AMDは11月19日、同社の新プラットフォーム「Spider」を正式発表した。このプラットフォームのチップセットとなるのが「AMD 7シリーズチップセット」である。ここでは、その最上位モデルとなる「AMD 790FX」の性能を比較検証してみたい。 ●HT3.0とPCI Express 2.0への対応が主な特徴 Spiderプラットフォームとも関連する話ではあるが、AMD 790FXのアーキテクチャ上の大きな特徴は、Hyper Transport 3.0への対応と、PCI Express 2.0への対応が大きなポイントとなる(図1)。
まず、HyperTransport 3.0について簡単に説明しておくと、従来のAM2プラットフォームの最大帯域幅は、動作クロック1GHz DDR(2GHz)×16bit×2(上下方向)で合計が8GB/secの帯域幅となっていた。HyperTransport 3.0では、動作クロックベースで1.8GHz〜2.6GHzまでのコンフィグレーションが可能となる。つまり、HyperTransport 3.0の理論値の上限を割り当てると2.6GHz DDR(5.2GHz)×16bit×2で合計20.8GB/secの帯域幅となる。 今回同日発表となったPhenom 9600/9500は1.8GHz DDR(3.6GHz)のHT Linkを持つので、1.8GHz DDR(3.6GHz)×16bit×上下方向で合計で14.4GB/secの帯域幅を持つ。今後、HT Linkが2GHzのモデルも登場することになっているが、この場合は16GB/secとなる計算だ。 ビデオカード用インターフェイスに採用されたPCI Express 2.0インターフェイスへの対応については、最上位モデルのAMD 790FXの場合、PCI Express 2.0 x16インターフェイスを2系統持っている。この各インターフェイスは、8レーン×2というコンフィグレーションに切り替えて動作可能なので、用意可能なビデオカード用インターフェイスは、PCI Express 2.0 x16×2スロットまたはPCI Express 2.0 x8×4スロットということになる。 今回テストする製品や、今後発売が予定されているAMD 790FX搭載製品は、PCI Express x16スロットを4基持ち、ビデオカードを2枚まで装着する場合はx16×2として動作。4枚装着する場合はx8×4として動作するようになっている。 ビデオカードを最大4枚装着できるマルチGPU技術「CrossFireX」に対応するのも大きな特徴となる。ただし、現時点では対応ドライバがリリースされていない。 このほかのAMD 790FXの仕様を確認しておくと、他の拡張カードなどに利用するためのPCI Express 2.0を6レーン分持っており、最大でx1×6スロットをノースブリッジだけで提供することができる。サウスブリッジはすでに登場しているSB600が利用され、AMD 790FXとはPCI Express x4で接続される。 ちなみに、AMD 7シリーズチップセットのSKUであるが、ここで取り上げるAMD 790FXのほか、デュアルグラフィック環境向けの「AMD 790X」、シングルビデオカード環境向けのバリューモデル「AMD 770」の計3製品がラインナップされている。 今回テストに使用するのは、AMD 790FXを搭載するGIGABYTEの「GA-MA790FX-DQ6」である(写真1)。ソケット周りのシルク印刷に「HT3.0」や「AM2+」、「DDR2-1066」といった文字が躍っており、新世代のマザーボードであることが印象付けられる。 PCI Expressスロットは、x16×4とx1の構成(写真2)。上下にある水色のスロットが優先スロットとなっており、ビデオカードを2枚まで装着する場合は、こちらへ装着することでPCI Express 2.0 x16で動作させることができる。 ちなみに今回のテストには利用していないが、MSIの「K9A2 Platinum」にも触れる機会を得たが、こちらのPCI Express x16スロットは隣接させず、1スロットの間隔を置いているのが特徴的だ(写真3)。2枚までの装着であれば2スロット占有型クーラーのビデオカードを利用しても、隙間があくことになる。むしろ拡張カードの増設を考えるとPCI Express x16スロットが1カ所に集中しているのは歓迎できる面もあるのだが、4枚装着によるCrossFireXを考慮するとK9A2 Platinumの配置のほうが良いと思う。このあたりは、使い方に応じて、製品選択時のチェックポイントとして押さえるべきだろう。 GA-MA790FX-DQ6に話を戻すと、本製品はPCI Express x1スロットを1基備えているが、マニュアルに掲載されているブロックダイアグラムを見る限り、このインターフェイスはノース側ではなく、サウスのSB600から延びていることが分かる(図2)。 I/Oリアパネルの構成は、LAN×2やUSB×6といった点に目が留まるほか、シリアルポートやPS/2×2といったレガシーポートも重視した作りが印象的だ(写真4)。 ●ATIの純正オーバークロックツール「AMD OverDrive」 AMD 7シリーズチップセットでは、新たに純正オーバークロックツールが用意されるのも大きな特徴となっている。NVIDIAの「nTune」、Intelの「Intel Extreme Tuning Utility」に続き、チップセットメーカー自らがオーバークロックツールを提供する格好となる。 そのツールは「AMD OverDrive」と名付けられている。元ATI製ビデオカードの設定ツールであるCATALYST Control Centerに搭載されるオーバークロックツールと名称が似ているが、まったくの別アプリケーションである。ビデオカード用のオーバークロックツールは“ATI” OverDriveの名称が引き続き冠せられ、チップセット用オーバークロックツールが“AMD” OverDriveとなる。ここでは、AMD OverDrive Version 2.0.9を利用して、その機能を紹介しておきたい。 AMD OverDriveを起動すると「System Infomation」の画面となる(画面1)。ここでは、CPUやメモリの動作状態を確認可能になっているが、AMD OverDriveはオーバークロック以外にも、システムモニターやベンチマーク、システムスタビリティテストなどの機能を持っている(画面2〜4)。 肝心のオーバークロック機能は、3種類の手法から選択することができる。このうち、手動で制御する方法は「Novice Mode」と「Advanced Mode」の2種類が用意される(画面5)。 Novice Modeは、初心者向けモードという名前の通り、スライダーでオーバークロックレベルを10段階に指定する方式のモードだ(画面6)。レベルを上げることでCPUクロックやメモリクロック、PCIクロックなどが自動的に調整されていくモードとなる。 Advanced Modeは、各種クロックや電圧、メモリパラメータなどを細かく設定していける上級者向けモードとなる(画面7、8)。こちらは利用しているCPUやマザーボードによって、設定できない項目もある。 もう1つのオーバークロック機能は、完全自動モードの「Auto Clock」である。こちらは、Startボタンを押すだけで、各種パーツの状態テストなどを行ない、自動的にオーバークロック設定を施してくれる機能である。場合によっては、このテストが数時間に及ぶこともあるそうだが、適切な設定を探るための試行錯誤を繰り返す手間を省きたい人には便利かも知れない。 ●NVIDIA製チップセットとの比較 それでは、このAMD 790FXを利用したPCのパフォーマンスをチェックしていきたい。ただ、本製品の特徴であるHT3.0やPCI Express 2.0に対応したチップセットは、競合他社となるNVIDIAからは現時点で発表、発売されていない。よって、ここでは同等の利用の仕方をした場合におけるチップセットの比較という意味で、CPUはAthlon 64 X2、ビデオカードはPCI Express 1.0接続のGeForce 8800 GTXを利用してテストを行なっている。環境は表1に示した通りだ。
【表】テスト環境
比較対象として用意したのは、NVIDIAのnForce 590 SLIを搭載するGIGABYTEの「GA-M59SLI-S5」である(写真5)。NVIDIAのシングルプロセッサ向けディスクリートチップセットは、今の時点でもnForce 590 SLIが現役で、nForce 6xx世代ではシングルプロセッサ向けは発売されていない。AM2がそれだけ延命しているということの証左でもあるわけだが、いずれにしてもPhenomによってチップセットの動きが活発化してくることになるだろう。 BIOSについてだが、GA-MA790FX-DQ6はバージョン「F2b」を適用した状態でテストしている。GA-M59SLI-S5は今年初めに出た最新版である「F7」を適用している。 では、まずはCPU性能からチェックしておきたい。テストはSandra XIIの「Processor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark」(グラフ1)と、PCMark05のCPU Test(グラフ2、3)である。 ここでは、Drystoneで若干の差がある以外は、ほぼ横並びのスコアとなった。マザーボードの違いによって演算性能の足かせが発生していないかを確認する目的のテストであるが、ここは決定的な違いが出るほどではないと判断していい。
続いてはメモリ性能のテストである。Sandra XIIの「Cache & Memory Benchmark」(グラフ4)、PCMark05の「Memory Latency Test」(グラフ5)の結果を掲載している。 L1〜L2キャッシュの性能は全般にnForce 590 SLIのほうが僅差で良好な傾向が見てとれるが、メインメモリのアクセス性能はむしろAMD 790FXを利用したほうが高速な結果が出ている。 しかし、PCMark05の側ではキャッシュからメインメモリにかけるすべての結果で、nForce 590 SLIの方がLatencyが低い結果となっている。メインメモリアクセスに性能に関しては、アプリケーションで上下してしまう程度の違いだが、キャッシュ性能はnForce 590 SLI環境の方が安定して引き出されるという解釈になる。
次に実際のアプリケーションを用いたベンチマークテストである。テストは、「SYSmark 2007 Preview」(グラフ6)、「PCMark Vantage」(グラフ7)、「CineBench R10」(グラフ8)、「動画エンコードテスト」(グラフ9)である。 ここでは、誤差と思われる差しかついていないテスト結果が多いが、時折nForce 590 SLIが飛び抜ける結果が見られる。気になるのは、PCMark VantageのHDDテストの結果で、AMD 790FXはここに大きなビハインドを背負う結果となった。 つまり、HDD性能が十分に引き出されていないために、HDDに依存しやすいアプリケーションでは大きなパフォーマンスロスが発生していることになる。チップセットの性能としては、この点から目を背けることはできず、残念な結果といえる。
最後に3D関連のテストである。アプリケーションは「3DMark06」(グラフ10、11)、「3DMark05」(グラフ12)、「Crysis Single Player Demo(CPU bench)」(グラフ13)、「Unreal Tournament 3 Demo」(グラフ14)、「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ15)である。 Unreal Tournament 3 Demo以外の結果は、いずれもnForce 590 SLIが優れた結果を出す傾向にある。Unreal Tournament 3のように、GPU/CPUともに負荷が低めのアプリケーションではAMD 790FXにも出番があるようだが、ここでもnForce 590 SLIの安定感の方が目立つ結果となっている。 ●Phenomのために用意されたチップセットという立場 以上の通りテストを実施してきたが、注意してほしいのは、今回の環境は「Spiderプラットフォームではない」という点である。あくまで、従来の製品をAMD 790FX上で動作させた場合の結果なのである。 こうした使い方において、全般にAMD 790FXが劣るシーンが目立ち、特にHDDの性能が伸び悩む傾向が見て取れた。そう考えると、従来のAM2対応CPU、つまりAthlon 64シリーズを利用するのであれば、性能を求めてAMD 790FXへマザーボードを乗り換える意味はないということになるだろう。 やはり、あくまでAMD 790FXは次世代環境向けの製品なのだろう。PhenomとPCI Express 2.0接続ビデオカードを利用するのであれば、本製品しか選択肢がない。当たり前のことではあるが、現状では、その当たり前のメリットが強く印象付けられる。 とは言え、新ブランドのCPUが出ることで価格が下がるであろう現行CPUに注目している人もいるだろう。新規に導入する場合、先のことを考えるならPhenom対応のマザーボードが候補に挙がるはずだ。 AMDが掲げたSpiderプラットフォームの通り、やはり、AMD 790FXはPhenomの性能を引き出すためにあるチップセットであり、そのPhenomによって存在意義があるチップセットという立場の製品といえる。 □関連記事 (2007年11月19日) [Text by 多和田新也]
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