「正義」こそ日本エンジニアの生きる道進化の目覚ましい弱者向け技術(3)
前々回、前回と、このコラムでは車椅子や乳母車のような「弱い人」の乗る車両について考えてきました。世界の歴史の中でも最も急速に高齢化社会を迎えるわが国は、同時に深刻な少子化問題を抱える状況にもあります。ものづくり側にできることとしては、使う側の負い目感を軽減し、逆に誇りさえ持たせるカッコイイ道具づくりというコンセプトが、この少子高齢化問題の一助になることを期待したいと思います。 ところで、車椅子の場合、重度障害者用にはモーター駆動タイプが用意されています。それも、障害の程度に応じて、電動アシスト自転車のように補助用に駆動するものから、指のレバー操作だけで自在に操れるフルオート方式まで各種ラインアップがあります。 このような補助道具の設計に当たっては、障害者に残存する機能をできるだけ活用し、自助努力を促すことがその基本思想になっているのです。足が不自由なら腕の筋力で車輪を回す、その腕力も衰えてきたら電動機の力でアシストしてでも半分は人力で頑張る、どうしてもだめならジョイスティックで操縦運転ということです。 車椅子の未来形、世界の最先端を走るアシストスーツ「HAL」車椅子の今後の進化を考える時、近年注目を集めているのが装着型の「アシストスーツ」です。鎧や具足を身に着けるような要領で身体に装着するロボットをアシストスーツと呼びます。高度なセンシング機構が備わっていて、ヒトの筋肉の微妙な動きを感知し、モーターなどの動力機構がその人の動きたい方向に力添えをしてくれるハイテク装置です。世界各国がこのコンセプトの試作機を研究開発中ですが、世界の最先端を突っ走るモデルが、日本のHALシリーズでしょう。 筑波大学大学院システム情報工学研究科の山海嘉之教授の研究室が開発した、ロボットスーツ「HAL-5」。2006年度グッドデザイン金賞も受賞したこのサイボーグ型ロボットは、身体に装着することにより人間の身体機能を拡張、増幅、強化できる。 Prof. Sankai University of Tsukuba / CYBERDYNE Inc. HALとは、筑波大学の山海嘉之教授チームの開発した「Hybrid Assistive Limb」の略称です。手足の筋力の弱ったヒトがこれを装着することで、荷物を持ち上げたり(右上の写真はコメです)、階段を上ったりというような際の不足分の筋力を補うというシーンをイメージして作られたものです。 しかし、以前述べたように、ハンディキャップ用の道具づくりは個々の対象者の障害の程度が大きく異なるので、それぞれの程度に応じたカスタマイズ設計をすることが重要になります。 その意味で、今後はHALにも先端の義肢(義手や義足のこと)制御技術が搭載されることでしょう。手足を動かそうとする時に皮膚の表面にわずかに現れる筋電位を拾って増幅する機構が実用化されようとしています。また、事故で手足を失ったとしても、切断面の神経から信号を検出し電動義肢を動かすシステムが実証されつつあります。さらに究極的には、脳直結と呼ばれる、頭で考えただけで思い通りに動かすメカニズムさえ、まんざら夢物語ではないところにまでマン・マシンインターフェースは進化しています。 まだまだ時間は要するでしょうけれど、近年のこのあたりの技術分野の進歩には著しいものがあります。障害の程度に応じてエレクトロニクスのアシストで補完できるというのは本当に素晴らしいことだと思います。 次ページ以降は「NBonline会員」(無料)の方および「NBonlineプレミアム」(日経ビジネス読者限定サービス)の会員の方のみお読みいただけます。ご登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。 |
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