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クローズアップ2007:地下鉄民営化問題 大阪市長選「改革の象徴」争点に

 大阪市営地下鉄・バスの民営化問題が、市長選(18日投開票)の争点になっている。外部の視点で行財政改革を進めてきた「市政改革推進会議」委員長の上山信一・慶応大教授は「国政でいう郵政民営化と同様、大阪市改革の象徴」と位置付ける。しかし、市議会は批判的な意見が大勢を占め、有力4候補のうち早急な民営化を目指すのは現職だけだ。市民生活の足を民営化するメリットとデメリットは。民営化論の経緯と「損得」を探った。【堀雅充、高橋秀郎、脇田顕辞】

 ◇現職「推進」、3新人「反対」

 経営形態見直し論は大阪市の厳しい財政状況から生じた。06年度決算では、地下鉄・バス事業会計に企業債の利子補助や地下鉄建設費補助など総額約265億円が一般会計から繰り出された。建設資金などの借金にあたる企業債残高も総額約8290億円。元利償還で年492億円、利払いだけで年258億円に上る。

 市交通局は1月、改革型地方公営企業と株式会社化の2案を提示。公営企業では、市の負担は10年間で2831億円に上る一方、地下鉄・バスを一体的に維持できる。株式会社だと、市の負担は10年で743億円に抑えられるが、計約1430人の職員削減と約730億円の退職金負担などが前提となる。

 上山委員長は7月、赤字のバス事業を切り離す必要性を強調し、地下鉄単独の株式会社化が浮上。9月には「今の地下鉄なら民間の出資は可能」と述べた。

 だが、こうした動きに市議会が反発。地下鉄事業会計は最近2年間、黒字に転じており、「なぜ手放さなければならないのか」「黒字なら運賃を下げることを先に考えるべきではないのか」などの意見が噴出した。市内部にも「黒字基調は続くので、市の補助を実質なくしてもやっていける」との見方も出ている。

 ◇経済界、支持多く

 「民間企業の手法を取り入れれば、効率化やサービスの向上が進む」。大阪商工会議所の野村明雄会頭(大阪ガス会長)は10月、記者会見で強調した。経済界では民営化を支持する意見が多い。

 全国の地下鉄事業者は9自治体と東京地下鉄(東京メトロ)。東京メトロは04年4月に民営化し、政府と東京都が株式を保有。09年度にも上場を目指す。06年度決算は首都圏の人口増と景気の回復基調を反映して増収増益となり、借金(長期債務)を約250億円減らし、税金を払い、約70億円の配当も初めて行った。

 事業者の大半は、大がかりな設備建設に伴う借金が重荷になり、金利の支払いに四苦八苦。事業開始が遅い自治体ほど、建設の最盛期がバブル崩壊と財政難に直面し、市や国の補助金に頼る。また、一般企業に比べて人件費の負担が大きいのも特徴で、名古屋市や横浜市も賃金カットなど経費削減に乗り出しているが、効果は未知数だ。

 大和総研経営戦略研究所の中里幸聖・主任研究員は「公営は『公共性の確保』という数値化しにくい目標や『倒産しない』という性格から経営者や労働者の努力を引き出しにくい。今や弊害の方が大きい」と指摘する。

 経営のかじ取りは、経済成長の鈍化や人口減少などで厳しさを増す。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、近畿2府4県の人口は05年から30年間で15%超の約300万人が減少する。海外の事例に詳しい斎藤峻彦・近畿大教授(交通経済学)は「大阪市営地下鉄を民営化しても、運賃の大幅値下げなど過度な期待はすべきではないが、新路線選定時などでの政治介入の排除やビジネスの活性化などの効果は得られるだろう。広い視野で関西全体の発展のためどうするか、議論するべきだ」と話している。

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 ◇4候補の公約

 市営地下鉄・バスに関する有力4候補の公約は次の通り。

 橋爪紳也氏(46)=無新 株式会社化せず公営の経営形態を維持。民間交通事業者への運営委託などで収支改善を目指す。

 平松邦夫氏(59)=無新 地下鉄・バスは市民の貴重な財産。一体経営を維持し、関西圏交通の中核として発展できるよう改革。

 関淳一氏(72)=無現 地下鉄は市負担を最小限化し、市を主要株主とする株式会社へ移行を目指す。バスは抜本的に経営改善。

 姫野浄氏(72)=無新 黒字の地下鉄だけ民営化し、市バス赤字路線を切り捨てるのでなく、経営努力して市が一体的に直営する。

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 ◆主な鉄道事業者の06年度決算◆

          大阪市  名古屋市  横浜市  東京メトロ  南海電鉄

営業収益     1537   760   316  3677  1929

 人件費      547   242    88   903   --

営業損益      357   143    40   934   265

 補助金       89    49    57   --    --

 支払利息     253   243   146   212   107

経常損益      198   ▼44   ▼40   722   167

累積損益     ▼691 ▼3185 ▼2393  1112   111

長期債務残高   8070  7267  5192  7875  5151

職員数・人    5737  2598   864  9743  7497

平均年収・万円   733   707   761   827   595

平均年齢・歳   40.0  40.7  44.0  40.4  40.9

事業開始・年   1933  1957  1972  1927  1885

営業距離・キロ 137.8  89.1  40.4 183.2 154.8

初乗り運賃・円   200   200   200   160   150

(注)単位は営業収益~長期債務残高(有利子負債)が億円。3自治体は市営地下鉄事業。東京と南海は有価証券報告書から作成、連結決算、累積損益は利益剰余金。東京の人件費、東京と南海の年収は単独決算ベース。初乗り運賃の距離は東京が6キロ以内、残りは3キロ以内。▼は赤字、-は未公表かなし。

毎日新聞 2007年11月14日 大阪朝刊

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