<盗撮被害を受けた女性>
「(頭の中が)真っ白ですね。信じられへん、まさか自分が、みたいな…。でも実際に(映像を)見たら、どうみても自分やし」
と話すのは、盗撮の被害を受けた大阪府内に住む22歳の主婦。
発覚したのは2006年。
きっかけは、身近なところからだった。
<盗撮被害を受けた女性の夫>
「僕の友だちから電話があって、『アダルトビデオのコーナーに、お前の嫁さんが写っているパッケージがあってん』と。そんな訳ないやろと」
盗撮された映像は、彼女がまだ高校生のころのものだった。
<盗撮被害を受けた女性>
「ひどい。言葉では言い表せないような」
<盗撮被害を受けた女性の夫>
「(発覚から)2か月くらいたってからかな、嫁さん本人も手首切ったりとかして…。気持ち的に不安定になることがあった」
本人も知らないうちに、一体、誰がどうやって?
盗撮DVDの製作現場を、サツ担が追った!
盗撮モノのDVDを数多く取り扱っている、大阪市内のある販売店。
<記者>
「ありますね、盗撮。ここらへんほとんどですね」
盗撮を堂々と売り物にするブースには、商品がずらりと並ぶ。
ほとんどが無断で撮影されたものだといわれ、レンタルショップでも貸し出されている。
インターネットでも、様々な盗撮DVDが氾濫(はんらん)する。
そして、その中身は…
サツ担はあるDVDを調べた。
映像は、脱衣所から始まる。
なんの警戒心もない女性が服を脱いでいく姿が映されている。
驚くべきことに、映像はさらに浴室の中にまで及び、体を洗う女性の真横で撮影されている。
奥には、母親らしき中年の女性の姿も…
映像には全て、女性の顔や体にぼかしはない。
盗撮被害の実態調査に取り組む平松さんは言う。
<盗撮犯罪防止ネットワーク・平松直哉代表>
「僕とこで過去解析したのは1,000本は越えてますんで、市場に出ているのはそんなもんではきかない。(DVD1本当たり)少ないもので50〜60人くらい、多いもので150〜200人以上の人が映ってますね。(被害者の数は)数十万ではきかないでしょ、はっきり言って」
こうした盗撮はおよそ20年前から始まったと言われ、いまではスーパー銭湯を中心に、関西で少なくとも40か所の浴場で確認されている。
そのうちいくつかのスーパー銭湯に、あの盗撮被害にあった主婦も通っていた。
<記者>
「盗撮された記憶はありますか?」
<盗撮被害を受けた女性>
「それは全然ないです。そこの銭湯に行ってこういう風なとこに座ったというのは、はっきり覚えている。でも、その横にだれがいたかとか、怪しい人がおったかは全然覚えていないです」
彼女が盗撮されたという映像を確認すると、その背景から1軒の浴場が浮かび上がった。
そこは、彼女が2002年ごろに何度か行った近所のスーパー銭湯だという。
<記者>
「(盗撮DVDの画像を見てもらい)これは間違いないですか?」
<銭湯オーナー>
「そうですね、ステンドグラスになって」
映像の背景からも、どうやら間違いないようだ。
<銭湯オーナー>
「考えられないですよね。こういうなん(盗撮)を商売にするなんて、世の中狂ってますもんね」
盗撮は更衣室や浴室で行われているが、一体、誰がどうやって盗撮しているのだろうか。
手がかりがないか。
我々は、何枚かのDVDをチェックしてみた。
<記者>
「ここで止めてください。これ、おかしくないですか」
カメラの動きと共に、浴室の鏡に写りこむ女性の姿。
手には何かカゴのようなものが…
どうやら、この中に盗撮の手口が隠されているようだ。
平松さんに盗撮セットを再現してもらった。
<盗撮犯罪防止ネットワーク・平松直哉代表>
「(シャンプーのキャップを取って)ここがレンズなんですよ」
お風呂セットの中に、小型カメラを忍ばせるのだ。
<記者>
「どこにビデオカメラが?」
<盗撮犯罪防止ネットワーク・平松直哉代表>
「(タオルを開きながら)この中に隠しております。いまでしたら小型化された録画機がありますから、もっとコンパクトになっています」
なんと、女性が女性を盗撮していたのだ。
では、盗撮DVDはどのようにして市場に流通したのか?
主婦が被害にあったDVDを元に、業者を追跡した。
4年前に販売されたというこのDVDには、連絡先などは一切記入されていない。
しかし、商品のバーコードからある企業が浮かび上がった。
「F社」だ。
トップは、200件以上の盗撮を繰り返し逮捕された過去を持つ男だ。
自宅兼事務所に向かった。
<管理人>
「もうおれへんわ」
<記者>
「もういらっしゃらない」
<管理人>
「変わってます。なんかね、CDRかようさん集めてコピーしてるか知らんけど、そんなんやってたんちゃう。ほんでなんか、警察もおったみたいやで」
<記者>
「警察?」
<管理人>
「違法ななんかやってたんちゃう」
関係者から教えてもらった携帯番号は…
(記者が携帯電話にかけてみる)
「(自動応答)おかけになった電話は、お客様の都合により、おつなぎすることができません」
手がかりは途絶えたかに思われたが、DVDにはられたホログラムに別の社名が記されていた。
「N社」。
調べると、その名の会社は大阪・日本橋に実在した。
<記者>
「社長はいらっしゃいますか?」
<N社従業員>
「おらへんけど、何?」
<記者>
「社長はどちらにいらっしゃいますか?」
<N社従業員>
「わからん」
<記者>
「連絡とってもらってもよろしいですか?」
<N社従業員>
「でも多分、取材とか受けへんし。基本」
そこで、割り出した自宅マンションに向かった。
<マンションのインターホンから>
「留守ですけど」
<記者>
「いつ戻られますか?」
<インターホンから>
「え?」
<記者>
「何時ごろお帰りになりますかね?」
<インターホンから>
「わかりません」
<記者>
「ちょっと連絡を取りたいのですが」
<インターホンから>
「あ〜」
数日間の張り込みも虚しく、社長は姿を現さなかった。
<記者>
「(部屋の)電気ついてますね、帰ってきてるんですけどね」
しかたなく取材を終えかけたその時、携帯電話が鳴った。
社長からだ。
<記者>
「盗撮のDVDを製作・販売されたという事実はあるんでしょうか?」
<N社社長>
「いや〜、私ども制作する必要性はどこにもありません。自社で流通させてたわけですよ」
N社は当時、このDVDを製作したわけではなく、問屋として卸したというのだ。
もちろん、盗撮DVDと知りながらだ。
<N社社長>
「要するに、現実的には法律違反じゃないんですよね、私たちは。問屋とかメーカーさんとかは、ほとんど刑事事件では罪にならないんです。現実的には、盗撮した人間だけが建造物侵入や条例違反とかで罪になる。どこのメーカーも問屋もビジネスですので、もうかるから手を染めていきました」
さらに、社長は過去に多くの盗撮作品を販売・流通させていたこともすんなりと認めた。
<記者>
「世の中に出回った作品についてはどう思いますか?」
<N社社長>
「今は本当に申し訳ないなと思ってます。やっぱりビジネスだから、利益を優先してしまった。その辺はものすごく反省している。「被害者」の件も、ものすごく反省している」
実際、盗撮作品の販売を規制する法律が日本には事実上ないという。
<大阪ふたば法律事務所・大橋さゆり弁護士>
「単にお風呂に女性が入っているというだけでは『わいせつ』には該当しないという判断が検察庁の方であるようで、製造・販売でいけているケースは名誉毀損(きそん)罪です。たくさんの女性が、自分の知らない間に裸体を商品化されて出回っているということを知らないんだけれども、被害はすごく広く世間に及んでいる。自分の裸体を近所の人が見ているかもしれない状態になっていることを分かっている人は少ないのでは」
盗撮被害にあった主婦は、自分のDVDが出ていることを知った後、うつ病を煩い、神経科に通う日々だ。
<盗撮被害を受けた女性>
「あの時、たまたまあのお風呂に行ったから撮られてたんで、もし違うところに行ってたら撮られてなかったやろうし、何も知らないのが一番よかったんですけどね。知らんかったら、いまも楽しくお風呂行けてたやろうし」
知らないうちに自分の裸が出回っていく恐怖。
しかし、この状況に行政も浴場側も有効な対策を見出せていない。
盗撮問題の根は深い…
|