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どうする医師不足/4 長谷川京子氏/山崎麻美氏

 ◇ワークシェアで選択肢--篠ノ井総合病院小児科医師・長谷川京子氏

 04年から、もう1人の女性医師(パートナー)と日替わりで出勤するワークシェアリングをしている。患者は連名の主治医として受け持ち、外来診療や病棟での勤務をする。夜間や休日の呼び出しに備えて待機するオンコールも2人で1人分を担当。原則として平日に2日は休めるので余裕ができ、3人の子どもと接する時間が増えて母親同士の友人もできた。

 女性医師には事実上、仕事と家庭の二者択一の選択肢しかなかった。仕事を続けても非常勤で外来診療をする程度で、子育てや家事をしながら常勤で働くのは困難だ。大学の小児科で同期の女性6人のうち、今も常勤なのは自分を含め2人だけで、4人は結婚や出産などで一線を退いた。

 医師の経験を十分に生かせなくなるのは惜しい。特に産科や小児科は、出産・育児経験のある女性医師が果たせる役割は大きい。私たちの取り組みで、新たな選択肢を示せたと思う。ただ、若手の医師は立場上、言い出しにくい面もあるので、ワークシェアリングを実施する病院には、雇用条件や勤務形態を交渉できる第三者をコーディネート役として置くべきだ。

 しかし、パートナーを探すのは難しく、約2年かかった。大学から候補者に打診しても、非常勤の方がいいと断られたりした。今のパートナーは、他県から地元に戻る際に大学へ勤め先の紹介を依頼してきたため、偶然見つかった。今後は、片方の事情で2人とも仕事を続けられなくなる可能性もある。

 このため、ワークシェアリングのほか、フレックスタイム導入などで、勤務形態を選べるようにすれば理想的だ。育児や介護をすることが必要になるかもしれないのは男性医師も一緒で、女性医師だけでなく医師全体の問題として働き方を考える必要があると思う。

 ◇女性医師復職がカギ--国立病院機構大阪医療センター副院長・山崎麻美氏

 女性医師は確実に増えている。医師国家試験の合格者は3割強が女性。当センターでも同様で、研修医だと約5割も占める。だが、結婚や出産を機に職場を離れると、元の職に戻れないことがほとんどだ。今後、医師不足に拍車がかかることが懸念される。

 女性医師が離職するのは、妊娠や出産のための制度がなく、子どもを預けられる施設がないからだ。休職制度があっても「他の先生に迷惑がかかる」と、ほとんど利用しない。子どもができた時点で、医師を続けるのは無理と決めつけられ、3歳までは育児に専念しなければならないと思い込んでいる人も多い。

 女性医師の復職は、医師不足解決の大きな鍵だが、進歩する技術や知識に対する不安が障害になっている。当センターは、不安を取り除き、働きやすい職場作りを目指して「女性医師勤務環境改善プロジェクト」をスタートさせた。再就職のための支援コースを設け、経験年数や休職期間などキャリアに応じた研修メニューを用意した。現在、2人が利用している。

 さらに女性は、子育てのため、夜勤や当直に入るのが難しい。そこで、子どもが学校から帰る時間に家にいられるよう、週の何日かは早く切り上げ、残りの日は遅くまで働いてもらったり、当直後は半日休みにしたりするなど、就労時間の柔軟化を積極的に取り入れた。夜間対応できる保育所も近く設置する。女性医師が働きやすい職場環境を作れば、男性医師の負担も減るなどメリットは大きい。

 こうした改善は、やる気さえあれば、どこの病院でもできる。出産や子育ての経験を女性医師がキャリアとして生かせば、もっと患者本位の医療ができる。女性医師がよりよく働ける職場環境の形成こそ医療の質の向上には必要だ。=つづく

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 ご意見、ご感想をお寄せください。ファクス(03・3212・0635)、Eメールt.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp 〒100-8051 毎日新聞社会部「医療クライシス」係。

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 ■人物略歴

 ◇はせがわ・きょうこ

 明治大文学部卒後、高校教師などを経て信州大医学部卒。在学中に2人の娘を出産、00年から長野市の篠ノ井総合病院勤務。

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 ■人物略歴

 ◇やまさき・まみ

 78年京都府立医大卒。大阪医療センター統括診療部長を経て07年4月から現職。専門は小児脳神経外科。

著書に「子どもの脳を守る」。

毎日新聞 2007年7月11日 東京朝刊

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