「正義」こそ日本エンジニアの生きる道進化の目覚ましい弱者向け技術(3)
言わずもがなのことですが、2足歩行を前提とするアシストスーツは、車椅子と比べて社会インフラの制約が少ないという大きなメリットがあります。車椅子では、ちょっとした道路上の段差や、階段、迷惑駐輪で歩道の幅が狭くなっているような状況では、いきなり無力になります。 健常者にはなんでもないシーンがいちいち難関となりますが、このスーツなら自由度が大きく、ほとんど健常者と同じ社会インフラの中で暮らしを営むことができるのです。得意の小型軽量化を進めて、外観的にも物々しくないレベルになれば、デザイン的にも隠すものから見せるものへ進歩するかもしれません。ジャン・ポール・ゴルチエなどとタイアップして、デザインを磨き込めば、普通のヒトも着たくなるファッションに仕上がることでしょう。 松下電器が2008年度中の製品化に向けて開発中の上肢リハビリ支援スーツ「リアライブ」 家電や自動車で鍛え尽くされたセンシングや電子制御などのメカトロ技術(機械工学プラス電子工学)が花咲く分野であり、ロボット大国の名に懸けても世界をリードすることが期待されます。HALをフラッグシップモデルとして、電装系各社は量産化を目指したスーツを鋭意開発中です。 例えば、松下電器産業は空気圧を駆動力に上肢リハビリ用スーツ「リアライブ」の開発に取り組んでいます。ホンダも歩行アシストに機能を絞った装着型歩行アシスト装置の研究開発を進めていますし、沖電気では理学療法士向けに筋肉の表面電位を測定して作動するモデルに取り組んだりしています。 百花繚乱のこの開発領域ですが、いずれのモデルも想定している用途は、老人介護や障害者支援というような「弱い人シーン」ということが特徴的です。 「強い人シーン」を想定して進歩する米国の技術一方、米国では似て非なる研究が進められています。DARPA(米国防総省高等研究計画局)の研究予算で推進されているパワードスーツ「Exoskeleton」はエンジンを搭載したもので、100キロの荷物を背負いつつ、時速25キロの速度で、24時間でも連続行動できるものを狙っています(写真はこちら)。 荷物とはもちろん重機関銃などの兵器であり、装着して走るヒトとは陸軍歩兵です。外観はまさに甲冑の騎士のようになっています。この連中が軍団で進軍してくるさまを想像すると、映画ターミネーターの一場面を思い出してしまって、姿を見ただけで降参したくなりますね。 これは兵士や警察官などの「非常に強い人」が命懸けで活躍する切実なシーンを想定した道具です。米国と日本では想定シーンが強弱正反対になっていますが、共通していることが1つあります。両者とも特殊で切実な非日常の場面設定であるという点です。これは、たまたまアシストスーツで見られた現象というわけではありません。強い人向けの技術と弱い人用技術は、結果として同じような仕様になることがよくあるのです。 日本のエンジニアは多くの場合、強いシーンを考えることが政治的、社会的に封印されています。世界に冠たるハイテク兵器を作る能力を持っていながら、自国専用の規模に自制し、自国防衛用に限定して細々と開発して作り続けています。市場原理に則れば、これを輸出することで大量生産してコストを下げると同時に、外貨も稼げるはずです。でも、先進諸国あるいは世の大国の常識となっているそのような政策を採っていないのです。 この点は世界に誇るべき、世界に尊敬されるべき点だと思います。魚群探知機ですら某国では軍事用に転用されるらしいですから、完全無欠とはなかなか難しい話ではあるものの、少なくとも大枠の部分で後ろ指をさされないように身を律しています。 |
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