現在位置:asahi.com>暮らし>暮らし一般> 記事

「日本の調査捕鯨ノー」豪で噴出 総選挙控え与野党反発

2007年11月24日00時31分

 今月18日、日本の調査捕鯨船が下関港から南極海に向かった。国内でほとんど報じられていなかった捕鯨船の出航が、世界では大きく伝えられ、反発を招いている。総選挙を24日に控えたオーストラリアでは政治やメディアを巻き込む騒ぎに発展。20年以上続く調査捕鯨の捕獲対象に愛好家も多いザトウクジラが新たに加わったためだが、捕鯨をめぐり、日本がさらに孤立化する危険もはらむ。

 「監視の必要があれば、軍を派遣して追跡する」。豪州の野党・労働党の「影の内閣」で外相を務めるマクレラン氏は調査船の出航直前、記者団を前に語気を強めた。

 11年ぶりの政権奪還を目指し、優勢が伝えられる労働党は、政権交代が実現した場合、日本政府に捕鯨中止の圧力を強くかけるとともに、強硬措置すら辞さない意向をちらつかせる。

 対日関係を気遣って批判を避けてきたハワード政権も19日、ダウナー外相が「この残酷な行為を再考するよう求める」との声明を発表。市民の抗議行動も相次いでいる。

 日本の調査捕鯨は常に批判がつきまとってきた。だが今回の場合、生息数をめぐる科学手法や保護に関する論争が主だったこれまでの捕鯨、反捕鯨の対立とはやや趣が違う。「見るクジラ」として世界的に定着しているザトウクジラが焦点となっているためだ。

 ザトウクジラはひれなどで個体識別が可能とされ、回遊しながらジャンプするクジラに名前をつけて眺める楽しみ方が一般的に行われる。世界動物愛護協会豪州事務所のニコラ・ベイノン氏は「『調査』の名のもとにわざわざ遠くから来て大量に殺して帰るやり方が理解できない」と話す。

 また現地経済に直接かかわる点も見逃せない。ホエールウオッチングは大きな産業になっており、国際動物福祉基金(IFAW)の調査では、98年時点の豪州などオセアニア・南極地域の売り上げは38億円、関連産業も含めると132億円以上にのぼるという。

 批判は欧州や米国にも広がる。米国務省報道官は19日、ザトウクジラとナガスクジラの捕獲を自粛するよう求めた。英紙インディペンデントは19日の社説で「京都議定書で地球温暖化防止をリードするなど、環境問題で指導的立場にある国が、なぜクジラに思いやりを持てないのか」と痛烈に批判した。

 水産庁がザトウクジラの捕獲再開に踏み切ったのは、「ミンククジラだけでは南極海のクジラの生態系が分からない」というのが理由だ。

 かつては乱獲で急減し、60年代から捕獲をやめていたが、最近、南極海の日本の調査海域だけでも3万5000〜4万頭生息すると推計され、国際組織の国際捕鯨委員会(IWC)でも、年間10%以上は増えているとの見方で一致する。

 同庁は年間9000万トン程度で横ばいが続く世界の漁獲高について、クジラが大量の魚を食べることが影響している、と主張する。ミンククジラに加え、ザトウクジラなども管理していかないと「魚がどんどん減って将来的に大きな食糧問題になる」(水産庁遠洋課)と正当性を強調する。

 だがこうした日本の主張は必ずしも受け入れられてはいない。IWCの加盟78カ国のうち、捕鯨反対は42、容認は36とされる。5月末に開かれた総会では商業捕鯨の一時停止を支持する決議が賛成多数で採択された。

 投票をボイコットした日本は、IWCからの脱退を示唆するなど孤立を深める。国際社会の反発を招くザトウクジラの捕獲は、日本をさらに追い込みかねないとの指摘もある。

    ◇

 〈キーワード〉日本の調査捕鯨 IWCの決定で商業捕鯨が86年から一時停止(モラトリアム)されたため、日本は翌年から調査名目で南極海でミンククジラの捕鯨を始めた。その後、北西太平洋に広げ、捕獲対象種も増やしていった。

 今回は来春までに850頭のミンククジラのほか、ナガスクジラ、ザトウクジラ各50頭を加えた約1000頭の捕獲を予定する。

 鯨肉は調査費に充てるため市中で販売する。「調査の名を借りた商業捕鯨」(ニュージーランド)との批判がある一方、価格が高く、消費が伸び悩んでいる実態もある。

この記事の関連情報をアサヒ・コム内から検索する

PR情報

このページのトップに戻る