単なる通信機能ではなく“社会”そのもの
しかし、こうした強力なサービスを利用しても防げない危険なケースもある。
東京都内に住む山本洋子さん(48歳)の息子の大介君(17歳)は、昨年、夏祭りに携帯電話のメールで呼び出された。友だちからのメールだったため、安心して祭り会場に向かったところ、到着してみると、友だちのほかに見ず知らずの男がいた。
大介君を見るなり、男は「お前の家の住所はこいつ(友だちのこと)から聞いた。逃げられないぞ。カネを出せ」と恐喝してきた。その場はなんとか逃げ帰ってきたが、その後、男は大介君の携帯電話に同様の電話を頻繁にかけてきた。
携帯電話が普及する前は、他人からの電話は親がまず出て取り次いだものだ。また、子どもは繁華街には夜遅くに行かないなど、比較的、トラブル防止策は立てやすかった。しかし、今では、悪事を企む輩は、携帯メールや掲載サイトを利用するなどして、巧妙に不特定多数の普通の子どもを罠に陥れることができる時代になってしまったのだ。
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ところが、大介君と洋子さんの関係は良好だったため、すぐにこのことを相談した。そして、洋子さんは対抗手段を取った。
大介君を呼び出した男は携帯電話でブログを作成し、毎日の生活を事細かに掲載している。そのブログのアドレスを知った大介君は洋子さんに伝え、洋子さんはブログを毎日つぶさに観察し行動を把握、その男の仕事が休みの場合など、大介君に近づきそうなときは大介君に注意を促すのだという。
危険な目に遭いそうなきっかけをつくったのも携帯電話なら、その対策も携帯電話による、という点で非常に現代的だ。
このケースでは大介君と洋子さんがよくコミュニケーションを取り、連携することで被害を免れている。ルールづくりや、携帯電話会社の提供する機能を知ることも大事だが、買ったあとの親子のコミュニケーションがなによりのトラブル回避策といえそうだ。
そもそも前述の有害サイトのアクセス制限のようなサービスも一方的に導入すれば、中学生以上の子どもならかえって強い反発を招く可能性もある。やはりコミュニケーションが必要だろう。
子どもの安全対策に詳しい子どもの危険回避研究所の横矢真理所長は「携帯電話は社会そのもの。携帯電話を持つことで社会にダイレクトにつながり、放り出される」と指摘する。携帯電話を電話やデータ通信機能の端末ととらえず、子どものポケットの中には社会そのものが入っていると考えたほうがいいのかもしれない。
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