「明日の社会を見つめ、明日の世界を創造する」をテーマに、高校生が自らの視点で社会や暮らしの中に課題を見つけ、その解決策を提案する「第14回全国高等学校デザイン選手権大会」(東北芸術工科大学主催、文部科学省、経済産業省、山形県、山形市、毎日新聞社など後援)の決勝大会が10月21日、山形市上桜田の東北芸術工科大で開かれた。31都道府県396チームのうち、1次審査を通過した12チームが登場。3人1組で舞台に立ち、音や映像、模型などを使って、問題提起するとともにその解決策を分かりやすくプレゼンテーションした。審査項目は着眼点▽分析力▽発表力--など。優勝の文部科学大臣賞には、食品ラベルと同様、兵器にラベルを張り付け、製造国や製造企業株主、製造費で何千人の人を救えるか、などを明記することを提案した神戸市立科学技術高の「Made in ....」が選ばれた。高校生たちの斬新な発想とみずみずしい感性に、審査員と観客から惜しみない拍手が送られていた。
◇環境など多岐な問題、自らの視点で解決策提示
高校生が自らの視点で自由に問題を発掘するデザイン選手権。第1次審査も含め全体的に環境問題を扱ったものが多かったが、決勝大会では、教育、介護、災害援助など扱われる分野は多岐にわたった。
準優勝は、岩手県立盛岡工高の女子生徒3人が提案した「地方発めんこいメイク」。雑誌やテレビなどで情報化が進んだ結果、若者のファッションが東京・渋谷などに画一化されている点に着目し、地方の特産物などをイメージしたメークを化粧品として売り出すことを提案した。プレゼンでは、さまざまな色を組み合わせ、地元岩手の石割桜の他、山形のサクランボ、徳島のスダチなどもメーク化してみせた。「おしゃれを意識した女子高生ならではの発想」と評価された。
3位は、地球温暖化問題を念頭に置いた静岡県立伊東高城ケ崎分校の「エコルーフ」。小さな穴の開いた瓦を屋根に設置し雑草を自然繁茂させることで、家の断熱、二酸化炭素の減少などの効果が見込めると解説した。建築家の審査員は「(強い生命力を持つ)雑草の特性を生かし、無理なくできる」と評価した。
毎日新聞社賞には、青森県立青森工高の「The sixth subject」が選ばれた。いじめ問題などを契機に、従来の5教科に加え、人の心をデザインする第6教科を提案。「教科書は自分たちで作るもの」という考えに基づき、自殺した子供の遺族に直接話を聞きに行ったり、自衛隊の訓練を体験するなどのプログラムを掲げた。審査員からは「大学で教えたいぐらいだ」との声が上がった。
会場を訪れた市民が投票する市民賞は、横浜市立横浜商高の「世界芸術スマイル選手権」が獲得。各国兵士も笑い転げれば戦争どころじゃなくなるという発想から、言葉の壁に関係なく誰もが知っている世界的芸術作品を、皆が笑ってしまうようアレンジすることを提案した。
来場した高校生が選ぶ高校生賞は、私立愛知工大名電高の「幸せのチョコレートプロジェクト」。手榴(しゅりゅう)弾、つぼなど6種類のチョコレートを販売し、戦地に向かう少年兵、水不足に悩む地域など、世界各地の子供たちが置かれている惨状を、日本の子供たちに知ってもらいたいと考えた。
◆優勝・神戸市立科学技術高
◇兵器も製造責任を--平和の重み感じて
「我が社がこの爆弾を造ったのだと、誇りを持って示してください」。迫力に満ちた言葉に、会場は水を打ったように静まり返った。
優勝した「Made in ....」を提案したのは神戸市立科学技術高2年のジェップ・テゥン・アン君(17)と梶原千種(ちぐさ)さん(16)、1年の田中天(てん)さん(16)。ジェップ君が起案し、同じ美術部の梶原さん、田中さんとチームを組んだ。
3人が関心を持ったのは、戦争によって利益を上げながら、軍事機密などを理由に表に現れない兵器製造会社の存在。生産地や原材料などの表示を義務づけられている市販食品同様、製造責任者を明確にすべきだとして、兵器にラベルを張ることを提案した。
ラベルには製造国や株主だけでなく、各兵器の莫大(ばくだい)な製造費用、それと同額のお金で5000人の水不足、2800人のエイズ患者を救えることなども表示。戦地の兵士が見た時の心の変化を期待した。
また、使用済みの兵器がリサイクルされ、異国の橋の建設などで平和利用されるケースも想定。多くの命を奪った戦地を記し、橋を渡る人々に平和の重みを感じてもらおうと考えた。
プレゼン後の質疑応答では、審査員を「プロである私たちが真っ先に提案しなければならなかった課題」と、うならせた。3人は「兵器はどこで造られ誰を悲しませているのか、皆に想像してもらいたい」と話した。
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■審査委員長の言葉--宮島達男
◇平和の競争
今回、出場したすべての高校生に「感動をありがとう」と言いたい。
本大会は、創造力豊かな若者を育成し、この世界を幸せな社会に変えていこうとする強い意志を持って開催されています。今回も平和な社会や幸せを求める純粋な高校生たちのアイデアがあふれていました。私自身、このような大会で順位を決め、競争させるのがふびんでなりません。
ところで、原水爆という悪魔の力は、米ソの競争によって驚異的に発達してしまいました。しかし、それに対する平和の競争はいまだありません。全国高等学校デザイン選手権大会があえて競争を取り入れている点は、まさに、ここにあります。未来を担う高校生に平和や幸せを生み出す力強い創造力を獲得してもらいたい。それには、競争によって悔しい思いをし、失敗を繰り返し、何度でも挑戦しながら力をつける以外にない。そうして、本当にパワーが引き出されると思うからです。
競争を終えた彼らのまぶしい姿。彼らはきっと、現実の社会をも変えていく力を獲得したと確信できるのです。
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■審査委員の顔ぶれ
《審査委員長》
宮島達男 アーティスト/東北芸術工科大学副学長
《委員》
赤池学 (株)ユニバーサルデザイン総合研究所代表取締役所長
稲田真一 トヨタ自動車(株)デザイン本部デザイン管理部長
竹内昌義 建築家/東北芸術工科大学准教授
竹原あき子 工業デザイナー/和光大学教授
土川春生 (社)全国高等学校文化連盟会長
長澤忠徳 カルチュラル・エンジニア/武蔵野美術大学教授
中山ダイスケ アーティスト/東北芸術工科大学教授
馬場雄二 ビジュアルデザイナー/東北芸術工科大学名誉教授
降旗英史 東北芸術工科大学デザイン哲学研究所所長
松田朋春 (株)ワコールアートセンターチーフプランナー
松村茂 ビジネスプランナー/東北芸術工科大学教授
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◇上位チーム成績
《文部科学大臣賞》
●神戸市立科学技術高等学校
「Made in ....」ジェップ・テゥン・アン/田中天/梶原千種
《準優勝》
●盛岡工業高等学校
「地方発めんこいメイク」上山江梨子/大志田仁美/後藤美穂
《3位》
●伊東高等学校城ケ崎分校
「エコルーフ」持田咲季/吉田美里/應戸美咲
《毎日新聞社賞》
●青森工業高等学校
「The sixth subject」細越未緒/寺田千穂子/鳴海香澄
《市民賞》
●横浜商業高等学校
「世界芸術スマイル選手権」小松由香/横山亜由美/角皆友理
《高校生賞》
●愛知工業大学名電高等学校
「幸せのチョコレートプロジェクト」高山舞菜/中島宏美/川隅愛実
《入賞》
●仁賀保高等学校
「Network Timecapsule」佐々木泰寿/柴田友紀/柳橋奈々
●新庄神室産業高等学校
「災害レスキュー! ピース レンジャー」白畑麻美/奥山綾乃/佐藤美樹
●一宮工業高等学校
「形の変わる家」中村隼大/加藤昌也/出本拓己
●名古屋市立工芸高等学校
「サルの就職~サルでもできる介護ビジネス~」冨田高行/春木晃介/舟戸絵梨
●御船高等学校
「Let’s ベンジョイ ECO!」稲葉りえ/野々口愛美/徳光里衣子
●鹿児島工業高等学校
「はし袋健康チェッカー」迫田育美/宮里なぎさ/渡邊香織
《入選》
●盛岡工業高等学校
「Let’s 音エコ!」
●宮城県工業高等学校
「WORLD CHILD連合」
●東北生活文化大学高等学校
「Another Life~100人の100万通りの人生~」
●美術工芸短期大学付属高等学院
「懐色商店街」
●東根工業高等学校
「彩香計画」
●新庄神室産業高等学校
「ナショナル トレード センター」
●長井工業高等学校
「救援物資が届かない!? それいけ、とうちゃ君!」
●新座総合技術高等学校
「サガスンジャープロジェクト」
●大宮光陵高等学校
「全人類オタク化計画」
●芸術総合高等学校
「あ~とお化け屋敷」
●市川工業高等学校
「葬式進化論」
●文京学院大学女子高等学校
「何でもケータイ時代」
●川崎総合科学高等学校
「あんしん地域プロジェクト」
●岐阜商業高等学校
「緑化銀行~種が加速する温暖化の火消し役~」
●藤枝北高等学校
「田舎くらし」
●八日市南高等学校
「美しい農村風景を守れ!農村風景お助け隊!」
●大阪府立農芸高等学校
「過疎化~国民皆屯田兵計画~」
●淀商業高等学校
「IPV6革命」
●此花総合高等学校
「チューブ’S」
●関西創価高等学校
「楽・新・ブン」
●神戸市立科学技術高等学校
「Light down project」
●岡山東商業高等学校
「輪ールド大すきネットワーク」
●興陽高等学校
「不便再考Rethink the FUBEN」
●下関商業高等学校
「ソシオエコロジカルマーケティングで地球を救え!」
●愛媛大学農学部付属農業高等学校
「選挙スペクタクル21」
●今治工業高等学校
「エコ電化製品」
●九州産業大学付属九州高等学校
「老人の孤独死をなくす!」
●九州産業大学付属九州高等学校
「¥100 Revolution」
●御船高等学校
「ノウハウス」
●鶴崎工業高等学校
「ゴミcolor資源へ」
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■主催
東北芸術工科大学
■後援
文部科学省/経済産業省/山形県/山形市/毎日新聞社/山形新聞社/トヨタ自動車(株)/NEC/全国都道府県教育長協議会/全国高等学校長協会/(社)全国高等学校文化連盟/(社)全国工業高等学校長協会/全国商業高等学校長協会/全国高校デザイン教育研究会/日本デザイン学会/芸術工学会/基礎デザイン学会/(社)日本インダストリアルデザイナー協会/(財)日本産業デザイン振興会/(社)日本青年会議所東北地区山形ブロック協議会/(社)山形青年会議所/山形県デザインネットワーク/日本デザインコンサルタント協会
■協賛
トップツアー(株)
毎日新聞 2007年11月13日 東京朝刊