2007/11/21(水)放送

犯罪被害者遺族の外国人、「終身刑」求めバイクで全国行脚
海外のニュースで時々耳にする「終身刑」。日本にこの制度はありませんが、京都に住む外国人の男性が「終身刑」の制定を求めて、文字通り、日本全国を走り回っています。

■放火殺人で妻と娘を・・・



ストッキ・アルベルトさん。イタリア出身の51歳。
剣道を学ぶために来日して以来、もう30年以上が経つ。

記者「ずっとバイクで、しんどくないですか?」
アルベルト「全然しんどくないと言えば、嘘になるね。まぁ、大丈夫・・・」
アルベルトさんは、今、全国を行脚して自分の考えを訴え、署名を集める活動を続けている。車でも電車でもなく、バイクで。その目的は・・・。
アルベルト「終身刑が成立するまで。命ある限り続けます」




3年前、アルベルトさんの自宅は放火による炎に包まれた。
この時、長女は家を出ていて無事だったが、妻の今西公子さんと二女の友理恵さんが逃げ遅れ、帰らぬ人となった。

アルベルト「寝てたら、突然大きな声で『アルベルト火事だ!』と。それで目が覚めた。気が付いた時には遅かった。火の海の中・・・」

アルベルトさんは、家族に「窓から飛び出せ」と叫んだが・・・。
アルベルト「窓から飛んだときに、家内と子どもが中にいるのがわかる。反応がない。亡くなっているのもわかる。その時、一緒に死にたかった・・・。当然ですね」



犯人の男は6度の服役歴があり、事件の2年前に刑務所を出たばかりだった。
放火・殺人・窃盗など、7つの罪に問われた男に司法が下した判決は・・・。

無期懲役。

2人の尊い命を奪った男に対し、アルベルトさんの望んだ刑は下されなかった。
アルベルト「軽いどころではない。『無期懲役』と『死刑』の間は遠すぎる。差がものすごく激しいです。きょう入ってあした出ても『無期懲役』。きょう入って30〜40年後に出ても『無期懲役』」



日本における『無期懲役』とは、「満期のない懲役刑」であり、原則は死ぬまで刑が続く。
しかし、服役期間が10年を超えると「仮釈放」の可能性が生まれ、社会復帰のチャンスが与えられる。仮釈放されるまでの平均服役年数は、25年1ヵ月(2006年矯正統計年報より)。

『終身刑』と呼ばれる刑は世界の多くの国に設けられているが、実は仮釈放制度がある国がほとんど。「仮釈放のない終身刑」が置かれているのは、アメリカ(一部の州を除く)・イギリス・中国など、ほんの一握りだ。



【ストッキ・アルベルトさん】
「犯罪者が増えているのに、日本の法律は甘い。ひとつの方法は、犯罪者を簡単に刑務所から出さない『終身刑』です」

「犯罪者たちはそこできちんと責任をとって反省してもらいたい。終身刑はそういう意味もある。最後まで毎日『悪いことしました』と祈って・・・。そうしたら、私たちも少しは許せるかもしれない」



『凶悪犯罪者に、終生の懺悔を』。
事件後、終身刑の制定を求め、アルベルトさんの全国行脚が始まった。これまでに47都道府県を既に2周。3周目となる今回は、主に各地の政治家を訪ねている。

アルベルト「娘がバイク大好きだった。今でも後ろに乗ってる感じがする。『あ、友理恵ちゃんがいる気がする』って。でも、いない。寂しいね・・・」

友理恵さんを後ろに乗せ、バイクで旅したこと。それが一番の思い出だ。



今回の目的は、署名活動だけではない。
国会議員を紹介してもらうなど、法改正に向けて、より積極的なアプローチを試みている。
地道な活動の成果もあり、バックアップしてくれる国会議員も現れた。
【公明党 荒木清寛参院議員】
「今の時点で、終身刑導入に向けての機運が国会内で盛り上がっている状況ではないけれども、何とか導入に向けた道筋をつけていきたい」

また、各地の記者クラブで会見を開き、自らの体験と活動を訴える。メディアに載れば、また少しずつ支援の輪が広がっていく。




この日、9日ぶりに京都の我が家に帰ったアルベルトさん。
アルベルト「これも署名です」
記者「全国から送られる?」
アルベルト「そうですね。お〜、和歌山県」

【ストッキ・アルベルトさん】
「この活動の力がどこから来るか、私もよくわからない。こんなに苦しんでも前向きにできるのは、きっと天からのね・・・。亡くなった方には、私の所だけじゃなくて、無駄な死に方をしてほしくない」



娘のぬくもりを背に、前へ・・・。
今月、アルベルトさんは、長女と共に、念願だった法務大臣との面会を果たした。
鳩山法相「これが署名?倉敷・岡山・宮崎・・・みんなバイクで?」
アルベルト「みんなバイクです」

15分の予定だった面談は、30分にも及んだ・・・。
【ストッキ・アルベルトさん】
「ありがたいです。非常に話のわかりやすい法務大臣ですね」
【アルベルトさんの長女・美由紀さん】
「階段を上がったという感じです」

【ストッキ・アルベルトさん】
「まだ道は長いです。大切なのは、諦めないこと。命ある限り、前向きにいきます」



大きな一歩を刻んだアルベルトさん。
しかし、終身刑の導入という目標は、まだ遥か彼方。長い長い旅は終わらない・・・。