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がけっぷちの産科救急/4 始まった分娩集約化

 ◇病床数規制など課題山積

 「うちの病院は村八分状態だよ」。社会保険相模野病院(神奈川県相模原市)の内野直樹院長は苦笑した。同病院では、分娩(ぶんべん)施設集約化の効果を検証する厚生労働省研究班のモデル事業が進む。産科医が不足し、分娩施設が減少する中、集約化は打開策として注目されているが、簡単には進まないためだ。

 集約化は、複数の施設に分散したスタッフを集め、個々の負担を軽減しながら多数の分娩を扱える体制を目指す。同病院は、閉鎖された近隣病院の産科から医師を招き、産婦人科の常勤医を6人から10人へ増やした。年間分娩数も従来の約1000件から2500件にするため、新生児集中治療室(NICU)の増床なども計画した。

 ところが、県は増床に否定的だ。病床数は医療法に基づく県の医療計画で、地域ごとに基準病床数が定められている。同市はこれを上回っており、県医療課は「医療法に特例規定はあるが、現実的には難しい」と説明する。

 相模原市医師会からも反発を受けた。同会は昨年8月に文書で「現段階では時期尚早」と反対姿勢を示し、「近隣の医療機関との共存共栄に配慮を」などと求めた。中島克会長は「県や地元への事前の説明もなく、突然協力を求められた。絶対ダメというわけではないが、地域の医療関係者で検討したうえで実施してほしい」と話す。

 同病院はスタッフ増員によって、06年1~6月には511件だった分娩数が、同7~12月には633件へ増加した。一方、医師の当直回数は月平均4・5回から2・5回に減った。集約化は一定の成果を上げており、内野院長は「分娩を扱う医療機関が減少し、市内で出産できない“分娩難民”が出る恐れがある。行政は、母親や新生児の死亡事故でも起きない限り、対策に腰を上げないのか」と憤る。

   ■   ■

 病床数の規制にかからないよう、別の形で集約化を進める地域もある。

 大阪府貝塚市の市立貝塚病院産婦人科は来年4月を目標に、隣接する泉佐野市の市立泉佐野病院産婦人科との間で、分娩は泉佐野、婦人科手術は貝塚に集約するという計画を進めている。貝塚では、妊婦健診や産科外来は受けられるものの、お産ができなくなるが、妊婦から不満や不安の声はないという。

 両病院は車で10~15分の距離で、分娩数は双方とも年間750件前後。貝塚病院の井尻俊夫事務局長は「地域では『産科と言えば貝塚病院』と言われてきた。お産をしなくなるのは寂しい」と話すが、両病院に医師を5人ずつ派遣する大阪大病院産婦人科の木村正教授が昨年秋に「1カ所の分娩施設しか支援は難しい」と通告。地域の産科医療が成り立たなくなるという危機感が勝った。

 阪大産婦人科は医師数が最盛期の半分に減り、木村教授は「今までのように二十数病院を人事面でサポートするのは無理で、全病院に伝えた。新人医師に産婦人科に来てもらうには、過酷な勤務を改め、医師にとって魅力ある病院にしてもらわないと」と説明する。

 集約はするが、両病院で10人という体制は崩さない。各1人体制だった宿日直を、泉佐野病院のみの2人体制にし、より安全な診療体制を確保する。看護師の確保など課題は残るものの、大阪府医療対策課の大松正宏参事は「ハイリスク分娩の集約化は必要で、注目している」と話す。=つづく

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 ご意見、ご感想をお寄せください。ファクス(03・3212・0635)、Eメール t.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp、〒100-8051 毎日新聞社会部「医療クライシス」係。

毎日新聞 2007年9月7日 東京朝刊

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