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2007年11月08日(木曜日)付

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小沢代表続投―民主党への五つの注文

 民主党の小沢代表が続投を表明した。自民党との「大連立」は否定し、総選挙に向けて「死に物狂いでがんばる」のだという。

 福田首相との党首会談以来、民主党の屋台骨は大きく揺れた。党首が示した大戦略が党内の総スカンを食って否定され、自ら辞めると宣言したのだから、本来なら新たに代表を選び直して再出発するのが筋だったろう。

 だが、民主党は党の総意で小沢氏を引き留めた。この党を支持してきた有権者の落胆は大きいと覚悟すべきだ。あえて現体制で出直す道を選んだ民主党に、そして小沢氏に、五つの注文を贈りたい。

 ●独断専行は許されない

 今回の小沢氏の無謀な行動は、昔の自民党の派閥政治のにおいを感じさせた。領袖(りょうしゅう)が方針を決めれば、ことの当否は問わず派は一致団結して動く。

 このやり方は今や本家の自民党ですら通用しないし、オープンな議論による合意を重視する民主党の風土とはまったく相いれない。トップの決断で組織を率いる手法を否定するつもりはないが、独断専行では話にならない。

 ●党内の風通しを良くする

 大連立のような重大問題が、党首一人の腹だけで動いていいはずがない。菅直人代表代行、鳩山由紀夫幹事長らもその点で責任を免れない。

 参院選の大勝で小沢氏の威光が高まったのはいいが、逆に何でも代表の判断次第という風潮が生まれ、執行部内の議論や意思疎通が欠けていたのではないか。

 インド洋での給油活動をめぐって代表が雑誌に私見を発表し、党内を戸惑わせたのもその一例だろう。党内論議の風通しを良くするため、国会閉幕後に代表選挙をするのもひとつの手ではないか。

 ●大連立より政策力を鍛える

 小沢氏は大連立に傾いた理由に「党の力量不足」をあげた。その通りかもしれないが、小沢代表になってから「消費税率を据え置いたまま年金の基礎部分を全額税でまかなう」といった、現実味に疑問符がつく政策が目立つのも事実だ。

 大事なのは、総選挙に向けて政策力を鍛え、政権担当能力を増すことだ。

 ●スピード感を重視する

 参院選後の民主党には不満がある。「政治とカネ」の問題でも、給油新法の対案づくりでも、国民の関心が強いテーマでの動きが遅すぎるのだ。

 「ねじれ国会」で政治をどう前に進めるのか。参院で主導権を握ったのを生かし、新しい国会の姿を与党に先んじて国民に示していかねばならない。

 ●個別の政策協議は積極的に

 個別の政策をめぐる与党との協議には積極的に応じるべきだ。主張が重なる政策では妥協も辞さず、実現させることを重視する。その一方で、譲れないテーマはこれだと鮮明に対立軸を打ち出す。

 メリハリのある政治を見せてこそ、党再生への道が開けてくる。

肝炎和解勧告―政府は全面解決を急げ

 「和解の可能性があると判断できる」。大阪高裁はこう述べ、薬害C型肝炎をめぐる訴訟で患者と国・製薬会社の双方に和解を勧告した。

 全国5カ所で争われている集団訴訟で和解勧告は初めてだ。一審で勝った患者側は和解での早期解決をめざしてきた。国と製薬会社は早く和解を成立させ、幅広く患者を救済してもらいたい。

 原告の患者らは自らには何の落ち度もないのに、出産や手術の際、C型肝炎ウイルスに汚染された血液製剤を投与されたため感染した。

 製薬会社が副作用について適切な警告をしなかったため、危険性が医療現場に伝わらなかった。国も指導を怠ってきた。その二つが裁判を起こした患者らの主張だった。

 五つの地裁とも、判決は製薬会社の責任を認めた。このうち4地裁では国の責任もあると認定された。

 こうした判決の流れを受けての今度の和解勧告だが、大阪高裁は和解案を示すには至らなかった。患者と国との間で、なおも主張の隔たりが大きいからだ。

 国は被害を拡大させた責任を認めて謝罪し、真相を究明する。補償は原告全員を対象とする。原告以外の患者も含めた恒久的な支援策をつくる。原告はこの3点を和解の条件としている。

 舛添厚生労働相も「謝罪すべきは謝罪し、補償すべきは補償する」と表明している。ところが、一方で、国は血液製剤の投与の時期によって補償の対象をしぼる考えを大阪高裁に伝えている。これでは全員の救済にはならない。

 患者らは長い間、病気に苦しんできた。国は和解協議を引き延ばすことなく、患者の主張を受け入れるべきだ。福田首相や舛添厚労相はいまこそ指導力を発揮しなければならない。

 原告が和解の条件として肝炎患者全体に広げた対策を挙げるのは、B型と合わせて肝炎ウイルス感染者は300万人を超すといわれるからだ。放っておくと、肝硬変から肝がんへ進む恐れがある。

 この恒久的な対策については、敗訴が相次いだのを受けて、国がようやく重い腰を上げた。

 与党のプロジェクトチームは総合的な肝炎対策をまとめた。検査から治療まで継ぎ目のない仕組みを作るという。そのうえで、インターフェロンの治療を受ける患者に対し、本人負担を所得に応じて一定限度以下に抑えるというのだ。

 民主党は同じような法案を国会に提出している。症状の出ていない感染者も治療の対象にしているところが、与党案とは異なる。ウイルスは少ないうちにたたいた方が効果的といわれる。その点では民主党案の方がいい。両党で話し合って法律を早く成立させるべきだ。

 青森県で血液製剤による産婦の集団感染が明らかになってから20年。患者らの提訴から5年。全面救済に向け、これ以上、時間を無駄にしてはいけない。

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