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【レポート】

モバイルする点字装置「てんてん」 - PC接続で文字情報を点訳表示

(2) 情報化社会とアクセシビリティ

2004/08/05

井原久美子

ホームページの文字情報を点字変換・保存も、JavaScriptやFlashの影響

ストレートケーブルは同梱されている。将来は無線LANやBluetooth機能が搭載されたりするのだろうか

ウエブサーファーのインタフェース。右上部のコンテンツ欄にテキスト情報が抽出されている

てんてんのインタフェースはシリアルのみ。PCと接続する場合には、オプションのUSB変換ケーブル(11月20日までのキャンペーン期間中では同梱される)を使用する。

ホームページの閲覧には、IEではなく、専用ブラウザ「ウエブサーファー」を起動。メニューは「お気に入りや」「リンク」「更新」など、IEとほぼ変わらないが、ウィンドウは左1つ、右2つの計3つに区切られ、左には通常のサイト、右上部にはそこから抽出されたテキスト、下部にはリンクが表示される。点訳は、「IBUKI-TEN」と呼ばれる、岐阜大学工学部応用情報学科池田研究室が開発した自動点字翻訳システムが行い、その結果が円盤上に作成されるという仕組みだ。

さらに、読み込んだテキスト情報は、内蔵メモリに記録することもできる。サイト上でダウンロードできる点字文庫(1冊150〜200KB)なら、6タイトルまでの保存が可能だ。てんてんの最大の利点であるモバイル性を活用して、「旅行先でも気軽に持って行って、電車の中なら見えない景色の代わりに本を読むことができる」と内舘氏。現在は、既存の「しおり」機能などの他に、指定ページに移動できるような機能を開発中。近くアスクのホームページ上で更新できるようになる。

点字装置版PDAともいえるてんてんだが、韓氏は「音声読み上げソフトと相互補完する形が一番良い」と話す。「例えばてんてんなら、使用中でも(音声読み上げをしないので)周囲の迷惑にはなりませんし、気になる文章を保存したり、本体からリンク先へアクセスするなどの操作を行なうこともできます。ですが、音声読み上げソフトのように、複数の人と同時に利用するようなことができませんから」。

しかしながら、両製品とも、テキスト系サイトならほぼ問題がない反面、Flashや複雑なJavaScriptには弱いと韓氏は付け加える。「特にFlashは、(ウエブサーファーが)読み込まないよう、削除するのに大変苦労しました」と、韓氏。なんとか影響を受けずにテキストを抽出できるようにはなったと言うが、複雑なJavaSciptであれば「多少の影響は仕方がない」とする。

実は、こうした問題に関連して、日本規格協会から、Webアクセシビリティに関する日本工業規格(JIS)も出ている。しかし、こういった動きはまだ始まったばかり。Macromediaもアクセシビリティに関するセミナーを実施するなど、積極的に取り組んでいるようで、今後の動向が注目される。

点字装置の買い替えに助成金制度の壁

劇団ふぁんハウスの方々。てんてんは「台本を覚えるのに良さそう。パソコンで打った台本のファイルを皆に送っててんてんに保存してもらえば、いつでもセリフを覚えられるよね」。

この日は、展示場を訪れていたの方々に、てんてんを試用した感想を聞いてみた。なかでも劇団「ふぁんハウス」の方々は、「これまでと比べてだんぜん軽量なのがとても良い」と口を揃える。

同劇団の宮本朱美さんは「普通の人がちょっとペンやメモ帳を持つだけなら小さいカバンですむでしょうが、私達は、道端でメモをとるのにも大きな点字電子手帳を抱えて、座り込んで操作しなければいけないんです。その点、てんてんは小さくて、どこでも使えそう」と、まずはてんてんの良さをあげてくれた。けれど、「簡単には買えない」。

話しによれば、てんてんはまだ安価な方で、他社製品では20万円程度、高ければ60万円近くするという。ものによっては10万円程度の助成金が受けられるものの、助成金を受けられるのは「日常生活用具と呼ばれているものに関しては、一つでいいもの(一つで十分)だし、安く買えるものじゃないから、(助成金を申請できるのは)一度だけなんだと聞いています」と、宮本さん。内舘氏によれば、実際には「助成金を受けられる製品には耐久年数が設けられていて、それを過ぎればまた助成金がもらえる」とのことだが、「たとえ使い勝手の良い新しい製品に買い換えたくても、短期間のうちに2度は助成金を受けられない」。

また、その助成金支給も、「家族構成や、総合的な所得で決定される」とのことで、宮本さんは「知り合いには(所得を減らして)助成金を受けるために一人暮らしを始める人もいました」と、いかに点字装置を買うために苦労しているのかを、詳しく説明してくれた。

左奥で説明をしているのがアメディア営業企画部の内舘紀昭氏。「次は片手で入力できるようにしてほしい」というリクエストに「なるほど」と頷く

てんてん開発の背景にある視覚障害者のこと

最後に、土川氏は、てんてんのよさはもちろんだが、その背景にある問題点を知ってもらいたいと話す。

「(てんてんの)開発の根本としては、今多くの情報が視覚に訴えかけるもので、視覚障害者の方にとってより不利な状況になっているという思い、そして情報を等しくとることができないということは不公平であり、何とかしたいという思いからスタートしています。ですが、14万8,000円という値段で、10万円程度国から補助が出ても、約5万は負担しなければならないため、なかなか気軽には買い換えてもらえません。てんてんのピンがステンレスなのも、買い換えずに、長く使ってもらうためです。全国に視覚障害者は約35万人いるのですが、8〜9割の方が事故や糖尿病などで後天的に障害を負っています。そういった方は、点字を覚えようとして、何度も何度も力強くピンを押すので、普通の樹脂でできたピンではすぐにつぶれてしまうんですよ。情報化社会の背景にいる視覚障害者のことも、ぜひみなさんに知ってもらいたいですね」。


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