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広島初のメジャー後押し 黒田移籍表明に球団首脳がエール '07/12/1

 ▽エースと4番、補強急ぐ

 広島の黒田博樹投手(32)が30日、米大リーグ移籍を表明した。球団首脳は惜別の念を示す一方で、エースの新たな挑戦にエールを送った。

 午後2時前に球団事務所を訪れた黒田は、鈴木清明球団本部長に退団を申し入れた。この後、松田元オーナーに報告。黒田は席上、これまで育ててもらった球団への愛着と感謝の気持ちを伝えた。これに対し、松田オーナーらは広島での11年の選手生活の労をねぎらい、球団初の日本人メジャーリーガーの成功を祈って送り出した。

 一方、新井貴浩内野手(30)の退団も決定。主砲に続くエースのフリーエージェント(FA)移籍という状況に、球団は戦力補強や組織改革を行い、来季へ向けた体制づくりを急ピッチで進める。

 「広島代表としてメジャーに行き、『広島ここにあり』を見せてほしい」。黒田のメジャー挑戦表明を、松田オーナーは好意的に受け止めた。エース退団は計り知れない痛手。だが「彼のチームへの思いが分かるから、できるだけのことをしよう」とバックアップを約束した。

 交渉の窓口だった鈴木本部長は寂しさを感じながらも、「国内移籍を封印したのは球団への配慮だし、感謝している。行くからには成功してほしい」と送り出した。ブラウン監督は「残念だが、どこに行っても頑張ってもらいたい」と新天地での変わらぬ活躍を願う。

 一方で球団は、エースと主砲が抜けた穴を埋めるべく、新たな体制づくりを進めている。中軸を打てる三塁手と先発投手を中心に、4人の外国人選手を獲得する方向で交渉中。FAで阪神に移籍した新井に関しては人的補償を求める方針だ。ドラフトやトレードも含め、現時点で来季の加入選手は14人になる見込み。2000年(15人)以来の大量加入は、チーム内を活性化し、競争を通じて2人に代わる選手の台頭を促す意図がある。鈴木本部長は「積極的にやるという球団の意思表示だ」と強調した。

 また選手補強と並行して、組織改革にも着手した。1日付で編成、国際業務、スカウト各部を統合し、編成部門の強化を図る。「2人が抜けたから弱くなったという言い訳はきかない」と鈴木本部長。攻めの姿勢でチーム再建を推し進める。(日野淳太朗)

 ▽新鮮な気持ちで再び 一問一答

 ―最終的に退団を決意したのはいつですか。

 28日に代理人と会ってから、決めようと思っていた。決断したのは、29日の投手会納会にいく前。自分の口でみんなに伝えることができる最後のチャンスだった。

 ―米大リーグを意識したのはいつからですか。

 FA権を取得してから。最初は選択肢の一つとしか考えていなかったが、自分の野球人生を考える中で、新鮮な気持ちでもう一度、違う野球にチャレンジしたいと思うようになった。

 ―今季、優勝争いをしていたとしたら、結論は変わっていましたか。

 チームが一つになって優勝争いしていたら、また違ったかもしれない。ただ、そういう経験をしていないので分からない。

 ―球団にはどのように伝えたのですか。

 今の自分があるのは、球団のおかげ。大リーグに挑戦するチャンスをもらい、ありがとうございましたと伝えた。

 ―松田オーナーとは、どのような話をしたのですか。

 今後、オフに広島で練習することがあれは、大野屋内総合練習場や新球場を自由に使ってもらっていい。いつでも自分の里だと思って、帰ってきなさい、と言ってもらった。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 ―今後は。

 まだ球団を絞り込むところまできていないし、渡米の日程も決まっていない。

 ▽球炎 球団もファンも変わろう

 カープから育った選手が、メジャーリーガーと相対する姿は見たい。それが1年前ファンの熱意に応え、国内移籍を封印した黒田とあれば、快く米国へ送り出すべきなのだろう。ただ、この思いは喪失感の果ての感情であり、覚悟していただけである。

 新井に続き、黒田までも失った。両者への感情に違いはあっても、現実的に戦力ダウンを目の当たりにして、「行ってこい」とはとても言えない。そんな余裕のあるチーム状況だろうか。これ以上の悲しみがシーズン中に起きるのでは、という不安がある。

 この決断には誰も幸せになる保証はない。黒田はメジャーで破格の待遇を受け、強いチームを選択できたとしても、最大の目的は優勝争いを自ら担う投球をすることである。本当に通用するのか。本人は「不安だけ」という。広島球団も今以上に危機感が求められる。

 ファンも無関係ではない。今季、黒田が地元初登板した4月5日、1万939人のスタンドを見て、彼は激しく落胆していた。将来的に復帰の可能性はファンの熱意も問われるだろう。

 数年後、「カープでもう一度投げたい」と黒田に言わせることができるか。黒田も、そう言える活躍をメジャーで成し遂げられるか。「帰ってこい」。そう言って胸を張れる「広島」に、球団もファンも生まれ変わる始まりである。(木村雅俊)

【写真説明】松田オーナーに退団を報告し、会見場に向かう黒田(左)と鈴木球団本部長(撮影・山本誉)




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