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2007年11月13日(火曜日)付

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給油新法―接点を探れぬものか

 今国会の最大の焦点である補給支援法案が、衆院の委員会で可決された。今日の衆院本会議でも可決される見通しで、いよいよ野党優位の参院に送られる。

 法案成立の見通しは立っていない。参院第1党の民主党など野党の反対姿勢は固い。結局は否決され、衆院に戻して3分の2以上による再議決となるのか、与党側の出方が早くも注目されている。

 確かに、与野党の隔たりは大きい。

 与党の主張はこうだ。インド洋での給油活動は国際社会の「テロとの戦い」の一翼を担う。その戦列から日本が外れていいのか――。あくまで反対なら、党利党略優先の民主党に政権政党の資格はあるのか、と畳みかける構えである。

 かたや民主党は、アフガニスタンへの民生支援を軸とした対案をまとめた。参院ではイラクで活動を続ける航空自衛隊を撤収させるイラク特措法廃止法案を先に審議する作戦だ。給油新法の議決を先延ばししようとの狙いがにじむ。

 世論は割れている。朝日新聞の調査では、給油活動再開について「必要だ」が43%で、「必要ではない」が41%。ほぼ互角である。活動停止は日本の立場に悪い影響があるという声が50%だった。

 何らかの貢献策は必要だと思うが、給油がその回答なのかどうか、判断しかねている様子がうかがえる。

 9・11同時多発テロのあと、首謀者のビンラディン容疑者をかくまったアフガニスタンを攻撃したことには、国際社会の広い支持があった。私たちも日本が支援に参加すべきだと考える。

 給油は一つの選択肢かもしれない。だが、6年も続けてきてアフガン情勢はむしろ悪化している。燃料がイラク作戦に転用された疑惑は晴れず、情報を防衛省が隠蔽(いんぺい)した疑惑まで飛び出した。このままでいいのかどうか、立ち止まって考える時期である。

 新法なら明確に転用を防ぐ手立てがあるのか、国会承認の規定を外して民主的な統制は保てるのか。こうした点を詰める間もなく、与党側が衆院での可決に動いたのは、いかにも拙速だ。

 私たちは1日のテロ特措法の期限切れにあたり社説を掲げ、「テロとの戦い」の大きな構図の中でアフガン支援や給油を位置づけるべきだと主張した。

 まずイラク戦争支持や自衛隊派遣の誤りを総括し、自衛隊のイラク完全撤収を前提にアフガンを考える。そうでないと日本が果たすべき役割は何なのか、原則に立った議論ができないからだ。

 その意味で、参院でのイラク特措法廃止をめぐる論戦に注目したい。

 同時に、与野党にはアフガン支援のあり方について具体策を詰めるよう求めたい。何らかの貢献が必要だとする点で接点はあるのではないか。大連立の話とともに、与野党の建設的な政策協議まで消え去ってよいというものではない。

 大連立、さもなくば全面対決では、日本の政治はあまりにも貧しい。

税の無駄遣い―検査院は侮られるな

 残業をしていないのに、残業代をつける。予算を流用して裏金をつくる。入札をせず随意契約で発注する――。

 会計検査院の昨年度の検査報告には、公務員による税金の無駄遣いや不正経理の事例がずらりと並んでいる。その数は451件、総額310億円にのぼる。

 毎年のことだが、こんなにでたらめに税金が使われているのかと思うと、驚いてしまう。

 さらに今年の報告で驚かされるのは、検査院が無駄遣いなどを指摘していたにもかかわらず、それを無視する事例があることだ。

 山形県の置賜(おきたま)農業共済組合による補助金の不正受給もその一つだ。組合の加入者を水増しする手口で、国から負担金を余計に引き出していたことが指摘されたのは、3年前のことだった。

 ところが、農林水産省も山形県もほったらかしにしていた。今年になって検査院から再び問題にされ、ようやく県と組合が調査に乗り出した。しかし、国への返還が決まったのは、不正受給が報道されたあとだ。この問題では組合長の遠藤武彦・前農水相が大臣を辞任した。

 検査院は3年前、国立大学に対し、教員個人が受けた教育・研究への寄付金についても、大学で経理処理をするよう求めた。それにもかかわらず、いまだに教員が自分で処理をしていた事例が見つかった。検査院は再度是正を求めた。

 無視だけでなく、検査を妨害するところまで出てきた。

 カラ残業の問題で、長野労働局では局長が証拠となる文書を破棄するよう職員に指示していた。各県にある労働局は厚生労働省の傘下だが、今年の報告では、22の労働局がカラ残業を続けていたことを検査院から指摘されている。

 こうした役所の対応を見ると、会計検査院は侮られているのではないかと心配になる。

 検査院は指摘したあとも、きちんと是正されるまで何度でも指摘し続けなければならない。それでも改めなかったり、証拠を隠したりする公務員について、所管する省庁に懲戒処分を求めるのは当然のことだ。

 だが、それだけでは手ぬるい。

 会計検査院法では、検査の結果、犯罪があると認めたときは検察庁に通告しなければならないと定められている。ところが、この半世紀、通告は一件もない。悪質な不正をした公務員については、検査院は積極的に通告し、刑事罰を求めるべきではないか。

 一方で、会計検査院は我が身を律することを忘れてはならない。検査対象の独立行政法人などに、検査院の職員が天下るケースがある。そうした天下り先には手心を加えるのではないか。そんな疑いの目で見られかねない。

 他の省庁から軽んじられないためにも、不正を調べる側の厳しい節度が求められている。

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