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今週の1本
告発・情報系有名サイトの信頼度 「きっこの日記」「二階堂ドットコム」「サイバッチ!」

 耐震データ偽造事件で「きっこの日記」というインターネットサイトが注目を集めた。恪楓屑揩ニいわれた「総合経営研究所」の存在をいち早く指摘するなど特ダネを連発したのだ。実は、ネット上ではこうした告発・情報系サイトが乱立している。恂ウ法揩ニも揶揄される電脳世界の情報。どこまで信頼できるのか。

「いよいよ新たなチャレンジを試みた。(中略)ネット上のブログ、『きっこの日記』の作者との共同作業を思い立ったのである」(05年12月20日付)

 耐震データ偽造事件を追及する馬淵澄夫衆院議員(民主)は自らのホームページ(HP)にそう書いた。あろうことか、当事者でもある検査機関「イーホームズ」の藤田東吾社長まで、「重要な情報提供」として、自社サイトに「きっこの日記」のリンクを張っている。匿名サイトが政治家や当事者まで左右するなど、前代未聞であろう。
「きっこの日記」は、00年に携帯用サイトで始まったことになっている。当初は芸能関係や身辺雑記的な内容が多かったが、次第に時事問題に触れるようになっていく。いずれも、情報は極めて具体的だ。

 最初に「総合経営研究所」に触れたのは、報道される約1週間前の昨年11月23日のことだ。米国産牛肉輸入問題、ライブドア事件でも関係者の実名入りの詳細な記述がある。しかし、「きっこ」氏の素性は今もって不明なのだ。

 サイトから読み取れるのは、フリーのヘアメークで30代の独身女性。アイドルグループ「MAX」のファンで芸能界とパイプがあり、俳句にも造詣が深い。小泉首相が大嫌いで、思想的にはヤ左ユに近い・といったところだ。

 馬淵議員も「きっこ」氏を全く知らないという。
「会うことができないということだったので、秘書がメールでやり取りをしました。送受信は20回強だったと思います」

 馬淵議員によれば、同11月29日の参考人質疑の準備をする中で「きっこの日記」の存在を知り、「会って話を聞きたい」とメールを送ったという。
「ただ、きっこさんが私の情報源との指摘は当たらない。既に把握している情報が送られてくるケースも結構あった」

 逆に、馬淵議員がヤ情報源ユになってしまったケースもあったという。
「メールで送られてきた情報について、こちらが補足して返信した内容が、許諾なしに掲載されたケースはあったと思う」

 いずれにせよ、「きっこ」氏に大量の情報を入手し、整理する高い能力があるのは事実だ。それだけに、複数のマスコミ関係者が書き分けているのでは・などの憶測が飛び交っている。

 実は、2月1日発売の雑誌『ダカーポ』に「きっこ」氏はこう答えている。
「一番心外なのは『複数の人間が交代で日記を書いてている』という憶測です」

 また、耐震偽造事件の最初の情報源は「知り合いの大手不動産会社社長」で、その後は、日記に書くことで関係者から新情報が届く、という相乗効果が生まれた、とも答えている。

■きっこ氏「生きて行けなくなる」

「正体探し」に火をつけたのは、これまたネット上で飛び交うメールマガジン「サイバッチ!」だった。同誌は、2月初旬から「きっこ」氏の背後に複数の人物が存在するとの情報を盛んに流すようになり、コラムニストの勝谷誠彦氏らの実名まで挙げている。なお、勝谷氏は、本誌の取材に「全く関係ない」と答えた。

 一方、「プロフィル通りのヘアメークとして実在していると思う」と見るのは、ブログに詳しいライター、松永英明氏だ。松永氏は5年分の日記をすべて読んで分析したという。
「5年間を通じて、細部に至るまでキャラクター設定がまったく変わっていない。実在する人物としか考えられません」

 松永氏によれば、5年分の日記の記述を分析すると、氏名も特定でき、72年東京・渋谷生まれ、A型で東京都世田谷区在住、ということまで分かるという。

 しかし、元公安調査官のジャーナリスト、野田敬生氏は疑問を投げかける。
「実在を示唆する情報が『日記』に出すぎていることが、逆に不自然。誰かが装っている可能性があると思っています」

 何が真実なのか。本誌は「きっこ」氏にメールで取材を申し込んだが、来たのはこんな返事だった。
「先日、週刊新潮から取材の申し込みがあったのですが、その内容が、私のバックが勝谷誠彦さんだの、私が暴力団と手を組んで株価操作をしているだのと、あまりにもバカバカしくて非常識な内容だったため、『すべて事実無根ですし、そう言ったデマを書かれると生活に支障が出るのでやめてください。また、私の本名を掲載するのもやめてください』と返事をしたのにも関わらず、書かれてしまいました。これによって、私の生活はとても困ることになりました。これ以上、生活をめちゃくちゃにされては、本当に生きて行けなくなるので、すべてのマスコミの取材をお断りすることにいたしました」

 一方、「きっこ」氏の「正体」を一方的に暴露するなど、最近とみに過激な「サイバッチ!」とは何なのか。
「インターネット史上最悪のゴシップマガジン」を名乗り、98年11月創刊。現在約8万部を配信中という。編集・発行人は「毒島雷太」氏。民俗学者の大月隆寛氏も協力し、「暴力でぶ太郎」というキャラクターで登場、フォークにICレコーダーをくくりつけて関係者を直撃する、という設定だ。本誌はまず、毒島氏にメールで質問した。

×  ×  ×

・創刊の動機、経緯は?

 クリントン不倫スキャンダルを暴いた(米国の)「ドラッジレポート」をモデルにしました。あのスクープで「ニューズウィーク」は紙より先にウェブに記事を掲載するようになり、その他、新聞などもサイト優先で動き出しています。

■「事実は3割」真偽は自己責任で

・メンバーの人数は?

 どこまでをメンバーというかは難しいです。マスコミ関係者を含む50人前後が関与しています。発行の責任者も創刊から2度交代しています。

×  ×  ×

「たまに『フォークは持ってないんですか』と真顔で尋ねられたりしますが、そのへん含めて、甘んじて引き受けています」と大月氏は笑いながらこう続ける。
「入ってくる情報の取捨やリリースの仕方などは、かなり慎重にやっている。でなきゃ、絶対どこかで訴えられたりつぶされたりしてる。またバカやってるよ、と笑い飛ばしながらも、一片の真実が含まれているかも、というあたりで楽しんでもらえればいいんです」
 一方、ライブドア関連などで注目度がアップしているのが「二階堂ドットコム」。04年に始まった新しいサイトだ。サイトによればスタッフは総勢18人という。管理人の「二階堂豹介」氏を電話で直撃した。

 ベンチャーの「光通信キャピタル」出身。別の情報系サイトの編集長に招かれたのがきっかけで、この業界に入ったという。
「集団だけど『きっこ』と同じで、二階堂というキャラを立ててやってるんですよ。情報源? マスコミ関係、当局、いろいろある。訴えられるリスクは考えてやってます。1年前に比べれば、だいぶ書き方に気をつけるようになった」(笑)

 さて、告発・情報系サイトはどこまで信用できるか・。先の「サイバッチ!」関係者は「事実は3割くらいでしょう」とあっさり明かす。結局、自己責任で判断するしかない、ということだろう。 本誌・日下部聡


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 これまでも、報道より先にネットに具体的な情報が出るケースはあったが、ネットの世界での盛り上がりにとどまっていた。「きっこの日記」が注目されるのは、ネット外に大きな影響を及ぼした最初の例だからだろう。今後、同様のケースは増えるのではないか。
 匿名の告発・情報系サイトは言論活動の一形態としてあっていい。ただ、鵜呑みにしてもいけない。「きっこ信者」のような人もいるようだが、それは従来のメディアに対する感覚が抜けていない人たちだろう。

 これまでは報道機関が「先生」で、受け手が「生徒」という講義形式の関係だった。受け手は、メディアが太鼓判を押した情報だけを受け取る、いわば「無菌状態」の中で育ってきた。しかし、これからは自分で情報の価値や真偽を判断する能力、いわゆる「メディア・リテラシー」が求められるようになる。

 ネット情報は玉石混交だ。「2ちゃんねる」などの掲示板は「便所の落書き」とも揶揄されて信頼性が低下したが、コメントやトラックバック機能で信頼性を担保する仕組みのブログにしても、まだ「石」の方が多いのが現状だ。

 しかし、雑菌の中で育った方が免疫力がつくように、受け手側のリテラシーも自然と育つのではないか。メディアと受け手の関係は、講義形式から参加・議論型に変化していくだろう。ネット上での傾向をみても、誤った情報は、周囲から反証が示されて次第に淘汰されていくことが多い。

 ただ、例えば少年事件関係者の実名や写真など、一度流れただけで当事者に重大な被害を及ぼすケースをどう防ぐかなどは、まだ合意ができていない。そうした課題が議論されないまま、ネットの影響力だけは確実に拡大している。

 大手メディアも、受け手との関係の変化に応じた対応を迫られている。 (談)

×  ×  ×

 58年生まれ。ハイテク産業に詳しく、ネットとジャーナリズムの関係について積極的に発言。著書に『ネットは新聞を殺すのか』(共著、NTT出版)など。現在、時事通信編集委員。

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