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がけっぷちの産科救急/1 周産期施設、名ばかり

 ◇医師確保厳しく、機能不全

 人けのない分娩(ぶんべん)室の片隅に、へその緒を留めるクリップや薬剤が封を切られることなく置かれていた。国立病院機構舞鶴医療センター(京都府舞鶴市)は、緊急帝王切開手術など比較的高度な周産期医療(出産前後の母子への医療)に対応する「地域周産期母子医療センター」に認定されているが、昨年4月から産科を休診している。産科の常勤医がいなくなったためだ。

 以前は50代の男性医師と、小さな子どものいる30代夫婦の医師の計3人が勤務していた。だが、リスクの高い患者の来院が多いうえ、3日に1回は当直で、勤務は過酷だった。

 女性医師は、我が子を集中治療室に寝かせながら夜間の緊急手術にも対応していたが、一昨年夏に辞めた。夫の男性医師も一昨年暮れに退職。残った50代の男性医師も疲れ果て、昨年3月にセンターを去っていった。

 同センターは、京都府北部の周産期医療の中核を担うはずの施設。常盤和明副院長は「はっきり言って異常事態。だが、医師は確保できず、再開の見通しは立っていない」と力なく語る。

   ■   ■

 厚生労働省は96年に定めた周産期医療システム整備指針で、リスクの高い母体の搬送など高度な医療に対応する「総合周産期母子医療センター」を、各都道府県で1カ所以上設置するよう求めた。地域周産期母子医療センターも、全国を358地域に分けた「2次医療圏」ごとに1カ所以上設けるよう勧めている。

 厚労省によると、総合センターは現在、41都道府県で67施設が指定され、地域センターも33都道府県で210施設(4月現在)が認定されている。しかし、舞鶴医療センターのように、名ばかりの施設も少なくない。

 京都府が地域周産期母子医療センターに認定している綾部市立病院もその一つだ。同病院産婦人科の上野有生主任医長は「1年半ほど前に突然、うちの病院が認定されると新聞に出てびっくりした。全く寝耳に水だった」と振り返る。

 認定されると、他病院からの母体搬送を受け、緊急手術などに対応しなければならない。当時、産婦人科の常勤医はわずか2人。小児科医も2人で、受け入れられる体制にはなかった。

 上野医長は「この人数で母体搬送を受け入れなければならないのかと府に問い合わせたが、『これまで通りのことをしてくれたらいい』との返答だった。母体搬送は今も受け入れていないが……」と困惑気味に話した。

   ■   ■

 舞鶴医療センターは現在、近くの産科から未熟児などの受け入れを要請されると、センターの小児科医が救急車で駆け付け、センターに運んで治療する。周辺地域に高度な新生児医療ができる施設がないためだが、搬送に危険を伴わないことが条件のため、運用は限られているのが実情だ。切迫早産など母体搬送が必要なリスクの高い患者の多くは、遠く京都市や兵庫県に搬送されている。

 京都府健康・医療総括室の松村淳子総括室長は「舞鶴医療センターの機能を早く取り戻すことが緊急の課題と認識しているが、産婦人科医は簡単には見つからない。どこにいるのか、知っていたら教えてほしい」と頭を抱える。

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 奈良県橿原市の女性が救急搬送中に死産した問題で、改めて周産期医療の不備が浮かんだ。現状と課題を追う。=つづく

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 ご意見、ご感想をお寄せください。ファクス(03・3212・0635)、Eメール t.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp、〒100-8051 毎日新聞社会部「医療クライシス」係。

毎日新聞 2007年9月3日 東京朝刊

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