[映画] 元慰安婦の軽妙トークに笑って泣いて
『オレの心は負けてない』が発する警鐘と励まし、自主上映会も募集
いわゆる「従軍慰安婦の問題」に抵抗を感じる人にこそ、見て欲しい。
在日朝鮮人の元慰安婦が、日本政府を相手に起こした裁判の10年間を追ったドキュメンタリー映画 『オレの心は負けてない』の自主上映会が、全国で行われている。
今週末の11月17日からは大阪で、12月1日からは東京の映画館で定時上映が始まる予定。制作・配給元では「笑えた、見方が変わったという感想が多い。慰安婦を『問題』としてでなく、『人』という視点で捉え直すきっかけにしてほしい」と呼びかけている。
【編集部注】映画の予告編は14日掲載します
映画の主演は宮城県在住の宋神道(ソン・シンド)さん(84)。
1922年に朝鮮に生まれるが、16歳のとき、親の決めた結婚が嫌で飛び出した先でだまされ、中国・武昌で駐留日本軍相手の“慰安”を強制されるようになった。
19歳のときに初潮を迎えてからは、たびたび妊娠する。2度は出産したが、近所の中国人家庭に子どもを預け、そのまま慰安婦として計7年“従軍”させられた。終戦になっても行くあてはなく、「結婚して日本に行こう」という日本兵の言葉に望みを託して博多港に渡るが、ほどなく置き去りにされてしまう。
絶望して自殺を図るが、宮城県在住の在日朝鮮人男性に救われ、男性が亡くなる1982年までともに暮らした。生活保護を受けながら細々と暮らしてきたが、1992年、運命が急転する。慰安婦問題に関わる4団体が共催した1回限りのホットライン「慰安婦110番」に寄せられた情報がきっかけで、スタッフの1人が宋さんを訪ねたのだ。
その後、東京で開かれた宋さんの証言集会をきっかけに、翌1993年1月「支える会」が発足。4月、日本政府に対し謝罪文の交付と国会での公式謝罪を求める訴訟を起こす。
請求は、99年10月に東京地裁で棄却、2000年11月に同高裁で棄却、03年3月最高裁で上告が棄却され、10年におよぶ裁判は敗訴が確定した。
そのとき、宋さんは「オレは、裁判に負けても心は負けてねえから」と笑顔で言い放つ。映画は、宋さんと「支える会」の出会いからその瞬間までの、宋さんと周囲の変化――鎧で身を固めていた宋さんが心を開き、人間関係を築いていくまで――を記録した。
映画紹介でここまであらすじを書いてしまってもいい理由は、文では宋さんのキャラクターが伝わらないから。身振り手振りを交えた鋭いぼけツッコミ、くるくる動く表情、即興の歌、踊り、間(ま)、早口、宮城弁と、とにかくキャラクターが際立っているのだ。
「洞察力、そしてそれを的確に表現する力がすごい。従軍慰安婦という体験が加わって、さらにこれらの能力を研ぎ澄まされたのだろうが、その能力が発揮される機会がなかった。だからこそ、何十年もの間、フラストレーションを溜めていたのだと思う」
プロデューサーの梁澄子さんはこう分析する。
誰も私の話を聞いてくれない、本気にしてくれない。その状態で半世紀。「支える会」が出会ったころの宋さんは“獰(どう)猛”だったという。
「とにかく信じてくれない。ウソをつかれたり騙されたり試されたり、という葛藤の連続という状態で、最初の5年間は過ぎた」(梁さん)
提訴から5年後、人間関係が築かれ始めた1998年4月に、「宋さんの言葉が持つ意味、表情、声、話し方を残したい」とホームビデオで撮影を開始した。その最初のセリフが、映画の中にも収められているこれだ。
「おめえ、命かけて戦う覚悟あんのか?」
「あるよ」
「じゃあ、ゲンマンすっべ」
各地の証言集会に出席し、経験を自分の言葉で語り、聞いた人の感想を聞きとることを繰り返していく中で、宋さん自身が、心身に深く追った傷を少しずつ癒し始めていたころだった。
そうして撮り溜めた50数本のビデオの編集を、最高裁判決後、韓国人映像作家の安海龍監督に依頼。全編を見た安監督が、映画にしようと申し出た。
慰安婦問題は、いまだ解決していない。宋さんは笑顔でその事実を突きつけ、そして「戦争はしてはいけない」と、ともに訴え続ける仲間を励ます。10年間、宋さんの言葉を間近で聞き、変化を見てきた梁さんは、宋さんが発するメッセージをこう語る。
「慰安婦は自分と同じ1人の女性。けれども、同じではない経験をしている。壮絶な経験をしたときに人間はどう変わるのか。私たちは、理解する努力は続けなければいけないけれど、同時に、理解しきれないという謙虚さも持たなければならない。そんなことにも気付かされる。慰安婦問題を知らなかった人、問題を堅いものと考えている人、近づきたくない人、すべてに見て欲しい」
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『オレの心は負けてない』―在日朝鮮人「慰安婦」宋神道のたたかい―
2007年
95分
監督 安海龍
制作・配給 在日の慰安婦裁判を支える会
上映予定
【上映】2007年11月17日~12月7日 シネ・ヌーヴォX(大阪)
2007年12月1日~12月30日 ポレポレ東中野(東京)
【自主上映会】2008年3月15日まで土日を中心に全国各主要都市で開催中。詳細および開催申し込みは公式ホームページから。