医療クライシス

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

どうする医師不足/2 吉村博邦氏/林雅人氏

 ◇研修施設は大病院に--全国医学部長病院長会議顧問・吉村博邦氏

 新医師臨床研修制度は基本的に希望する病院で研修する仕組みだから、都会や給料がよい所を選ぶ研修医が増えた。しかし、研修医が集まる都会の一部の大学でさえ、終了後に外科や小児科を希望する人は少ない。

 激務の科が敬遠されるのは、先輩医師の疲弊した姿を見るためだろう。当直がない、週末は休めるといったQOL(生活の質)が重視される。研修ではさまざまな科を細切れで回り、一つ一つの科は1~3カ月程度見るだけ。どの科も深くやればやりがいはあるのに、少し見るだけでは大変さばかり目に付く。

 北里大の一般外科には毎年7~8人の新人医師が入っていたが、今年は1人。それも辞めそうだったのを引き留めた。若手が入らないと先輩医師はさらに疲弊し、辞めて開業する人も出て悪循環になっている。医師は国費をかけて養成するのだから、診療科を選択する際、欧米のように領域別に定員があり、厳しい訓練を積み、専門医の試験を受けて初めて一人前の医師(専門医)になれる仕組みも一考に値する。

 今の研修制度は、幅広く臨床の現場を経験し、プライマリーケアを担う医師を育てる目的で始まった。だが、各科を「お客さん」の立場で少しのぞくだけでは、どの科の診療もできるようにならない。本当にプライマリーケアを担うには、さらに数年以上の経験が必要だ。専門分化が進む現代では何でもできる医師というのはあり得ない。

 内科志望なら、消化器、呼吸器、循環器など各分野を幅広く回って基礎研修をしてから、専門医になることが必要だ。総合内科のような診療科の創設も必要だ。中小規模の病院は、医師を育てられる診療科が限られる。あらゆる診療科の医師を育てるには、研修施設を大学病院はじめ大きな病院に絞ることが必要だ。

 ◇診療科ごとに定員を--日本病院会地域医療委員長・林雅人氏

 「プライマリーケア(初期診療)をよく学ばせ、どの診療科に行っても最低限のことはできるように」という新医師臨床研修制度の考え方は理解できる。最近は専門医志向の人が多く、プライマリーケアを志望する人は少ない。開業医でも、必ずしも学んでいるわけではない。激務といわれている診療科からの医師離れや、勤務医不足が生まれているが、プライマリーケアを重視する理念には賛成だ。

 しかし、新制度では2年間の研修で各診療科を回るうちに、どの科が楽かが分かり、厳しい科は避けられるようになった。昔はどの診療科も、科の重要性を学生に説明して説得し、学生も説得に乗って入ってくれた。現在でも、本人の希望だけで進む診療科が決まる点は変わらない以上、熱意のある医師が新人を勧誘するしか方法はない。

 指導医にも力のある人と、そうではない人がいるが、力のある人は新しい医師をたくさん集めている。指導医は自分の診療科に興味を持ってもらえるように若い医師を教育しなくてはいけない。

 私は学生に「自分の興味の持てる科に行くべきだ」と教えている。今は激務だったり注目されていない診療科でも、10年後20年後にどうなっているかは誰にも分からない。

 診療科間の偏在が起きるのは、そもそも医師が足りないから。主に小児科や産科、麻酔科の医師が足りないと言われているが、他にも不足している科はある。国はどの科にどれぐらい医師が必要なのかを把握し、科ごとに不足医師数を明確にしなくてはいけない。そのうえで、医師を増やし、科ごとの定員を設定すべきだ。定員を決めれば、あふれた医師は他の科へ行く。厳しい診療科でも、医師数が確保され休めるようになれば、やりがいや興味を感じる人は必ずいる。=つづく

==============

 ご意見、ご感想をお寄せください。ファクス(03・3212・0635)、Eメールt.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp 〒100-8051 毎日新聞社会部「医療クライシス」係。

==============

 ■人物略歴

 ◇よしむら・ひろくに

 東京大医学部卒。02年から06年まで北里大医学部長、04年から06年まで全国医学部長病院長会議会長。専門は呼吸器外科。

==============

 ■人物略歴

 ◇はやし・まさと

 東北大医学部卒。89年秋田県厚生連平鹿総合病院長、06年同総長。日本病院会常任理事、全国公私病院連盟特別参与。

毎日新聞 2007年7月6日 東京朝刊

医療クライシス アーカイブ一覧

ニュースセレクト一覧

エンターテイメント一覧

ライフスタイル一覧

 

おすすめ情報