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タイの「人身売買」 1人240万円、「品評会」で仲介

2007年12月10日11時19分

 タイ人女性を不法に入国させ、強制的に売春などをさせる「人身売買」に関与しているタイの人身売買組織の関係者と朝日新聞記者がバンコクで接触に成功した。日本に連れて来られ、売春などを強要される外国人女性はタイ人が一番多い。日本での生活費などと称して法外な借金を背負わされ、長期間にわたり自由を奪われる。入国審査で指紋採取が義務づけられたが、この関係者は、他人のパスポートを使う方法でしばらくは不法入国は続けられると話した。

 11月下旬、タイの首都バンコク。午後、指定されたホテルの一室に、タイ人女性のグループが入ってきた。人身売買組織の元締の女性(45)と仲介役の女性(38)、日本に「売られる」女性が3人。

 「私がボスです」と元締女性は名乗った。見た目はどこにでもいそうな中年女性だ。

 女性を日本の受け入れ側に紹介する機会を、タイ人仲介者の女性は「品評会」と呼んだ。ボスのところには、人身売買と知りながら「仕事」と割り切って日本行きを希望する女性が多く訪ねて来る。女性に服を脱がせ、出産の跡がないかなどを調べることも受け入れているという。

 「240万円を用意できますか」。ボスは、どんどん契約の方向に話をもっていこうとする。

 からくりは、こうだ。日本に送り込まれる女性は、1人あたり240万円で日本のスナック経営者らに売り渡される。女性は、日本での生活費などとして、取引したスナック経営者らに500万円の借金をした形にされる。スナック経営者らは、女性を店で働かせながら売春させ、代金をすべて取り上げる。その徴収総額が借金額まで達したら、スナック経営者らは女性を自由にする。

 もし女性が逃げたら、契約額240万円のうち女性が日本で稼いだ分を除いた金額を、ボスが「購入者」に返済する。誓約書も書くという。

 ボスは損をしないように手を打ってある。「入国させる女性の家族に240万円の架空の借用書を書かせ、女性が逃げたときは家族に払わせる。払わない場合は裁判を起こす」。日本での稼ぎを当てにしている家族は拒まない。「だから、今まで逃げた女性はいない」と胸を張った。

 では、どうやって日本に入国させるのか。入国の手口は、本物のパスポートと、他人のパスポートを使う二つの方法があるという。本物の場合、渡航費用の支払い能力を示す預金残高証明書などが条件とされるため、就労目的の疑いを持たれる一般女性にビザは出にくい。一方、日本人と結婚した者からパスポートを買ったり借りたりすれば、配偶者ビザが出やすい。

 11月20日から外国人に指紋採取を義務づける日本の入国審査制度が始まった。制度導入前は、他人名義のパスポートで、顔写真と似ている女性を複数人、何度も入国させられたが、制度導入後は、指紋が違う人物の入国が難しくなる。

 「でも、まだ指紋採取されていない者のパスポートを使えば、しばらくは入国できる」とボスは平然と言った。

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 ●違法行為解明、記者身分隠し取材

 前時代的な「人身売買」という形で外国から日本に連れてこられ、売春などを強要される女性が後を絶たない。こうした国境を越える犯罪は、日本がアジアをはじめとする外国とともに解決すべき大きな問題だ。

 朝日新聞はその実態を知るために、タイ人女性の人身売買ルートの取材を進め、バンコクで日本人仲介者の同行のもと、女性を斡旋(あっせん)する元締のタイ人女性に接触した。

 対象が犯罪組織であるため安全に配慮し、取材の際、記者はその身分を隠した。女性との会話は、違法行為の実態を明らかにするためのもので、取材過程で実際の取引はもちろん、不正行為は行われていない。

 昨年、日本に入国したタイ人女性は8万人近い。そのほとんどは、違法行為とは無関係である。そのことを付け加えておきたい。(名古屋本社報道センター長・真田正明)

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