シャープが1日、液晶テレビ向けパネル新工場を柱とする「液晶コンビナート」として着工した堺市堺区の堺浜地区(築港八幡町)は、長年にわたって新日本製鉄の保有する遊休地だった。将来の高炉増設も視野に入れた埋め立て地だが、鉄鋼不況の影響で具体化せず、テーマパーク構想などが浮かんでは消えた場所でもある。
■買い手不在
今年7月、シャープは亀山工場(三重県亀山市)の4倍の広さの建設地(127ヘクタール)を堺浜地区に決めたと発表し、9月に新日鉄から土地を取得。地盤改良工事を終え、本格着工となった。
町名が示すように、この場所は昭和30年代に進出した八幡製鉄所(現・新日鉄)と縁が深い。堺製鉄所が昭和36年に操業を始めて以来、高炉増設や工場拡張をにらんで、大阪湾を埋め立てたものだ。
ところが、埋め立て地の完成した平成2年春、鉄鋼不況のあおりを受けて、堺製鉄所は高炉を休止。そこにバブル崩壊も重なって土地の買い手が見つからないまま、新日鉄が固定資産税などを負担する状態が続いた。
大阪府や堺市、新日鉄などは協議会を結成して利用計画を検討し、7年ごろ、米国の人気テーマパークの運営会社が進出を打診したこともある。その後、大型商業施設の構想や松下電器産業が兵庫県尼崎市にPDP(プラズマ・ディスプレー・パネル)工場を建設する前に候補地として検討したとされるものの、実現することはなかった。
■3法の呪縛(じゅばく)
遊休地を活用しようとする企業が登場しなかった背景には、バブル崩壊後の不況に加え、湾岸地域の工場進出を抑制する工場制限3法(工業等制限法、工業再配置促進法、工場立地法)が進出を阻んだ面も大きい。
3法は昨年までに廃止、あるいは見直しの対象となり、大規模工場の建設が現実的になったが、シャープの町田勝彦会長は「あそこは進出すべきではないとの強迫観念があった」と明かす。
シャープが堺浜地区を選んだ決め手は、社内の研究機関や他工場と近い地理的条件という。
■新型路面電車も
シャープの工場進出に先立って、周辺地域の都市再生事業が加速している。建設地の東側には昨年春、商業・娯楽施設を集めた「堺浜シーサイドステージ」が一部開業。堺市は国内最大級のサッカー・ナショナルトレーニングセンター(NTC)の設置を決めたほか、次世代型の路面電車の乗り入れも検討されるなど、総投資額1兆円規模の液晶コンビナートが周辺のまちづくりの追い風となるのは間違いない。
漂流を続けた遊休地は薄型テレビの“勝ち組”とされるシャープの世界戦略拠点として、ようやく日の目をみるといえそうだ。
(2007/12/02)
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