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価格恐々:食品値上げの今/上 迫る大波、消費者実感薄く

大型船(後方右)から運び出された米国産大豆=横浜市磯子区で15日、竹内幹撮影
大型船(後方右)から運び出された米国産大豆=横浜市磯子区で15日、竹内幹撮影

 ◇続く「特売」、小売りが防波堤

 横浜港に面した日清オイリオグループの食用油工場。15日、1隻の大型船が工場前に接岸していた。米国中西部で収穫された大豆2万6000トンを運んできた。サラダ油(1500グラム)で約300万本、豆腐なら約2億6000万丁分の量だ。

 港の岸壁に、荷降ろし作業を見つめる大込一男社長の姿があった。急騰する大豆価格の行方が気がかりだ。前日のシカゴ商品取引所で大豆の先物価格は、19年ぶりの高値をつけた。「このまま高止まりすると苦しい」(大込社長)

 大豆をはじめ、小麦、トウモロコシといった主要穀物の国際相場は、この1年ほどで2倍前後になった。主要産地の米国では、原油高に伴ってバイオ燃料の需要が急増しており、原料のトウモロコシが高騰。大豆や小麦のトウモロコシへの転作も進み、不足感が穀物全般に広がっている。

 原油価格も、史上最高値の更新が続き、1バレル=100ドル時代は目前だ。この影響で、海上輸送費が大幅に上昇し、船賃込みの日清オイリオの大豆調達コストは、この1年で、1万トン当たり約1億3000万円も増えた。同じく原料に使う菜種の高騰分を含めると、年間では300億円以上の利益を吹き飛ばす。港を見下ろす大型船は、さながら「値上げを運ぶ船」のようだ。

     ■

 「コスト削減など企業努力は限界に来た」。食用油国内最大手の日清オイリオは10月、サラダ油など家庭用油を16年ぶりに値上げした。同様に値上げが発表された食品のリストは日々、長くなる。マヨネーズ、パン、パスタ、即席めん、みそ、ビール--。どれも、輸入穀物の高騰と、原油高が主な要因だ。

 ところが、食品メーカーが発表する値上げと、日々、消費者がスーパーなどで目にする価格には、ギャップがある。

 群馬県大泉町の久保田直子さん(40)は、5人家族の主婦だ。マイカーで買い物に出かける途中、ガソリンスタンドの値段表示をチェックしてはため息が出る。「また、上がった」。でも久保田さんは不思議に思う。「テレビや新聞は、食品の値上げも連日、伝えているのに、スーパーでは、実感がない」

 久保田さんが利用する近所の食品スーパーは、ハウス食品の「バーモントカレー」(250グラム)を228円(税込み)で売っている。ハウスは11月1日出荷分から希望小売価格を270円から295円(税別)に上げると発表した。なのに、値上げ前の希望小売価格すら大幅に下回っている。

 このスーパーには、食品メーカーから値上げ要請が相次いでいるが「ほとんど受け入れていない」という。相変わらず、格安の特売品が店内に並ぶ。特売の原資は、メーカーから受け取る販売促進費などのリベートだ。

 それでも、一部の人気商品は「すでに値上げしている」とスーパーの担当者。キユーピーマヨネーズ(500グラム)は278円で春先より1割程度高い。近くの別のスーパーも「特売品以外の商品は、上げ始めた」という。目立たないが、値上げは静かに進んでいる。

     ■

 海を渡って押し寄せる原材料値上げの大波。食品メーカーを直撃したものの、小売業者が防波堤となって、消費者の実感は薄い。だが、穀物や原油の高騰が続けば、いずれは限界が来る。本格的な値上げ時代はそこまで来ている。

毎日新聞 2007年11月19日 東京朝刊

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