく別の話だ。

 今回、住職は住民の通報で逮捕された。検察官が勾留(こうりゅう)を求め、裁判官がそれを認めたため、住職は起訴されるまで23日間も身柄を拘束された。

 判決は、住職の勾留された日数を1日5000円に換算し、5万円の罰金から差し引くとした。だから、刑が確定しても住職は1円も払う必要はない。いったい、何のための逮捕、起訴だったのか。

 事実上、罰金を払わなくてもいいとはいえ、有罪判決という事実は残る。乱暴な捜査のやり方も追認されたことになる。それが怖いところだ。

 自衛隊のイラク派遣反対のビラを防衛庁官舎で配って住居侵入罪に問われた市民団体の3人に対しても、東京高裁は一審の無罪判決を取り消し、罰金刑を言い渡している。理屈は今回と同様だ。

 表現の自由への目配りを欠いた判決が高裁で相次いでいることは心配だ。いずれも被告側は上告した。市民の常識に立ち戻った判断を最高裁に求めたい。

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