川口盛之助の「ニッポン的ものづくりの起源」

「正義」こそ日本エンジニアの生きる道

進化の目覚ましい弱者向け技術(3)

 戦争は発明の母というフレーズがあります。国の存亡を懸けた戦いとは、悲しいかな技術発展の大きな動機づけになるという意味でしょう。国家の作るハイテク技術のトップダウン型の民間普及。古くはアポロロケット由来の様々な要素技術から、最近ではインターネットシステムや携帯電話のCDMA技術など、これらはもともと軍事用に開発された特殊技術が民間転用されて花開いた代表選手のようなものです。特殊で過酷なシーン向けに磨かれた技術という意味においては、弱い人を救う技術もまた同じように、特殊な条件下での切実なニーズを拾うものです。

 最後に、アシストスーツに関連する話題として、日本らしさを感じた逸話を紹介しましょう。HALを身に着けた理学療法士が、障害を持った友人を背負ってアルプスの4000メートル級の山に登ったという快挙です。よほど屈強な登山家でもこのスーツのアシスト抜きでは成し得ない重労働であり、HALの性能や耐久性、完成度を知らしめるにも素晴らしく分かりやすいイベントだったと思います。

のび太君のような心優しさで弱者を救い、世界をリードする

 登山実現に至ったいきさつは、商品として性能を誇示するために考え抜いたプロモーションの手段、というような脂ぎったものではなく、「こんなことしてあげられないかな」「こんなことできたらうれしいなあ」という当事者たちの心情からできてきたものだったと伺います。ドラえもんの秘密道具のようなアプローチ、のび太君のような心優しさの結果なのです。上品で心豊かになるやり方であって、HALというコンセプトを説明するに当たって、日本のエンジニアならではの絶妙な説明だったと感銘いたしました。

 軍需大国が「敵に勝つための武闘型エンジン」のトップダウンでくるならば、私たちには弱者を救う「正義の味方エンジン」があります。弱い人向けの車椅子やベビーカー、アシストスーツなどの切実技術からボトムアップで民生品を鍛えるのです。この考え方で、世界をリードし続けることが日本エンジニアの品格かもしれません。

 前回のコラムでも紹介しましたが、道具とつき合う人の側の様子を眺めると、例えばスポーツの世界では、国を代表する超エリートたちの集うオリンピックでの活躍だけでなく、障害者によるパラリンピックや、高齢者も頑張るマスターズ競技での活躍の方に日本人の興味の対象は広まりつつあるというご時世です。世界各国と比較してもこの傾向が特に日本では顕著であるという話をいたしました。

 得意のモノづくりの分野も「弱い人〜普通の人」向けの企画や技術開発でリードできるはずです。では、車椅子やベビーカー技術の普通の人向けへの展開とは何なのでしょう?

 今年ついに売り上げ世界一が確実となった、世界最大の自動車メーカー・トヨタ自動車が提案する未来の移動手段のコンセプトモデルである1人乗りの自動車「i-unit」や「i-swing」、10月の東京モーターショーではさらに進化した「i-REAL」が話題を呼びましたが、これらの外観フォルムが、現在の乗用車の延長というよりは電動車椅子の子孫のように映るのは気のせいでしょうか。

2005年の愛・地球博で活躍した1人乗りパーソナルモビリティ「i-unit」

2005年の愛・地球博で活躍した1人乗りパーソナルモビリティ「i-unit」

2005年の東京モーターショーで公開された「i-swing」

2005年の東京モーターショーで公開された「i-swing」

今年の東京モーターショーで公開された「i-REAL」

今年の東京モーターショーで公開された「i-REAL」


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このコラムについて

このコラムでは、商品の機能やデザインにフォーカスし、その商品が生まれた発想の起源を探ります。特に日本の商品に密かに隠れたいかにもニッポン的な「和」のテイストに注目しながら、日本のものづくり文化に息づく競争力の源泉を紐解いていきます。

筆者プロフィール

川口盛之助
(かわぐち・もりのすけ)

川口盛之助

慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品、生産技術などの開発に携わった後、KRIを経て、アーサー・D・リトル(ADL Japan)に参画。現在は、同社シニアマネージャー。世界の製造業の研究開発戦略、商品開発戦略、研究組織風土改革などを手がける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社)がある (写真:山西 英二)

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