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医療クライシス:検証・緊急医師確保対策/3 研修医、都市でも足りず

 ◇集中是正、効果は疑問

 「臨床研修で必修となっていないため、研修医が来ない診療科はいくつもある。地方での研修期間を増やしたら、どんな反発が出るか」。杏林大病院(東京都三鷹市)の研修担当、赤木美智男教授は苦笑する。

 厚生労働省は緊急医師確保対策として来年度から、大都市の病院に所属する研修医が医師不足地域の病院で一定期間研修した場合、研修医の所属病院に経費を補助する。現在も2年の研修期間のうち、中小の病院などで1カ月以上の地域医療研修を義務付けているが、半年程度研修した場合を補助対象にするという。

 狙いは「研修医の都市集中是正」だ。東京、大阪、京都、福岡の4都府県から、人口比の医師数が全国平均以下の地域への派遣を想定。厚労省医事課は「研修医とはいえ医師不足地域に医師が増える。研修を機に、地方に定着する医師が出るかもしれない」と話す。

 だが、杏林大病院が08年度に採用する研修医(定員75人)は、追加募集をしても約40人の見込み。赤木教授は「都市部でも研修医が集まるのは一部の病院。勤務医が減る中、研修医は将来の大学病院を担う有力候補で、地域に派遣する余裕はない。研修医も地域で長期の研修を望むかどうか」と首をかしげる。

 日本大板橋病院の臨床研修センター長、塩野元美教授も「医師不足地域では“見習い”の研修医が1人で治療する可能性もある。遠方での研修は目が届かず、管理しきれない」と危惧(きぐ)する。

   ■   ■

 愛知県岡崎市の中心部から約12キロ東の山間部にあるデイサービスセンター「額田365」。岡崎市民病院の研修医、松岡歩さん(32)は今月下旬、約20人の高齢者とレクリエーションなどに参加した。県へき地医療支援機構が05年度から始めたプログラムで、希望する研修医が2週間、県内のへき地で地域医療研修を受ける仕組みだ。

 岡崎市民病院には、同センターの通所者が救急搬送されることもある。救命救急科を志望する松岡さんは、患者の日々の医療を知るためプログラムに参加した。研修を通し「カルテの記号でしか患者を見ていなかった」と反省したが、「地域医療に進みたい人は、初めからこの分野に重点を置く研修病院を選ぶのではないか」とも話す。

 昨夏にこの研修を受けた名古屋第一赤十字病院(名古屋市)の医師、渡辺慶介さん(28)は、患者と深く接する地域医療に魅力を感じた。だが、「将来的には地域医療も選択肢の一つ。でも専門の医療が何もできない段階では考えられない」と、研修終了後も同病院にとどまった。

 プログラム作りに携わった愛知県がんセンター愛知病院の橋本淳・地域医療支援室長は「100人のうち1人でも、地域医療を選ぶ人がいれば。ただ、研修期間を延ばすだけでは良いことはない」と語る。

   ■   ■

 厚労省医事課によると、実は大都市部の研修医は減少している。現在の研修制度が導入される前の03年度に比べ、07年度の採用数は▽東京390人▽大阪106人▽京都129人▽福岡96人--の減少となった。

 同課は都市集中是正策について「まだ都市部の研修医が多いため」と説明する。しかし、研修医の適正数については「分からない」と話し、「地方から研修医が足りないという声がなくなった時が適正なのでは」と言う。=つづく

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 ご意見、ご感想をお寄せください。ファクス(03・3212・0635)、Eメール t.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp 〒100-8051 毎日新聞社会部「医療クライシス」係。

毎日新聞 2007年11月30日 東京朝刊

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