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価格恐々:食品値上げの今/中 決定権、消費者が握る

 ◇企業、コスト削減で吸収

 「年内は値上げしません」。相次ぐ食品メーカーの値上げ表明に挑戦するかのように、大手スーパーのイオンは8月、「価格凍結」を宣言した。店への納入価格を上げてくれと求めてくるメーカーには、逆にこう提案する。「おたくの商品、うちの物流センターに直接持ち込みませんか」

 全国8カ所にあるイオンの物流センター。その一つが、千葉県市川市にある。敷地面積は5万6000平方メートルと東京ドームより広い。巨大な箱に見える建物に、飲料や日用品などの商品を積み込んだ大型トラックが次々と吸い込まれていく。センター内に人影はほとんどない。商品は建物内を入り組んで走るコンベヤーに乗って、関東を中心としたイオンの約120店舗に自動的に振り分けられていく。

 メーカーの工場から出荷された商品は通常、卸売業者などによって仕分けされ、各スーパーの店頭に届けられるが、その過程で輸送費や商品の保管費が上乗せされる。イオンは自前のセンターにメーカーから直接、大量の商品を集めることで、途中の人件費や輸送費を極力省いている。商品担当の久木邦彦専務は「メーカーの値上げ分をコスト削減で吸収すれば、店頭に反映させずに済む」と話す。

 イトーヨーカドーなどを展開するセブン&アイ・ホールディングスも「基本的に店頭価格は上げていない」という。大手小売りが値上げ回避に腐心する背景にあるのは、消費者の厳しい目だ。

 スーパーの特売情報をインターネットなどで流すサービスが、人気を集めている。情報提供サービスのナビット(東京)が運営する「毎日特売」は、若い主婦を中心に約70万人が利用している。最新の特売情報を携帯電話にメールで配信し、主婦らは情報を頼りに目当てのスーパーに足を運ぶ。

 景気拡大と言うが、一般サラリーマンの給与は伸び悩む。所得税の定率減税廃止による負担増もあり消費者の財布のひもは固いままだ。小売り各社は「値上げをすれば、消費者は防衛策として、特売品をまとめ買いするなどの『選択消費』に走る」(イオンの久木専務)と、売り上げの減少に強い危惧(きぐ)を抱く。

 実際、イオンでは、割安な自社開発商品のマヨネーズが売れ出した。大手メーカーの製品を値上げしたわけではないのに自社開発品の売り上げは約6割伸びるなど、「選択消費」の兆しが見え始めている。

 値上げが、売り上げ減をもたらしかねない「危険な賭け」であるのは、メーカーにとっても同じだ。

 10月31日、業界でいち早く値上げを表明したキリンビールでは、早朝から営業マンが得意先を駆け回った。「価格改定のご説明」と題した資料を手に、「大麦は昨年の約2倍に高騰しています」などと来年2月の値上げに理解を求めた。

 ただでさえビールの売り上げは減少傾向にある。キリンの役員会では「市場を更に冷え込ませることにならないか」と不安がる声も上がった。「顧客の反応が怖い」のは小売りと変わらない。

 作ればモノが売れた高度経済成長期にはメーカーが価格決定権を握り、70年代の石油ショックは「狂乱物価」を引き起こした。かつてのようにモノが簡単に売れない今日、原材料費が高騰してもすんなり価格転嫁できない。消費者の視線に恐々とするメーカーや小売りの姿がある。

毎日新聞 2007年11月20日 東京朝刊

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